十一章 それぞれの始まり2

 夕日が差し込むライゼン通り。ソフィアの工房の扉を開けて誰かが入って来た。


「よう。ソフィー。聞いたぜ。ハンスと結婚するんだってな」


「マルセン」


「マルセンもお祝いしに来たの?」


扉の前に立つマルセンへと二人は近寄り声をかける。


「まぁな。明日の結婚式には参列できないから今日祝っておこうと思って」


「お仕事でも入ったの?」


彼の言葉にポルトが尋ねた。


「あぁ。霧の谷って知ってるか? そこに最近になって古代の怪物。岩ゴーレムが出たそうなんだ」


「それを討伐に行くのね」


マルセンの話を聞いて納得したソフィアは頷く。


「そう言う訳で今日お祝いしに来たんだ。ソフィー結婚おめでとう」


「有難う」


彼の言葉に笑顔でお礼を述べる。


「そういうマルセンはキリさんとは上手くいけているの?」


「ま、まだそこまでではないが、一応色々とアピールはしているつもりだ」


ポルトの言葉にマルセンが頬を赤らめながら説明した。


「でも、最近凄く頑張っているじゃない。今回の依頼だって大変だろうに受けたのも何か理由があるからよね」


「コカトリスを倒せた事で自信が持てるようになったからかな。何だか最近はいろんな依頼に挑戦してみようって気になれたんだ」


「そっか。マルセンも過去に決別したんだね。良かった」


ソフィアの話に彼が答えるとポルトがにこりと笑う。


「あぁ。コカトリスとのことが大きく影響しているのは確かだ。だからもう、俺は悩まない。前に進んでいくよ」


「マルセンなら大丈夫よ。頑張って」


「おいらも応援しているよ」


笑顔で語るマルセンへと二人は嬉しそうな顔で話す。


「あぁ。有難う。そんじゃ、明日の結婚式頑張れよ。仕事が落ち着いたら改めてお祝いしてやるからな」


「えぇ。マルセン気を付けてね」


「いってらっしゃい」


別れを告げる彼へとソフィアとポルトが声をかけて見送る。


「マルセン何だか凄く輝いていたね」


「そうね。もう大丈夫そうだわ」


二人きりになった工房でにこりと笑い合うと再び扉が開かれ誰かが入って来た。


「失礼するよ。ソフィー。ハンスと結婚すると聞いてお祝いをしに来た。おめでとう」


「レオさん。有難う御座います」


花束を差し出してきたレオにソフィアはお礼を述べるとそれを受け取る。


「レオもお祝いしてくれるの?」


「なんだポルト。私が嫉妬でもするとでも思ったのか。ソフィーの事はとうの昔に諦めているから大丈夫だぞ」


「それ、何の話ですか?」


ポルトの言葉に彼が答えていると不思議そうに首をかしげて彼女は尋ねた。


「何でもないんだ。明日の結婚式楽しみにしているよ」


「はい。有難う御座います」


小さく笑いながら首を振るレオへとソフィアは特に疑問も抱くことなくその言葉に納得して頷く。


「でもさ、レオが来たら皆びっくりしないかな」


「どういう事?」


ポルトの言葉に彼女は不思議そうな顔で見詰める。


「だって、国王様が一庶民の結婚式に参列なんかしたらびっくりしてパニックになるかも」


「ははっ。言われてみればそうだな。大丈夫。ただのレオとして参列するからな」


彼の言いたい事を理解して盛大に笑うと安心させるように話す。


「そうね。レオさんの変装は完璧だもの。心配いらないと思うわ」


「そっか。そうだね」


ソフィアも大丈夫だというとそれに納得したポルトが頷く。


「そう言う訳で明日の結婚式楽しみにしているよ。では私はこれで失礼する」


レオが言うと工房を出て行った。


「よ、ソフィー。ハンスと結婚するんだってな……何だか複雑だぜ」


「レイヴィンさん」


「隊長元気出しなよ」


夕闇が迫る頃工房の扉を開いて入って来たレイヴィンへと二人が声をかける。


「あ~あ。俺は一生独り身か~」


「そんな事ないわよ。レイヴィンさんにはリリアがいるじゃないの」


「そーだよ。元気出して」


肩を落として項垂れる様子に何とかして励まそうとソフィアとポルトは声をかけた。


「そのリリアもギルと一緒にどこかに旅立ったままだ……あ~あ。やっぱり俺は一生独身か」


「「……」」


さらに落ち込んでしまう様子に二人が困った顔で如何しようと思っているとレイヴィンが小さく笑う。


「冗談だ。ソフィー。おめでとう」


「あ、有難うございます」


優しい瞳でソフィアを見詰めて話す彼へと彼女は戸惑いながらお礼を述べる。


「さてと、結婚前夜で舞い上がっているハンスをからかいにでも行こうかな」


レイヴィンが言うと工房を出て行く。


「ど、如何しよう。レイヴィンさん本気でハンスさんの事からかったりなんかしないわよね?」


「お姉さん落ち着いて。隊長なら大丈夫だよ。きっと」


おどおどするソフィアへとポルトが大丈夫だと言って安心させる。


「……ソフィー。俺はこれから遠くから君が幸せになって行く姿を見守っているからな」


「隊長。ちゃんとお別れは出来たんですか」


窓の外からその様子を眺めるレイヴィンが優しくも儚げな微笑みを浮かべて呟く。そこに誰かの声がかけられた。


「なんだ、ディッドか」


「今日は朝まで付き合いますよ」


そちらへと視線を向けて小さく笑う隊長へとディッドが微笑む。


「はっ。部下に気を使われるとは情けない隊長だな」


「今日は思いっきり飲んでくださいね。愚痴でも何でも聞きますから」


自嘲気味に笑うレイヴィンへと彼が話す。


「ディッドありがとな」


「如何いたしまして」


小さく笑う隊長へとディッドが答える。そうして二人の姿は夕闇の街の中へと消えていった。

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