五章 付き合っちゃいなよ
コカトリス討伐を終えて街まで帰って来たソフィアは工房へと戻る。
「ただいま」
「お帰り。無事に帰って来るまで心配だったんだよ」
玄関のドアを開けて中へと入ると安堵した様子でポルトが駆け寄って来た。
「ふふ。心配してくれて有難う。この通り元気よ」
「良かった~。さ、ソフィー疲れているだろう。ご飯用意してくるから待ってて」
彼が言うと台所へと向けて小走りにかけていき姿が見えなくなる。
「ふぅ。確かに今回はいろいろとあって疲れちゃったわ。今日は早めに休もう」
小さく息を吐き出すと独り言を零して近くの椅子へと腰を下ろした。
それから数日後の事。
「お姉さん、お姉さん。マルセンからコカトリス討伐の時の話を聞いたんだ」
「そう言えばまだ話してなかったわね、実は――」
なぜか妙にご機嫌な様子のポルトに声をかけられソフィアはあの時の事を話そうと口を開く。
「ハンスと熱い抱擁を交わしたんだろう。泣きながら生きててよかった~って言っていたんだって」
「え?」
ニヤニヤと笑いながら言われた言葉に彼女は一瞬固まる。
「ほ、抱擁だなんてそんな言葉どこで覚えてきたのよ」
「もうさ、いいかげん付き合っちゃいなよ」
「はい?」
ソフィアの言葉なんて聞いていないかのように彼がそう告げた。その発言に彼女は驚いて素っ頓狂な声をあげる。
「きつく抱きしめあっちゃうくらいハンスのこと好きなんだろう。だったらさもう付き合っちゃいなよ。おいら応援するよ」
「そ、そんなんじゃありません! あの時はコカトリスの攻撃を受けて倒れてしまったハンスさんが心配で怪我を治そうとしただけで――」
にこやかな笑顔で言われた言葉に頬を赤らめ抗議するソフィア。
「熱い抱擁を交わし合ったのにぃ!?」
「もう、知りません」
ついにポルトから逃げるように工房を出るとローリエのお店へと向かう。
「はぁ、ポルトったらからかって遊んでるんだわ。暫く外にいよう」
「あら、ソフィーさん。いらっしゃいませ。今日は如何されましたか?」
盛大に溜息を吐き出したところでローリエのお店へと到着する。
「特に用事はないの。この前まで街の外にいたから久々にローリエに会ってお話でもと思って」
「あぁ、それは丁度良かったです。私もお聞きしたい事があったんですよ」
ソフィアの言葉に嬉しそうに両掌を叩いてにこりと笑うローリエに何だか嫌な予感を覚えて引きつった笑みを浮かべた。
「き、聞きたい事って?」
「ソフィーさんがハンスさんと抱き合ったってお噂を聞いたんです。そこまでの仲だっただなんて私知らなくて。もうお付き合いはされているのですか?」
恐る恐る尋ねてみると彼女がそう言って微笑む。
「ち、違うわよ。お付き合いだなんてそんなの」
「ではこれから正式にお付き合いをするんですね」
「ご、ごめん。ちょっと用事を思い出したわ。ローリエまたね!」
ローリエから逃げるように店を出ると教会広場までやって来る。
「はぁ。ローリエにまで噂が広まっているなんて。これは暫く大人しくしていないと」
「あら、そこにいらっしゃるのはソフィーさんではないですか」
「あぁ、ソフィー。丁度良かった。貴女に聞きたい事があったのよ」
「ユリアさんそれにリーナさんも」
買い物帰りなのか籠を持ったユリアとリーナが笑顔で近寄って来ていてソフィアは二人の方へと体を向けた。
「貴女ハンスさんと抱き締めあったんですってね。街中で噂になっているわよ」
「それで、もうお付き合いはされているのですか?」
「ち、違います。私達はそんなんじゃありません」
今日で何度目かのこの質問に彼女は首を振って答える。
「あら、そうなの? でもお似合いだと思うのだけれど」
「わたしもそう思います」
不思議そうに首をかしげるリーナににこやかな微笑みを浮かべるユリア。
「「もう付き合ってしまっては?」」
「ですから、違いますってば!」
悲痛な叫び声が教会広場に木霊す中。ソフィアは泣きたい気持ちを堪えて弁解したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます