後編⑴ 決意!
豪腕のルドルフ、おじいちゃんの隣で、アタシはコブのできた頭をさすっていた。パパとおじいちゃんの激突が終わってすぐ、パパからのゲンコツが飛んできたのだ。
「突っ走りすぎだ」
「……ごめんなさい」
たくさん言いたいことはあったと思うけど、言葉ではそれだけだった。パパ自身が腰痛で動けなくなっていたことにも、責任を感じているのかもしれない。
頭も胸も痛んだけど、落ち込んでいる場合じゃないわね。
それからパパは、アサの花まではズーズーと昇るから、アタシとおじいちゃんで
一緒に行くと言ったけどダメだと、ズーズーを指しながら断られた。
「ちょっとアイツと話があるから、ピッカは親父殿と留守番だ」
ズーズーは、何だか少し疲れているようにも落ち込んでいるように見える。砕けた豪腕の手甲を拾って眺めながら、ため息を吐いていた。
「大丈夫? ズーズー」
「あ、ピッカ。うん、ハウンドさんやっぱり凄いね」
「そりゃパパだもの。……リュックが壊れて落ち込んでるの?」
「アハハ、違うよ。それにちゃんと修理できるから大丈夫。ピッカこそ、頭には絆創膏貼れないからね」
「まだジンジンするわ」
「すごい音だったよ」
どうして元気がなかったのかは分からないけど、話してると笑顔になってくれたからホッとする。
それから二人がハシゴを上って行くのを見送って、ずっと頭をさすっているんだけど……。
目の前では、拘束された
「ねぇ、おじいちゃん」
「ルドルフさん、だ」
「どうして? おじいちゃんは本当に、
「……お前はお前自身や、あのボウズが危なくなっても、同じことを聞くのか?」
おじいちゃんはパパとの戦いが終わって、出会ったばかりの威圧するような言い方や雰囲気は無くなっていた。疲れているのかもしれない。おじいちゃんと呼ぶとジロリと睨むけど、せっかく出会えた家族なんだし、アタシは譲らない。
そんなアタシを見ることをやめ、おじいちゃんはため息を吐いて問いかけた。
でも、アタシはどうしてその質問が出るのか、やっぱり分からない。さっきのアタシの名前を聞いた後のこともそう。
「当たり前じゃない! どれかなんて選べない。全部大事なんだから」
「母親のことがあっても、か?」
アタシの答えに、冷たい声が返ってくる。威圧するような声じゃなくて、もっと淡々とした声。温まっていた身体が、また雪を思い出すくらい固くなる。
ママ、今は会えない。でも死んだりはしてない。知ってたの? と問いかけると、おじいちゃんは同じ
おじいちゃんの横顔見つめると、さっきアタシのケガを自分がやったってウソをついた時と同じような態度に感じた。
心配だから遠ざけたい。言われないけどそう聞こえる。やっぱり、ママも優しいから、おじいちゃんも優しいのね。
「アタシは何も諦めないよ。おじいちゃん」
だからちゃんと伝えないといけない。
「アタシはアサを収穫して、いつでもみんなに元気で居てほしい。ママだって助ける。だから……」
アタシは冷えかけた身体をブルっと一度震わせ、ニッと笑っておじいちゃんの逸らした顔の前に立つ、
腰に手を当て胸を張った。
「だから、かわいい孫を助けてよね? おじいちゃん」
キョトンって、音がするのねと思える表情でおじいちゃんが固まってしまった。驚きでも、呆れでも、怒りでもない。キョトン。
笑顔でいるのが恥ずかしくなってくるのを誤魔化すために、アタシは言葉を続ける。
「アタシは今日の収穫で気づいたの。本当に、まだまだ半人前だって。最初におじいちゃんって知らない時、睨まれたら動けなかった。ケガもしたし、ズーズーにもたくさん助けてもらった。ズーズーがいなかったら、こうやって話も出来てないと思うわ」
「……だろうな」
よかった。おじいちゃんがまた動き出した。
「でも、アタシの願いは変わらない。だから、パパもおじいちゃんも、ズーズーのことも、信じて、頼る。頼って、頼って、頼るの! その間に必死で一人前になって、そうしたら今度はアタシがみんなを手伝うわ! 今のアタシが誰よりも出来ることは、諦めずに走ることだって、そう思うの」
アタシは今回の収穫で、自分たちがまだ一人前の
パパなら、おじいちゃんなら、咲かせることができるのだろう。
なら、一人前になればいい。誰かに頼っても、恥ずかしくても、朝が来なくて誰かが泣くよりはいい。
「ボウズだって半人前だろう、収穫者でもない」
おじいちゃんはアタシの言葉に、少し呆れたのかも知れない。ズーズーのことを気にする言葉を投げる。
でもそれはアタシ達にとって、もう済んだ話だ。それに、居ないとダメ。
「わかってる。でもズーズーは嫌がっても連れて行くわよ? 相棒だからいいの。それよりおじいちゃんよ。会えなかった分、今から可愛がってよね?」
「お前ぇ……クハ、そうかい。ワシはナワバリを持たない収穫者だ。収穫場所が被ったら手伝ってやる」
「一緒に住まないの?」
「なぜそうなる。収穫者がどんなもんかはもう知ってるんだろう? ナワバリを持たないことの意味も分かれ」
おじいちゃんそう言って、よっこらせと立ち上がった。なんだかホントにおじいちゃん。アタシの横に立って、暗幕の方を向かせる。ざわつきがまた静かになる。
おじいちゃんは横に立ち、手甲のない右手でアタシの頭に手を置いた。ナワバリを持たないと言うことは、アサの収穫が遅れている場所の収穫依頼や危険地帯を転々としたりする、フリーの収穫者だってこと。
朝を求める声が行き先を決める。とっても大事な役割だ。
「まだまだ辞めつるもりはない。だから、会った時にはまた成長していろ、ピッカ」
おじいちゃんの優しさが、手のひらから伝わってくる。豪腕だなんて嘘みたい。でも、
「おじいちゃん、コブが痛い」
「……すまん」
おじいちゃんは、そう言ってコブをさするアタシを見て、目尻にシワを浮かべて笑った。
──いつまで寝てんだーーー!!
ちょうど、頭上からパパの声がして、粉々の氷が降りそそいだ。
徐々に明るい光が空を照らし始める。
アサの花が咲いたのね!
そう安心したアタシの前に、パパとおぶられたズーズーがおりてきた。
朝と呼ぶには、まだ暗い。
「スマン、ダメだったわ」
バツが悪そうに告げるパパ。そして、目を回したズーズー。二人はなんだか、とっても臭かった。
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