短編:聖女ではなく女性として愛してほしい!

甘い秋空

聖女ではなく女性として愛してほしい!



「アップル! 聖女の資格を持たない貴女との婚約を破棄する」


 隣国にいた時の、嫌な思い出です。


 王妃教育で多忙だったこと、年齢的に次年度の受験で十分であると言われ、私は聖女試験をパスさせられました。それが、こんな結果になるなんて、誰かの策に、はまったようです。



 私は隣国の生まれで、1年前、隣国の王太子から婚約を破棄され、追放されました。

 今は、この王国で、知り合いに匿ってもらっています。


 長い金髪は隠せませんが、丸メガネをかけて、ソバカスを描いて、いつも変装しています。

 この学園には、1年生の終わりに途中入学し、もう、2年生が終わろうとしています。


 内緒ですが、学生寮の費用の足しにと、貴族のスキャンダルをタブロイド紙に売って、小銭を稼いでいます。



   ◇



 今日は、卒業パーティーです。スキャンダルを狙って、卒業される王子様の近くで聞き耳を立てます。


 王子様が、仁王立ちです。


「聖女候補の伯爵令嬢! 貴女との婚約を破棄する」


 銀髪の令嬢に宣言しました。


 この国でも、くだらないイベントがあるのですね。

 でも、これは記事になります。すぐにメモをとります。


「私は、この令嬢と婚約する!」

 王子様が、横を指さします。


 さっきまで横にいた赤毛の聖女候補は、他の男子たちと歓談中で、王子様の横にはいません。


 行き場を失った王子様の指は、真っ直ぐ、金髪の私を指しています。


「え? 君は誰?」


 銀髪の令嬢が笑いをこらえています。


「王子様、その地味な令嬢がお似合いです」

「では、婚約破棄された私は、こちらの男子たちと、お話しするので、失礼いたします」


 婚約破棄された銀髪の伯爵令嬢も、他の男子たちと歓談を始めました。



 まぁ、当然ですよね。王子様と結ばれる聖女には、キツイ、汚い、危険なお仕事が待っています。


 それよりも、聖女という資格を活かして、優良物件へ玉の輿になった方がお得という、貴族社会の現状です。


「なんちゃって聖女様ばかりですね」

 私がつぶやきます。



 隣国では、聖女たちの力が落ちてしまい、民が飢えて、クーデターが起こりそうと噂になっています。

 この国も、聖女たちの力が落ちてきており、先行き不透明です。


 聖女一人で王国全土に結界を張るなんてことは、夢物語です。

 王宮程度の広さなら、本物の聖女様であれば可能です。


 聖女は、平和の象徴として、民の意識を高めることが仕事です。


 そのため、聖女を、王都から離れた各地の街に、数名ずつ配置するのが、今の常識です。

 街の数だけ聖女が必要ですが、全く足りていません。



「聖女の資格を持てば、モテモテだからな」

 王子様も意気消沈しています。



 聖女の人員確保が急務な今、三級聖女の筆記試験なんて簡単で、3年生の女子の1割が持っています。

 そして、二級聖女の面接試験は、貴族で、高額な受験料を払えれば、だれでも合格できます。



「すまない、貴女と婚約することを、宣言してしまった」


 王子様は、国を救うため、優秀な聖女との結婚が義務となってます。


「私は、聖女の資格は持っておりませんし、事情があって、結婚は一生しないと決めています」



 王子様と私の会話なんて、もう誰も聞いておらず、生徒それぞれが歓談に興じています。


「貴女の名前を教えてくれないか」


「アップルと申します」


「アップル嬢、私は、君が横に立つのにふさわしい男になる。その時は、、、」


 この王子様も、聖女の資格があれば、誰でもいいと考えているのでしょう。

 だから、そこらの令嬢たちは、足元を見て、貴方に敬意を払わないのですよ。


「私は、もう二度と婚約破棄されたくありません!」


 パーティーが終わりました。



   ◇



 タブロイド紙に、王子が婚約破棄して、貧相な令嬢にプロポーズしたと載ってしまいました。


 私ではない他の誰かが、記事を売ったようです。たぶん、銀髪の令嬢の取り巻きです。


 私の周囲からは次第に人が減り、記事投稿のバイトもクビになりました。

 学園と学生寮、読書室だけが私の世界です。



 一方、卒業後の王子様の働きは、素晴らしいものでした。


 4月末には法を変え、聖女の資格に、筆記試験の後、1ヶ月間の現場研修を義務付けました。


 おかげで、なんちゃって聖女様がいなくなり、二級聖女の資格だけで婚約を勝ち取っていた令嬢たちは、婚約破棄されました。と、タブロイド紙に書いてありました。


 銀髪の令嬢、赤髪の令嬢が、王子様と復縁したいと、押しかけたそうです。


 もちろん、王子様は、すでに婚約者がいると、断ったそうです。

 いや、私は婚約を承諾していませんから。


 なんちゃって聖女たちには中身がないと広まり、婚約先が見つからず、修道院へ送られたようです。と、タブロイド紙に書いてありました。

 

 一時的に貴族社会が混乱しましたが、すぐに静まりました。

 噂では、王妃様が動いたようです。これもタブロイド、、、何をやっているだろ、私は、、、



   ◇



 5月中旬のある日、突然、王妃様が馬車で学園にいらしたので、大騒ぎです。


 私は、王妃様の大きな馬車の中に呼ばれました。二人だけで話がしたいとの指示です。


「久しぶりね、アップル」

 金髪碧眼で美魔女と言われている王妃様です。


「お久しぶりです、先生」

 王妃様は、私が幼い頃、この王国に留学し、師とした本物の聖女様です。


「まさか、隣国の「夜明けのビーナス」と言われた才色兼備な令嬢が、我が国にいるとは思いませんでした」


「申し訳ありません、事情がありまして」


「調べは、ついています」


 私は隣国を追放された令嬢で、婚約に必要な聖女の資格は有していません。

 しかし、この王妃様に、みっちり鍛え上げられた本物の聖女です。


「王子は、アップルが本物の聖女だとは知りません」


「最初は事故のようなプロポーズでしたが、今では、貴女の、決しておごらず、努力を重ね、そして清楚なふるまいに惚れてしまったようです」


「王子様は、聖女ではない私を、見て下さったのですか」


「そうです、その安っぽい変装の貴女を、本気で好きになっています」

 王妃様が、私の顔を見て、扇で笑い顔を隠します。


「王妃の私が立会人になり、決して婚約破棄はないこと、誓いましょう」




 王妃様と私を乗せた馬車が、王宮に向かって動き始めました。


 学園の前にあるリンゴの木、ピンクのつぼみでしたが、遅咲きの白い花をつけています。




━━ fin ━━




あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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