その宣言は威風堂々

 夕刻前、魔力を使い過ぎてよろよろと歩くガイス。

 そんなガイスに肩を貸しながら、エンハはノルンの聖水がある大森林中央部に到着する。

 

 目的は訓練だったため、聖水を取りに来たのはおまけのようなもの。 うっそうとした森林の中に、眩しい光が輝き始める。

 太い蔦がその光を守るように絡み合い、自然が作り出した小部屋のようになった空間。

 

 見上げると絡み合った蔦は中央で輝く光を円形に囲んでおり、他の守護者が開けたであろう小さな隙間から蔦の間を潜って中に入っていく。

 中にあったのは巨大な砂色の結晶。 木々の間からしだれ落ちた細いつるが結晶を落ちないように支えており、天井から照らされた灯りのようになっている。

 その小さな空間だけは、見ているだけで時間を忘れてしまうような絶景だった。

 

 砂色の結晶からはポタポタと液体が垂れている。

 自然が作り出したであろう凹んだ大岩が受け皿となっているようで、大岩の凹みの中にはキラキラと光る液体が溜められている。

 ガイスはヨタヨタと歩きながらローブの胸ポケットから小瓶を取り出した。

 

「四等級だと、こんな感じなんですね? キラキラしてて綺麗だけど、神々しさはあまり感じないです」

「これっ! バチが当たるぞ? いいからそれを取ってはよう帰るぞ。 それがしは昨日の馬鹿どものせいでまともに寝ておらんのだ」

 

 エンハに急かされ、ガイスは大岩の凹みに小瓶を入れ、溜まっていた聖水で小瓶を満たした。

 

 ぐったりとした顔で帰路につくガイスたち。

 一日中大森林を駆け回り、エンハからのスパルタ指導を受けたガイスは、すでに魔力残量が三割を切りそうだ。

 少しでも無理をすれば激しい頭痛に見舞われるであろう。 それほどまでにガイスは必死に支援魔法の指導を受けていた。

 

 久々に骨のある若者を見つけたと喜んでいたエンハも相当気合が入っていたのだろう。 病院で散々からかわれた時とは違ってかなりご機嫌になっている。

 二人はセイアドロに戻る道すがら、何もない平原を並んで歩いて行く。 今日一日の反省点やこれからの訓練でどうしていくかを話し合っているのだ。

 透明な障壁に囲われた空間で、絶え間なく話し続けるエンハとガイス。

 

 そして街の正門に到着し、いつものように木札を門番に見せて、慣れた足取りで街の中に入っていく。

 夕暮れ時という事もあり、正門付近にはたくさんの守護者たちが集まっていた。 最後に街に帰ってきたガイスたちを見て、守護者たちはコソコソと話し始める。

 

「おい見ろよ、アディールさんの金魚の糞だぜ?」

「今日はアディールさんと一緒じゃねえぞ?」

「役に立たねえからアディールさんに捨てられたんだろ? 今度はエンハさんかよ、乗り換え早過ぎだろ」

 

 ケタケタと不快な笑い声を上げながら、嫌な視線をガイスに集める守護者たち。 エンハは特に何も言わず、チラリとガイスの表情を確認した。

 魔力も少ないせいで軽い眩暈を起こしているのだろう、浮かない顔つきをしている。

 

「エンハさんもなんであんなヤツと迷宮行ったんだろうな?」

「しかもよぉ! エンハさんと一緒だったのに帰ってきたのはこの時間だぜ? どうせあいつが足引っ張ってたんだろ?」

「違いねえな! 明日は誰に乗り換えるんだろうな!」

 

 人も多いせいか、聞きたくなくても自然と耳に入ってくる雑音。

 ガイスはそれを聞きながら、大きく深呼吸した。

 

「エンハさぁぁぁん! 今日はご指導ありがとうございましたぁぁぁ! 僕は、あなたが今日教えてくれたことを活かして、立派な守護者になって見せまぁぁぁす! 僕のことを認めてくれたアディールの顔に泥を塗らないように! これからも精進していくのでぇぇぇ! 今後もどうぞよろしくお願いしまぁぁぁす!」

 

 半ば叫ぶような大声で、隣にいたエンハに勢いよく頭を下げるガイス。

 正門前のざわめきが止み、この時間帯ではありえないような静寂に包まれる。

 その様子を見て、驚き目を見開くエンハ。

 先ほどまでコソコソ話していた守護者たちも、唖然とした顔でガイスに視線を集めていた。

 エンハは周りを見渡してから、肩を小刻みに振るわせる。

 

「ふふ、ワーハッハッハッハッハッハッハ! 小僧! おぬしはそれがしが見込んだ以上の男だったな! 驚いて声も出せんかったわい! ふふふ、これは鍛えがいがあるのう! おぬしには溢れ出る才能があるのだ! 将来は五聖守護者になるのも夢じゃないぞ! 少なくとも、格下だと思って戯言しかほざけん有象無象どもよりも、確実に強くなれる素質がある」

 

 腹を抱えて大笑いしたかと思ったら、突然凄まじい気迫で周囲の守護者を睨みつけるエンハ。

 先程までガイスを笑っていた守護者たちは、たまらず腰を抜かしてしまっていた。

 ガイスは少し頬を赤らめながら後頭部をポリポリと掻き、ゆっくりと頭を上げる。

 

「五聖守護者はさすがに………いえ。 アディールの隣に立つためなら、そのくらい強くならなきゃだめですよね!」

「よく言った! 明日からもビシバシいくぞい! それとガイスよ! それがしはたった今面白いことを思いついた! 昨日の酒場で少し話して行かぬか?」

「ぜひ! ご一緒させてください!」

 

 ニヤリと笑いかけるエンハの顔を見て、ガイスは心から嬉しそうに笑った。

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