後編⑵ 作戦会議!
「怒鳴って氷砕いて、たたき起こそうとしたら、花は少し開いたんだが……とんでもないニオイを出しやがった」
うん、トンデモナイ。
少し離れたアタシにもまだ届くくらい、パパとズーズーは臭かった。どう言えばいいかしら、開けちゃいけない古いツボの中身のような、ずっと放置されて
ズーズーはその臭いに目を回してしまって、パパが担いできたみたい。
「ちょっとズーズー! 大丈夫?」
「だいじょうぶー……」
さっきよりも辺りは明るくなったけど、まだ街のライトよりも暗い。
アタシが離れたままでズーズーに呼びかけると、全然大丈夫じゃない反応が返ってくる。
「ハウンドお前ぇ、なんで手順無視して暴言なんて吐きやがったんだ」
「申し訳ない親父殿。温めるにも道具がなくて……」
「火ならズーズーが持ってたでしょ?」
「あんなちっこいマッチと燃料で咲くわけないだろ」
花は温めて咲く。この考えは
布で擦ったり、焚き火で温めたり、お湯をかけたり、色々。アサの花は普通の花じゃないから、火で燃えることもあるけど丈夫。
おじいちゃんは凍っていたアサの花を、怒鳴って無理矢理起こしたことをパパに注意していた。
「おじいちゃんならどうしたの?」
「ワシは花が寝ている間にぶ厚い花びらを剥ぐんだ。で、擦って温める。花びらが閉じても夜が薄っすら明るくなるが、街が遠いから道しるべにもなるしな」
「臭くならないの?」
「そうしないようにするのがプロなんだよ。カッコつけて上って行ったクセに、何やってんだ」
「……親父殿だって花の氷を割ったら同じことになってますよ」
「あぁ?」
おじいちゃんが鼻を鳴らすと、パパの大きい体が小さくなる。さっきのケンカは勝ったけど、失敗したのは自分だから強く出られないのね。冷たい風がアタシ達の間を抜ける。届くニオイはだんだん臭くなくなってきているけど、明るさは薄暗いままだった。
このままだと朝の収穫も、目の前にいる
「どうすればいいのかな? アタシが一度上った時も、花は凍っていて何もできなかった。だから一度下りて、ズーズーと相談しようと思ってたの」
「そうだなぁ……ちょっと待ってろ」
アタシがそう告げると、おじいちゃんは上を見上げて、それからアタシ達から離れてぐるっと辺りを素早く確認してまわる。戻ってきた時、おじいちゃんは手に砕けた手甲を持っていた。
「よし。次にいつ会えるか分からんから、一つ授業してやろう」
アタシの前に来て、そう言ってしゃがむ。ニィッと唇を上げた表情は、なんだか自信あり気だ。
「ピッカ、上見てみろ」
「上?」
「そうだ。ライトを消せ。このくらい明るいならライトに頼るな。上を見て、どうやって収穫すればいいか、いや……違うな。今ワシらができる手順を探してみろ」
今できる手順。おじいちゃんの言葉を頼りに、アタシは頭上の花を見上げた。多分、試されてるのは基礎じゃない。
パパが灯した光で広がった視界。アタシが上って見た違和感。おじいちゃんが言う、手順。
「下から見たワシが気づけた。上からも見たお前ぇは気づかねばならん」
「……」
「目的を達成したい時、目的だけを見るな。その周りに何があるかちゃんと見るんだ」
「周り……?」
「そうだ。収穫者はソロが多い。小僧の道具以外にも、自然そのものに使える物があることを知れ」
「あ! ズーズーの道具はスゴイのよ!」
「違う、どっちも使えって意味だ。うるせぇなぁ」
おじいちゃんの言葉を聞きながら、アタシは頭上に注目する。ぼんやりしたアサの花の明かり、その先に囲むように木が茂っていて、アタシの上着姿みたいなキノコ頭が並んでるみたいだった。そこで何か気になったんだけど……。
アサの花から、視線を周りの木々に向ける。影になるはずのキノコ頭が、うっすらと明るい。
「……明るい。もしかして、あっちの木もアサの花なの?」
まさかと思いながら、アタシは気づいたことを口にする。周りの木と思っていたキノコ頭。アサの花に反応しているみたいに、少し明るくなっている。あれは、つぼみ?
「そうだ。夜が長くてそうなった、と言った方が恐らく正しいな。普通の木だったはずが、アサを求めて進化したんだろう」
「スゴイ……」
「凄くない。ああなる前に収穫して、サイクルを守るのが
アタシが木々の変化に驚いてため息を吐くと、ピシャリとおじいちゃんが否定した。朝が来なかったから変化してしまったと考えると、おじいちゃんが言うとおりね
。
「どうして、サイクルを保てなくなってるの?」
「ワシは辺境から戻ったばかりでここらの事情は知らん。そういう話は後でハウンドとしろ。次だ、ピッカ。あの周囲の花に気づいたんなら、その先も考えてみろ」
「そんなの、先にあっちを咲かせてその光で大きい方の花を咲かせるくらいしかないんじゃない?」
「そうだ。それも一気に小さいアサを咲かせる。じゃあどうやって?」
「それは……」
言ってる意味は分かる。おじいちゃんは、小さい花を咲かせる手段があるみたいに言うけど、マッチと着火剤くらいの火じゃ小さい方も無理な気がした。
「わかんない、教えて?」
「そうか。まぁ周りに気づいただけ合格にしといてやろう。おい! ハウンド、坊主! 上に行くぞ。ハウンドは最後に
「わかりました」
おじいちゃんはもう一度アタシの頭をポンと撫でて、行くぞと促した。ズーズーが離れてた場所からこっちに来たけど、少し臭かった。
「ピッカ、これからどうするの?」
「上に行く以外はわかんない。おじいちゃん、どうするの?」
「ん、ああ。バクダン作る。坊主、棚の近くにお前ぇが持ってきた傘があるだろう? そいつを持ってきてくれ」
「あれはリュックです、ルドルフさん」
おじいちゃんの言葉にズーズーが聞きなれた反論をする。……待ってズーズー、いま反応するところはそこじゃないでしょ?!
「バクダンですって?!」
おじいちゃんが当たり前のように口にした道具に、アタシはビックリして大声を上げた。
「ドコォーーー? ドコナノォ」
「お、来たか。ちゃんと上で説明してやる。急ぐぞ!」
「ハウンドさん
「坊主早く来い! ピッカ、一番上じゃなくていい! 先に坊主と行け!」
「わかった!」
パパがなわとびを回収して、動けなかった
バクダンって……本当に大丈夫かしら?
アタシは心配になりながら、上を目指した。
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