その決着は力の誇示


 サラカの一言を聞いて、目をまん丸に見開くアディール。

 

「だっておれはお前に勝ったんだぞ? そもそもおまえ、俺にも勝てないくせに悪霊をぶっ飛ばすとかほざいてたのか? 言っとくが今使ってんのは粘着糸だ、これが鋼鉄製のワイヤーなら今頃お前はミンチだぜ?」

「は? 寝言言ってんじゃねぇよ。 最初の一撃で急所狙わねぇでやったからてめぇは有利に戦えたんだろうが! つーか、最初に声かけたのは俺だ! あいつは俺の女だぞ!」

 

 アディールが苛立たしげに指摘すると、一瞬だけ納得したような顔をしたサラカ。

 しかし次の瞬間、顔をしかめながらブンブンと首を振り回す。

 

「ガキかてめぇは! んなもん結果論だ! 最初にどこ狙おうとしたかしらねぇが、たぶんおれなら、きっとどうにかしてた………と思うぜ! つーか最後なんて言った? お前、結局顔目当てで何も考えないで声かけただろ!」

「なっ! なにどっどっどっ、動揺して話し変えようとしてんだよ。 ちなみにお前、さっきの戦いだけどな! 最初の一撃で目を潰されてたらどうしたってんだ? あ? 手加減してやってたのは俺だろ! ボケが!」

 

 一瞬かなり動揺したが、慌ててさっきの戦いに話を戻そうとするアディール

 まんまと言い負かされたサラカは、困った顔で口をぱくぱくとさせながらゴニョゴニョ呟き出した。

 

「目、目か。 確かに目はやばいな。 避ける? いやムリだ。 あいつの速さには対応できない。 目を潰されたらそのあとどうやって戦うか。 魔力を吸収して目を治す? いやそもそも目を潰されたら攻撃が当たらない」

「おいおいおいおい! なに動揺してんだよ! お前が負けを認めんなら、許してやってもいいぜ! 早くこの糸解きやがれ!」

 

 間抜けな体勢のまま拘束され、指先以外動かせないにもかかわらず、偉そうな態度をとるアディール。

 サラカは言われるがまま糸を解こうとした瞬間、ふと我に帰った。

 

「いや! ちょっと待て! この喧嘩は相手の命を奪わないように戦うルールだろ? だったら俺の勝ちじゃねぇか! 倫理的に目を狙うのは絶対禁止だもんな! おまえ! 負けたくないからって俺を騙そうとしやがったな!」

 

 いきり立つサラカに、アディールは不敵な笑みを向けた。

 

「俺が負けた? なに勘違いしてんだよ。 まだ終わってねぇぞ?」

「負け惜しみかよ? まだまだガキだなテメェは!」

 

 勝ち誇ったような表情のサラカ。

 だがアディールはその顔を見て鼻で笑う。

 

「おまえ、やっぱバカだよな。 俺の能力はただ早く動くだけじゃねぇんだぜ?」

 

 次の瞬間、アディールからバチっと放電したような音が鳴る。

 そしてサラカは全身を硬直させ、苦しそうな表情に変わる。

 

「ぬぐぅあぁぁぁぁぁ!」

 

 全身をけいれんさせながら叫ぶサラカ。

 

「俺相手に糸を繋いじまうバカがいるたぁなぁ。 糸の形状を把握するのに時間がかかりはしたが、俺の時間稼ぎに悠長に付き合ってくれてありがとよ。 どうやらお前と俺は、相性が悪いみてぇだな」

 

 アディールはサラカが拘束してる糸から強力な電流を流した。

 糸は全てサラカにつながっているため、感電したサラカは動くこともできない上に、糸を外すこともできない。

 

