その再会は波乱の前兆

〜その再会は波乱の前兆〜

 

 そこらじゅうのレンガが剥がれ、ど真ん中には大きなクレーターができてしまった中央通り。

 周囲の土壁もボロボロになっており、その光景を見ているだけで、アディールとサラカの戦いがとてつもなかったという事が痛いほど伝わってくる。

 気絶してしまったサラカを担架が運んでいき、アディールはそれを見送ってから通りのベンチに寝転がった。

 

「これっ! 何こんなところに寝転がっておる! おぬしもかなりこっぴどくやられておるではないか!」

「あ? 俺は大丈夫だから早くサラカについて行けよ」

 

 踏ん反りかえるアディールを見て、頬をひくつかせるエンハ。

 

「ったく、門番の若者が大泣きしながら街中駆け回っとったから、何事か!と思い慌てて来てみればこの始末。 おぬしらは大馬鹿者だ!」

「あーあー悪かったよ。 門番には後で謝っとくから」

 

 エンハは適当に返事をするアディールに物騒な視線を送りながら、指をパキパキ鳴らし始めた。

 

「おぬし、反省しておらぬな?」

「ま、まぁ落ち着いてくださいエンハさん!」

「この惨状を見て落ち着いておれるか! 街の中でどんちゃんやりおって! おぬしは少し五聖守護者の自覚がたらんぞ!」

 

 暴れ出すエンハを慌てて羽交締めするガイス。

 その様子を見てアディールは気まずげな顔で頬を掻いた。

 

「悪いが、俺はあいつと迷宮に行くって決めてんだ。 だからお前らになんと言われようが、俺はここで待つぜ。 だからその………心配してくれてありがとよクソジジイ」

 

 かしこまるアディールを見て、暴れそうになっていたエンハは大人しくなり、大きく息を吐く。

 

「はぁ〜〜〜。 何度も言っておるが、それがしはまだ二十代だ。 クソジジイはやめい」

 

 エンハは小さく鼻を鳴らしながらそっぽを向いて、しぶしぶ病院の方へ足を向けた。

 ガイスは寝転がるアディールにちらちら視線を送り、少し遅れてエンハの後を小走りで追いかけていく。

 野次馬に来ていた住民たちも徐々に帰路について行き、その場にはベンチに寝転がったアディールだけが残った。

 ようやく静まり返った中央通りでアディールはぼそりと呟く。

 

「ま、あのバカのおかげで目が覚めたぜ。 居眠りこいであいつとすれ違いになる心配は無くなったな」

 

 鞘がついていたとはいえ腹部に渾身の一撃を受けていたアディールは、冷や汗を浮かべながら腹部をさする。

 

「ってぇ〜! 肋折れてんなこれ。 つーことは多分、頬骨も折れてんじゃねぇか? 俺、明日動けんのか?」

 

 真っ赤に腫れた頬を優しく撫でながら、困った顔を浮かべて夜空を見上げるアディール。

 夜も更け、街の人々は寝静まっている時間帯。

 戦闘後でアドレナリンが出ているため、痛みは多少和らいではいるが、数分もすれば激痛が走るだろう。

 

「ま、最悪は電撃で痛覚麻痺させればなんとかなるか」

 

 アディールは少しでも自然治癒力を高めるため、軽く目を瞑り、深くゆったりとした呼吸をし始めた。

 この呼吸法は魔力回復にも効果がある。

 魔力を回復するには寝るか、リラックス状態を保つか、アディールやサラカのように特殊な方法で魔力を取得するなど方法はさまざまだ。

 

 この世界での魔力は生命力にも等しい、故に魔力の大幅消費は命にも関わる。

 残り三割を切れば頭痛やめまいを発症し、二割で失神、一割で心肺停止状態になる。

 魔刈霧で魔力を消費した場合も症状は同じである。 魔力は筋肉と同じで、酷使すればするほど総量が増える。

 普段から魔力を大量に使う守護者は、一般人よりも魔力総量が多い。

 

 アディールはペンデュラムを回したままリラックス状態を維持し続けたが、元々の魔力量がとてつもなく多いため、魔力の全回復まではかなりの時間を要する。

 その上折れた肋骨と頬骨は、徐々に痛みを増していく。 これに関しては回復術師による回復術を受けなければどうにもならないのだ。

 

 回復術には数種類あるが、このような骨折やひどい切創になると、光の力を使った時間遡行を除けば完治まで時間がかかる。

 しかし、時間遡行などの強力な回復術を使える回復術師はそうそういない。

 

 さっき担架で運ばれたサラカと一緒に病院に行っていたら、ララーナとすれ違いになってしまうことが確定してしまうのだ。

 アディールはベンチに寝転がったまま数時間、魔力の回復に専念していると東の空がほんのりと明るくなり始める。

 すると、ボロボロになった大通りの端からカツカツと足音が聞こえ始めた。

 足音以外にも、鉄の鎧が擦れる音が微かに響いており、アディールはゆっくりと体を起こした。

 

「おっ? やっと来たか。 つーか、朝早すぎじゃね?」

 

 パンパンに腫れた頬で、不器用に笑うアディール。 アディールの視線の先には、か細い体に似合わない武装をした美しい少女が歩いていた。

 少しクセのある藤色の長い髪に、人形のように表情が動かない可愛らしい顔。

 長いまつ毛に隠れた深海のように青い綺麗な双眸、見ているだけで心を奪われそうになる容姿。

 声をかけられた少女はチラリとアディールに視線を向け、凍りついたようにぴたりと足を止めた。

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