十一章 それぞれの始まり1
ソフィアの結婚式が前日に控えた日の事。
「本当におめでとう。これからはハンスさんと一緒に幸せにね」
「おいらもいるよ」
花束を持って祝いに来たリーナへとポルトがそう声をかける。
「えぇそうね。これからもソフィーの事お願いね」
「まっかせてよ。ソフィーもハンスもおいらが見守っていくからさ」
「もう……ポルトったら」
彼女の言葉に胸を張って答える彼へとソフィアは苦笑を零す。
「それより、本当なんですか。リーナさんこの街を離れてしまうっていうのは」
「一時的なものなのだけれどね。息子が住んでいるザールブルグに行くことになったの」
彼女の問いにリーナが微笑み答える。
「寂しくなっちゃうね」
「あら、でもたった三年よ。三年後にはここに戻ってくるから。だからそれまで会えなくなるけれどでもまた会える日が来るからそれまで待っていてもらえるかしら」
悲しそうな顔のポルトへと彼女が優しく笑いながら話す。
「勿論です。私、この国に来た時にリーナさんに会えて良かった。色々と親切にしてくださってだから今の私があるんです」
「おいらも。リーナに会えてよかったって思う。一杯人間界の事を教えてくれて有難う」
「ふふ。私も二人に会えて本当に良かったわ。出会ってくれて有難うね。それじゃあ、出発までに準備をしないといけないからこれで帰るわ」
ソフィアも涙目になりながら答えると彼もそれに続く。そんな二人の顔をしっかりと見返してリーナが言った。
「こんにちは。ソフィーさん。結婚なさると聞きました。おめでとうございます」
リーナと入れ違いにローリエがやってきた。
「ローリエ。有難う」
ソフィアが笑顔でお礼を述べると彼女もにこりと笑う。
「ソフィーさんが結婚か。私も負けていられませんね」
「そういえばローリエも結婚するんだったわね。確か相手の方は学者様だって」
「はい。植物学に精通していてとても素敵な人なんです」
ローリエの言葉にソフィアは話しかける。それに彼女が嬉しそうな顔で答えた。
「ローリエもいよいよお嫁さんかぁ~。ローリエなら素敵な奥さんになると思うよ」
「ふふ。ポルト君有り難う御座います」
ポルトがにっこり笑って言うとそれにローリエがお礼を述べる。
「それでは、私はそろそろ帰りますね。ソフィーさんお幸せに」
「有難う。ローリエも幸せにね」
「はい」
彼女の言葉にソフィアは笑顔で答えた。ローリエが帰って行くと再び扉が開かれユリアが入って来る。
「ご結婚なさると聞きましてわたしからも祝福の言葉を。おめでとうございます」
「ユリアさん有難う」
にこりと笑う彼女へとソフィアも笑顔でお礼を述べた。
「それより聞いたよ。ユリア冒険者になるんだって? 教会のお仕事は如何するの」
「教会のお仕事は妹に任せました。冒険者としての登録も終わりましたので、これでわたしも立派な冒険者です」
ポルトの言葉にユリアが説明するように話す。
「シスター辞めちゃうの?」
「本当にそれでよかったのですか」
「はい。わたしはずっとソフィーさんの御手伝いをして街の外に行き、魔物などと戦ってきました。そうしていくうちにわたしにとっての天職のような気がしてきて。だから冒険者の道を選びました」
二人の問いかけに彼女が力強く頷き答える。
「そう、それなら応援するわ」
「おいらも応援するよ」
「ふふ。有難う御座います」
ソフィアとポルトが言うとユリアが嬉しそうに笑った。
「それでは、また明日の結婚式で」
「はい」
「ユリア。またね」
彼女が言うと工房を出て行く。そうしてようやく二人きりになった時ソフィアは小さく溜息を吐いた。
「この分だと今日は一日中おめでとうの嵐を受けそうね」
「それだけお姉さんの事皆が祝福してくれているんだよ。良かったじゃないか」
「それはそうだけれど」
「おや。幸せの絶頂でもっといい顔しているかと思ったんだけれど、何だか疲れ切った様子だね」
二人で話していたところに第三者の声が聞こえてきてそちらへと視線を向ける。そこには花束を持ったイクトの姿があった。
「ソフィーが結婚すると聞いてお祝いをしに来たんだけれど。う~ん。これは今日の所は帰った方が良さそうかな」
「そんなことないよ。イクト来てくれたんだ」
彼の言葉にソフィアよりも先に返事をしたポルトがにこりと笑う。
「イクト君有り難う。でも新婚ほやほやで忙しいだろうに良かったの」
「うん。ソフィーが結婚するって聞いて嬉しくてね。それでお祝いに」
ソフィアも嬉しそうに笑顔になるとイクトが答えた。
「ふふっ、イクト君にお祝いしてもらえて嬉しいわ」
「俺もソフィーを祝えてうれしいよ。はいこれ」
「有難う」
花束を受け取ると嬉しそうに微笑む。
「それよりイクト新婚生活は如何? 上手くいっている」
「うん。幸せすぎて申し訳ないくらいだよ」
ポルトの質問に彼が笑顔で答える。
「住居も変わったのよね。前は町役場の近くだったのに仕立て屋の近くにしたとか」
「アイリスがどうしてもって言うからね。直ぐに会える距離に引っ越したんだ」
ソフィアの言葉にイクトが小さく頷き話す。
「イクトもこれからだね頑張って」
「そうね、応援しているわよ」
「有難う。ソフィーもね」
何を頑張るのか分かっているイクトが笑顔でお礼を述べる。
「えぇ。言われなくても幸せになって見せるわ」
「うん」
不敵に微笑む彼女へと彼が嬉しそうに微笑む。
「それじゃあまた明日式場で」
「えぇ」
「イクトまたね」
イクトが言うと工房を出て行く。その背中を二人は見送るとお互い顔を見合わせにこりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます