その発見は衝撃の事実

 ビークイットはアディールにさまざまな仕打ちを与えた後、布団をかぶってうずくまる彼をベットごと処置室に運んで行った。

 彼女は水聖の刻印を宿した回復術師で、治癒効果が非常に高い治癒水を患者の体に注入することで傷を癒す。

 セイアドロでもかなり名の通った回復術師で、五聖守護者や十等級を攻略した守護者の回復を担当する。

 他にも手をつけられない重症患者中心に対応していて、回復術師の中でもエリート中のエリートだ。

 

 彼女が作る治癒水は、一気に体内へ多量摂取させるのは少々危険が伴う。 そのため大きな怪我は処置室で治癒水を点滴にしてゆっくりと投与するのだ。

 軽症なら治癒水を少しかければすぐに再生するが、サラカとアディールは中傷患者だ。

 サラカは頭蓋骨にヒビ、顎の骨骨折。 アディールは肋骨四本骨折と頬骨にヒビが入っている。

 骨折程度の怪我なら、ビークイットの治癒水を投与すれば数時間で治る。

 ビークイットは処置室に向かう前、ガイスたちに二人の状態を説明し、治るまでの期間を説明してくれた。

 

 サラカ、全治五日。

 アディール、全治十五時間。

 

 流石に頭蓋骨のヒビは少し厄介だ。 もし骨折していたら脳に支障を与える可能性もあったが、サラカの光のオーラがアディールの踵落としの威力を吸収したおかげでヒビで済んだのだろう。

 しかし、ビークイットは二人の症状を説明し終わった後、部屋を出ていく直前に満面の笑みでひとこと残していった。

 

「ちなみに、踵落としをくらったのがサラカ君だったから生きていたと思うけど、普通の守護者だったら即死級のダメージだったわよ? アディール君が完治したらじっくりとお仕置きするから、病院から出れるのは明日の朝だから! そう言うことで、よろしく頼むわね?」

 

 可愛らしくウインクしながら扉を閉めるビークイット。

 引きつった笑顔で見送ったガイスは、隣でムスッとしているエンハを複雑な表情で二度見する。

 二度見した後、ガイスは数分ごとにエンハの顔面、正確に言うと鼻先にチラチラと視線を送り始めた。

 チラチラ見られていることを悟ったエンハは眉間にシワを寄せ、さらに機嫌が悪くなる。

 

「ガイスよ、聞きたいことがあるなら普通に聞かんか。 いちいちチラチラ視線を送るでない」

「あ、すいません。 えーっとですね。 あー、そのー。 びっびっびっビークイットさんって、この街一番の回復術師の方ですよね? 遠征とかにも参加してるって聞いてます。 回復術の他に支援魔法もかなりの腕らしいですよね?」

 

 モジモジし始めるガイスにじっと視線を送り、エンハは顎に手を添えながら考え事を始めた。

 エンハの肩では笑い疲れたハナビがスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている。

 

「あやつにも支援魔法の手解きを受けたいのか? それなら話をつけてやるぞ?」

「あっ、あはは! ほ、本当ですか! わーいやったー! ありがとうございます!」

 

 困ったような顔で笑いながら、わざとらしく喜んで勢いよく頭を下げるガイス。

 

「それにしてもビリビリ小僧、悪霊相手にどう太刀打ちする気なのだ?」

 

 顎に手を添えながら唸り始めるエンハ。

 ガイスはキョトンとした顔でエンハをジッと見る。

 

「僕は悪霊を直接見たことないのでなんとも言えませんが、アディールの速さなら接近戦に持ち込めばどうにかなるんじゃないですか?」

「バカもん、あやつらは天災そのものと考えよ。 例えば近づく前に竜巻でも起こされてみい? 近づけるわけないであろう?」

 

 ああでもないこうでもないと意見を交換し合うエンハたちを、ララーナはジッと見ていた。

 

「相手の能力さえわかれば対応策は練れますよね? アディールなら危険な範囲攻撃も、持ち前の速さで範囲外に逃れるのは容易です」

「そうだのう、それがしもハナビがいるゆえ中距離攻撃も可能だ。 ビリビリ小僧も中距離の戦闘手段はあるが、接近戦と比べれば確実に威力が落ちる。 中距離戦を想定して作戦を立てた方が良いだろうな」

 

 エンハは肩の上で寝ていたハナビを一瞥した。

 すると、ずっと黙っていたララーナが急に二人の間に割り込んだ。

 突然の事に驚き、後ずさる二人。

 ララーナはそんな事お構いなしに、エンハの肩上で寝息を立てていたハナビにジッと視線を送った。

 

「なぜ、その聖霊は人型なんですか」

 

 ララーナの問いかけに、エンハは急に真剣な顔をした。

 突然雰囲気が変わったエンハを見て、ガイスは意味がわからず視線を泳がせている。

 

「おい、ララーナと申したな。 おぬしまさか、人型の悪霊に襲われておるのか?」

 

 ララーナは、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「あ、あの! 一体なんの話をしているんですか?」

「ガイスよ、よく覚えておけ。 聖霊は基本的に濃度の高い魔力の塊から産まれる。 濃度の高い魔力は主に自然現象で起こるものだ。 落雷や地震、津波や竜巻といった自然エネルギーの集合体の中から聖霊や悪霊が産まれる。 つまりのう、人型の聖霊は………なんらかの手段で人に憑依、または人の体から産まれた聖霊と言う事になるのだ」

 

 この世界での魔力は生命力に等しい、つまり自然の中にも魔力は存在する。

 アディールのように仕組みさえ理解すれば、同じ属性の魔力は自然エネルギーから吸収できるのだ。

 

 しかし魔力が多いものと少ないものもある。

 例えば今にも枯れそうな草や花、青々とした草と花では込められた魔力量が大きく異なる。

 故に魔力の塊が発生すれば、それは天災となるのだ。

 しかしガイスは訓練場でこの事はすでに学んでいる。

 だが先程のエンハの言葉に疑問を持ったのだろう。 ぽかんと口を開けながら首を傾げていた。

 

「聞きたい事は分かる。 人の体から生まれた聖霊、意味が分からんだろうなあ。 察しの通り、人と同じように妊娠し、産み落とすというわけではない」

「え? じゃあどう言う事なんですか?」

 

 聞き返すガイスの前にララーナが一歩踏み出してきた。

 二人から真剣な視線を向けられたララーナだが、貼り付けたような無表情は一切崩さない。

 しかし、彼女の動揺は額から一筋の汗となって流れ出ていた。

 

「大量の魔力を持った人間が………命と引き換えに全魔力を暴発させれば、濃度の高い魔力の塊が産まれる」

 

 ガイスはララーナの言葉を聞き、ハッとした表情になる。

 

「小娘、察しがいいのう。 ハナビはな、それがしの姉………ヒバナ・カグヅチが、命と引き換えにそれがしを守った際に産まれた聖霊だ」

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