 先ほどのやりとりの間、アディールはバレないよう僅かな電流を糸に走らせ、効率よく感電させるルートを探していたのだ。

 アディールは電気を纏い、自在に操る事ができる。

 脳からの電気信号を省略し、筋肉に直接電流を流し脊髄反射で高速移動する他、相手に触れて感電させたり接近しての放電。

 指先などに電気を集めて超強力な静電気を起こすことも可能だ。

 

 腰についているペンデュラムは、特注で作った発電機だ。

 ぐるぐると回せば充電もできる。

 つまり、警戒して攻めあぐねてしまうとペンデュラムをくるくる回して充電し続ける。

 先手必勝を狙い一撃で倒そうにも動きが早すぎて当たらない。

 

 さらには先にアディールの攻撃を一発でも受けてしまえば、感電して身動きが取れなくなる。

 先に触られれば体の自由を奪われ、攻撃しようにも速すぎて当たらない。

 アディールは能力の使い方が守護者の中で最も上手く、最も効率が良いのだ。

 

「サラカ、てめぇの敗因は一つだ! 触れれば勝ちの俺に対し、触れなきゃ能力を発動できないお前は………圧倒的に格下だったってことだ!」

 

 頬が裂けんばかりに口角を上げたアディールは、不自然な体勢から足だけを自由にした。

 脚に装着していた脛当てや膝当てに高圧電流を流し、高熱を発することで糸を焼き切ったのだ。

 そして自由になった脚で上半身を固定していた糸も全て焼き切る。

 けいれんしながら鋭い視線を向けてくるサラカにしたり顔を向け、天高く飛び上がった。

 

「てめぇがダチ思いってことは十分伝わった! 心配してくれてありがとよ! けどな! 俺はあいつと迷宮に行く! 邪魔するやつは誰だろうとぶっ飛ばして、俺があいつを助けんだよ!」

 

 空高く飛び上がったアディールは、車輪のように高速回転しながら落下してきた。

 けいれんしながらも危機を察知し、青ざめながら必死に体を動かして逃げようとするサラカ。

 しかし残念なことに体の痺れが取れず、思うように動くことができない。

 アディールは回転の勢いを殺さず、そのまま踵をサラカの脳天にめり込ませた。

 

 遠心力、重力、脚力。

 さまざまな力が加えられた渾身の踵落としは、強化したオーラで衝撃を吸収してもそこはかとないダメージになってしまう。

 

 大通りに、轟音が響き渡る。

 物騒な音を聞き、周囲の住民たちが恐る恐る様子を見にくると、中央通りのど真ん中に大きなクレーターができていた。

 

「一体何が起こっているの?」

「こんな夜中に、誰が暴れてるんだ?」

「な、なんだこの騒ぎは!」

 

 街の中を見回っていた衛兵隊がすぐに駆けつけ、クレーター内を覗き込む。

 クレーターの中央には、白目を剥いて倒れ伏しているサラカと、ドヤ顔で腕を組んでいるアディールが立っていた。

 事態が把握できず、首を傾げる衛兵の隣に侍のような格好をした大男が、血相を変えて走り込んでくる。

 

「おぬしらは! なぁにをやっとるんだぁぁぁぁぁぁ!」

「ようジジイ! おれ、こいつより強えってことが今分かったぜ? 五聖守護者最強はやっぱ俺だったな!」

 

 ニヤリと歯を見せて笑うアディール。

 

「バカかおぬしは! っと言うかまさか! 殺しとらんよな? おいサラカ! 生きとるか! おい衛兵! 急いで担架を持ってこんか!」

 

 エンハに声をかけられ、隣で呆けていた衛兵は慌てて駆け出した。

 

「うわ、派手にやったわねアディー! ねぇねぇエンハ! サラカとアディールの戦い、すっごく見たかったわね? ………あたしたち、損しちゃった気分だわ! 後であたしたちが見てる時にもう一回戦ってねアディー!」

「ハナビ! バカなこと言うでない! ったく、なんでそれがしが目を離した隙にこんな事になっとるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 エンハの悲痛の叫びは、夜中の中央通りにこだました。

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