その作法は効率重視
「なんだ、そんな事ですか。 そんなこと言われないですよ? って言うか、ララーナさんはついてくるな的なことを最初にビシッと言ったんですよね? なのにあの人たちが勝手にせかせかついてきたんです。 完全に自業自得ですよ」
「でも、私は皆さんが戦ってるのに足を引っ張ってしまいました。 なんの役にも立てませんでした。 弱い自分も許せなくて、そう思ったら———なんだか胸が痛くなってしまいました」
眉を八の字に歪めながら、胸の辺りでキュッと拳を握るララーナ。 するとシェンアンは口をぽかんと開けながら、ララーナの顔を凝視した。
「ララーナさんの眉毛がクヨクヨ動きました! 動いた! 眉毛が動いた!」
シェンアンが騒ぎながら立ち上がる。
注文していた野菜スープとパンを持ってきた店主は、びっくりしながら急に立ち上がったシェンアンに視線を送る。
「ララーナさん! 今、悲しそうな顔してますよ! 眉毛が動くだけでこんなにも表情が分かるだなんて! 眉毛万歳! 眉毛! バンザーーーイ!」
謎の文言と共に、両手を天高く上げながら飛び跳ねるシェンアン。
店主は額から汗を滲ませながら料理を二人の前に置き、そそくさと退散する。
キッチンに戻った後も、嬉しそうに小躍りし始めたシェンアンをチラチラ見ていたが、当の本人はテンションが上がっているため全く気にしていない。
「ララーナさん! にっこり笑ってみてくださいよ! ほら、口角をこう! 目尻をこうして………」
シェンアンが上がったテンションのままララーナの顔をペタペタといじり出し、満足そうな顔でにっこり笑う。
「うわぁ! ララーナさん、ニコニコ笑うとこんな感じになるんですか! すっごく可愛いです! なんだか粘土でグニグニ遊んでるみたいですね! いや、ララーナさんのほっぺはぷにぷに柔らかいから、ぬいぐるみって言った方が正しいですかね? まあ、そんなことはどうでもいいでしょう」
料理が届いていることなどすっかり忘れているシェンアンは、鼻歌混じりにララーナの顔で遊び始める。
「シェンアンさん、私の顔で遊ばないで下さい」
「いいや! ララーナさんは顔の表情をもっとフワッと柔らかくしなきゃダメです! ほら、これは表情筋マッサージですよ! にっこり笑ったらこんなに可愛いんですから、アディール先輩もイチコロですよ!」
何気ない一言に耳ざとく反応するララーナ。
「イチコロの顔は、どうやって作るんですか?」
「ふっふっふ、パクッと食いつきましたね? 安心してください。 パターンをたくさん考えて、その時にあった顔を教えましょう。 ほら、これは私がこの前作った姿見の魔石。 魔力を込めるとあら不思議! 水の塊が出てきて、水面に自分が映るのです!」
自慢げな顔でポケットから魔石を取り出すシェンアン。 それを見てあからさまに興味を示すララーナ。
「全パターン教えて下さい」
「ふっふっふ、どーどー落ち着くのです我が盟友よ! まずはいつの間にか到着していたパンとスープをむしゃむしゃ食そうじゃないですか。 食休みしたら我が居城にご案内しましょう!」
ララーナの顔で遊んでいた手を中途半端で終わらせて、向かい側に腰掛けながら違うポケットから魔石を取り出す。
取り出された魔石には光の魔法陣と、小さな炎の魔法陣が描かれていて、キッチンからちゃっかり覗いていた店主は首を傾げながらその魔石を凝視する。
シェンアンが魔石に魔力を込めると、目の前に半透明の四角い箱が現れた。
すると何を血迷ったのか、シェンアンはその半透明な箱の中に野菜スープとパンを放り込んだ。
その光景を見て二度見する店主とララーナ。
しかし平然とした顔でシェンアンがまた魔石に魔力を込めると、半透明な箱がギュッと潰れてしまう。
動揺したララーナは、シェンアンに遊ばれていたせいで今だに半面が満面の笑み、もう半面は無表情の顔で額から汗を垂らす。
「シェンアンさん! 食べ物は粗末にしてはいけません」
「はい? なんのことです?」
何食わぬ顔で潰れてしまった箱から、いろんな野菜や黒パンの色が混ざった、よくわからない色の煎餅らしきものを取り出す。
「食べ物で遊んではいけません」
「え? だからなんのことですか?」
シェンアンは首を傾げながらその奇妙な煎餅をむしゃむしゃとかじり始めた。
ララーナは食事に手をつけず、美味しそうに食事を始めたシェンアンの顔を凝視している。
「どうしたんですララーナさん、食べないと冷めちゃいますよ?」
「その、それ、なんですか?」
ララーナは満面の笑みを作られた側の眉をひくつかせ、手を震わせながら魔石を指差した。
「煎餅製造の魔石です。 空間魔法でこの障壁内に入った物を圧縮してくれます。 若干、炎の魔石も含んでますがね! 水分は気体に変えて外に逃してくれるので、どんな食べ物もお煎餅にしてくれます。 今まで煎餅にできなかった食べ物はないですよ? ちゃんと食材が混ざり合いますし、食べるのも楽ですから。 私の最高傑作です!」
小さな胸を張りながら、得意げな表情をするシェンアン。
「よかったらララーナさんの分も………」
「結構です」
ララーナは慌てて黒パンをスープに浸して食べ始めた。
食堂からの帰り道、シェンアンとララーナは並んで歩いていた。
しばらく歩くとシェンアンが思い出したようにポンと手を打つ。
「そういえばララーナさん。 まだお話が途中でしたよね?」
「シェンアンさんが、私の顔で遊び始めてしまったからです」
元の無表情に戻ったララーナに指摘され、苦笑いしながら明後日の方向に視線を送るシェンアン。
「まぁまぁ、それは置いといて。 弱い自分が許せない。 そう言ってましたよね?」
ララーナはクッと歯をきしらせながら頷いた。
シェンアンは鼻を鳴らしながらにっこり笑う。
「表情筋マッサージの前に、私がララーナさんのどこら辺が弱いのかをジロジロ見てあげましょう。 私たち、同じ闇聖の刻印がついてますし、お役に立てると思いますよ?」
勢いよく振り向くララーナ。
「本当ですか?」
「嘘ついてどうするんですか? 我が居城はララーナさんを鍛えた後に向かいましょう! ささ! 食事の後は訓練! その後は私の居城で女子会ですよ! 念願のパジャマパーティーをしましょう! ではでは、張り切っていきましょう!」
スキップしながら先を進むシェンアンの背中を、ララーナは軽い足取りで追いかけた。
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