その機転は人命救助の功労者

「………とまあ、サラカ先輩がコソコソと脱走をくわだててなければ、わたしたちが駆けつけるのも遅れてしまっていたんですよ。 結果的にサラカ先輩が脱走しようとしてくれたおかげで、あなたたちをササッと発見できたわけです」

 

 得意げな表情で鼻を鳴らすシェンアン。

 ララーナは小さく息を吐きながらサラカに頭を下げた。

 

「命を救っていただき、本当に感謝します」

「よっよっよっ、よせやい! 俺は怒られちゃったからここで待ってただけだし、実際にララーナちゃんたちをここまで運んだのはシェンアンだぜ? ビークイットさんもすぐに応急処置してくれたから助かったわけだし、礼ならこの二人に言うべきだ!」

 

 顔を真っ赤にしながら視線を泳がせ、手足をバタバタと動かすサラカ。

 いまだに足をベットに繋がれているため、鎖の音がジャラジャラと処置室に響く。

 

「サラカさんも、すごく優しい方なんですね」

「………やめろよ。 おれはララーナちゃんのことを勝手な思い込みで悪く言っちまったんだ。 アディールと喧嘩した時の事も、今思えば全部俺が悪い。 だから俺は優しくなんてねえ」

 

 気まずそうな顔であさっての方向に視線を送るサラカ。

 

「優しいじゃないですか。 あなたはお友達のアディール君を心配してたからこそ、喧嘩してでも止めようとしていたのでしょう。 とっても優しいです」

 

 ララーナの視線を真正面から受け、モジモジし始めるサラカ。

 

「聞きましたよサラカ先輩! 私たちが出発してから帰ってくるまで、ずっとソワソワしながらベットの上をコロコロ転がっていたんでしょう?」

「わたくしの助手がぼやいていたわよ? サラカさんが、十分おきくらいのペースで『ビークイットさんたちはまだ帰ってこないのか!』って聞いてきて、最低でも三時間は帰ってこない、って言っても聞く耳持たなかったらしいわね? あの子、すっごく困ってたわよ?」

 

 ビークイットとシェンアンは悪そうな顔でニヤけながらサラカに視線を集める。

 

「だぁーーーやっかましいな! 心配するだろそりゃ! 相手悪霊だぞ?」

 

 手をバタバタと振り回すサラカ。

 それを見てクスクス笑いながら、大人ぶろうとしてる感満載の仕草で口元に手を添えるシェンアン。

 

「真っ赤っかになって照れなくてもいいんですよ? サ・ラ・カ・先・輩?」

「シェンアンお前、色気のかけらもねえな。 ビークイットさん並みにボンキュッボンになって出直せぺたんこチビ」

「よーし喧嘩かー? もちのろんで買いますよー! その脳天にゴツンとチョップをかまして………あいたっ!」

 

 ビークイットのチョップがシェンアンの脳天に降ってきた。

 

「脳天に刺激与えちゃダメよ。 殴るなら腹にしなさい」

「え? そこは止めようよビークイットさん!」

 

 キョトンとした顔で慌て始めるサラカ。 そんな三人に向けてララーナは深々と頭を下げた。

 

「命を救っていただき、ありがとうございます。 この御恩は結果でお返しします。 それとシェンアンさん、さっきはすみませんでした」

 

 頭を下げたララーナを見て、シェンアンは苦笑いしながら肩を窄めた。

 しかし………

 

「ああ気にすんなってララーナちゃん。 このチビはいつもいじられてるんだ。 ぶっちゃけララーナちゃんにいじられて嬉しかったに………グホォ!」

「なんであなたがちゃっかり私の保護者ぶってるんですか!」

 

 なぜか得意げな顔で返事をするサラカ。

 そんなサラカの腹部にシェンアンの脾臓打ちが炸裂し、サラカは腹部を抱えて悶絶し始めた。

 

「ま、私の事をビクビク怖がらないって事は、あなたもきっとガチガチに芯の強い方でしょうからね! よろしくお願いしますね、ララーナさん! 同じ闇聖の刻印を持つもの同士、仲良くニコニコしましょう!」

 

 笑顔で手を差し出すシェンアン。

 ララーナはガチガチに固定されていた腕をぎこちなく動かしながら、シェンアンが差し出した手に触れた。

 

「それにしてもララーナさん! あなたもよく考えましたね、上昇気流の魔石をあんな使い方する人を見たのは初めてですよ!」

 

 シェンアンが思い出したかのようにポン! と手を打った。

 

「ああそういえばそうね、確かにあの凧が無ければ発見が多少遅れてしまってたものね」

 

 ビークイットもシェンアンの話を聞き、納得したように頷く。

 

「何かあった時のために考えました」

「発煙筒とか狼煙だと、いつまでも上がってたりしないからね」

 

 ビークイットがララーナに、嬉しそうな笑顔を向ける。

 

「え? 何の話してんの?」

 

 仲間はずれにされていたサラカが視線を泳がせる。

 

「ダウジングの魔石を頼りにズベルサムシュ渓谷に到着したら、すぐに真っ赤な凧が目についたんです。 赤の発煙筒や狼煙は緊急救助を求める色なので、きっと皆さんもそこで戦ってると思ってすぐに向かったんですよ」

 

 迷宮内で予想外の強敵に遭遇し、逃走する際は赤の発煙筒や狼煙を上げることになっている。

 それを確認した場合、七等級を攻略経験のある守護者はすぐに急行、それ以外の守護者はすぐに逃げるよう厳重注意されているのだ。

 

「なるほどのう、他の守護者が近づかんように気を配ってくれておったか。 それがしはそこまで気が回らんかったわい」

「あ、エンハさんが起きました!」

 

 突然話に割り込んできたエンハに、シェンアンが視線を送る。

 

「ひさしぶりだのう、ぺしゃんこ娘。 元気にしておったか?」

「そのぺしゃんこ娘っていうのはなんか他のニュアンスに聞こえるのでやめて下さいって、いつも言ってるじゃないですか!」

 

 頬を膨らませるシェンアンを見て、サラカがニヤリと笑う。

 

「俺はいいと思うぜ? ビークイットさんの隣に立ったら余計に際立って………あっふぅ! ———ごめんなさい」

 

 シェンアンの肘がみぞおちにめりこみ、涙目で謝り始めるサラカ。

 

「おぬしらは相変わらずだのう」

「そんなことよりエンハ? あなた、ハナビちゃんにひどいこと言ったらしいわね? 駆けつけた時には、話も聞いてくれないような勢いで大泣きしてるし。 私が応急処置してるのに、ずっと気が動転しちゃってて大変だったんだから!」

 

 ビークイットが眉間にシワを寄せながらエンハを睨みつける。

 

「あ、ああ。 それはその………まずはハナビに謝らんとな。 と言っても、寝てしまっておったか」

 

 気難しそうな顔でぐっすりと寝ているハナビを見つめるエンハ。

 

「寝かしつけるのが大変でした。 あそこまであたふた慌てているハナビさんを見るのは初めてでしたよ」

 

 流石のシェンアンも、真面目な表情でエンハに視線を送る。

 エンハは渋々と言った顔で、ビークイットたちに戦いの詳細を伝えた。

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