六章 ピクニック
それは夏に近づくある日の事。
「こんにちは、ソフィー。いるかしら」
「リーナさんこんにちは」
「如何したの?」
扉を開けて入ってきたリーナへと二人は近寄り声をかける。
「貴女達。ちょっと前まで大変な思いをしていたのにその後も休みなく工房でお仕事を続けているでしょう。それじゃあ体がもたないわよ。って事で今度皆でピクニックに行くからお誘いに来たの」
「ピクニックか~。リリアがいた時に皆でやったのが懐かしいな」
「そうね。リリア……元気でやっているのかしら」
彼女の言葉にポルトが懐かしむ瞳で話す。ソフィアもリリアの事を思い出して呟く。
「リリア、今頃どこで何をしているのかしらね。便りがないのは何よりも元気な証拠とは言うけれど……ちょっとくらいは連絡寄こしてくれてもいいのにね」
「今頃ギルと一緒にいろんなところを旅しているんだろうなぁ」
「リリア、元気でやっているわよ。きっと」
リーナも彼女の事を思い出しながら話すと彼がしみじみと呟く。ソフィアの言葉に二人はにこりと笑った。
「話がそれてしまったけれど、ピクニック一緒にやりましょうね」
「たまには息抜きするのもいい事だから勿論大賛成だよね」
「えぇ。せっかくのお誘いですもの。行かないとね」
彼女が話を戻すとポルトが尋ねそれにソフィアも頷き了承する。
こうしてピクニックへと行くことを約束した。
そうして今日はいよいよピクニックの日。ソフィアとポルトは少しだけ早起きしてお弁当を用意していた。
「ベーコンエッグのサンドイッチにカボチャのパイ。デザートにはスコーンを用意したわ」
「おいらもお野菜ゴロゴロキッシュにヴルストの串焼き、それからおやつのドーナツ」
楽しく調理を終えた二人は顔を見合わせ微笑む。
「さ、支度が出来たから待ち合わせ場所へと向かいましょう」
「うん」
こうして工房を出た二人は噴水広場で待っているリーナ達の下へと向かう。
「おはよう。二人ともちゃんと来たわね」
「今日は美味しいお紅茶を用意してきたんです」
「わたしも紅茶に合うケーキを作ってきました」
リーナが笑顔で声をかけてくるとローリエとユリアも微笑み話す。
「よっしぁ! 楽しい楽しいピクニックの始まりだぁ」
「ポルト。はしゃぎすぎて疲れちゃわないようにね」
ゲートへと向けて駆けだすポルトへとソフィアは注意するように話した。
やって来たのは始まりの原っぱ。かつてリリアも含めて皆でピクニックに来た思い出の場所。
「この辺りでお昼にしましょう」
「わ~い。おいらもうお腹ペコペコ」
リーナが両掌を叩いて言うと真っ先にポルトが答える。
「私達もお弁当を作って来たんです」
「ソフィーさんとポルト君の手作りですか。それは楽しみですね」
ソフィアの言葉にローリエが微笑む。
「ふふっ。これだけご馳走が並んでいるとまるでパーティーみたいですね」
ユリアが言った通り五人で持ち寄ったお弁当が並べられると豪華なディナーのような光景が広がっていた。
「いっただきま~す。はむ、はむむ。おいしい~」
「あらあら、ポルトそんなにたくさん頬張ったら喉に詰まってしまうわよ」
「紅茶もどうぞ」
料理に食らいつくポルトへとリーナがやんわり注意する。すかさず紅茶の入ったカップをローリエが差し出した。
「このサンドウィッチ美味しいです。ソフィーさんはお料理が上手なのですね」
「ユリアさんが作ったポテトサラダもとっても美味しいわよ」
ユリアが笑顔で言うとソフィアも料理を褒める。
こうして穏やかな雰囲気の中ピクニックを楽しむ五人。
「こうしてのんびりするのもたまにはいいよね」
「そうね。お話しながらただ時が過ぎ去るのも悪くないかも」
ご飯を食べ終え一息ついている時ポルトがそう呟く。それにソフィアも答えた。
「ちょっと前まではアイアンゴーレムやら黒の集団やらで騒がしかったのに、今はそれが嘘のように穏やかで……ようやく日常が戻って来たみたいね」
「そうですね。ようやく安心して暮らせるようになった気がします」
「この国に平和が戻って来たのも神のお導きなのでしょう」
リーナの言葉にローリエも頷きユリアが胸の前で指を組み祈るように話す。
「リーナさん、ローリエ、ユリアさん。ピクニックに誘ってくださり有り難う御座います。今日は本当にゆっくり過ごせて気が休まりました」
「また、皆でこようね。あ、その時はハンスも一緒に」
ソフィアが言うとポルトがにやりと笑う。
「そうね。ハンスさんも一緒にね」
「はい、そうですね」
「ふふっ」
「もう……はぁ~」
リーナ達までニヤニヤ笑って言うものだからソフィアは怒ることも出来ず何も言えないまま溜息を吐き出した。
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