三章 マルセンからの依頼
いつもと変わらない穏やかな日。そんなありきたりな日常にはにつかわない荒々しい足音がライゼン通りに響いた。
「っ、ソフィー!」
「マルセンそんなに慌ててどうしたの?」
乱暴に扉を開け放ち入って来たマルセンへとポルトが尋ねる。
「奴が……あいつが出たんだ」
「落ち着いて話してくれないと伝わらないわよ」
脂汗を掻き心ここにあらずと言った様子で体を震わせる彼へとソフィアは落ち着かせるように話す。
「あいつが……木こりの森の古主。コカトリスが出たんだ!」
「「!?」」
マルセンの言葉に二人は目を見開き驚く。
「コ、コカトリスってマルセンが初めて討伐に行った時にコテンパンにやられたっていうあの」
「それで落ち着きがなかったのね。コカトリスは今は如何しているの?」
「幸い街にまでは来ていない。だが被害が出る前に何とかした方がいいだろう」
冷汗を流しながらポルトが言うと彼女も不安そうな顔になりながらも問いかける。
それにマルセンが神妙な顔つきで答えた。
「あの時俺は奴の足元にも及ばなかった……そのせいで先輩に怪我を負わせて二度と剣が握れない体にしてしまった。俺のせいで皆の士気が下がって戦意喪失してしまう人まで出てしまった。あの時は散々だったよ」
「でも、今のマルセンなら倒せるんだろう?」
過去の事を思い返して苦しげに話す彼へとポルトが言う。
「今度こそ奴の息の根を止める。そのためにソフィーにお願いがあって来たんだ」
「何かしら?」
彼の言葉にソフィアは首をかしげる。
「コカトリスを討伐するために必要なアイテムを作ってくれ。それと、俺と一緒にコカトリス討伐に付き合ってもらいたい」
「それってお姉さんも戦うって事?」
マルセンの話を聞いて不安そうな顔でポルトが尋ねた。
「そうじゃない。コカトリスと戦うのは俺とレイヴィンだ。だが、奴との戦いに集中したいから援護をお願いしたいんだよ」
「つまり、錬金術のアイテムを使って背後から支援するって事ね」
彼の説明を聞いて理解した彼女は話す。
「そう言う事。ソフィアが不安だって言うんなら誰か頼れる人を護衛につけてもらっても構わない」
「成る程、話は分かりました。そのコカトリス討伐私も参加します」
「うわ~。びっくりした。ハンスいつからそこに?」
マルセンの話に第三者の声が聞こえてきてポルトが驚く。
そこにはズレてもいないモノクルの位置を直しながら不敵に微笑むハンスが立っていた。
「コカトリスからは珍しい素材が取れると聞いたことがあります。ソフィーがそれを使って錬金術のアイテムを作る。それを私のお店で扱えば繁盛間違いなし。そう言う事で私も共に参りましょう」
「勝手に決められちゃったね」
「とても危険な仕事なんだぞ。……命に係わるかもしれない。それでも行くのか?」
彼の言葉に溜息交じりにポルトが言う。マルセンも心配そうな顔で尋ねた。
「問題ありません。私にはこれがありますからね」
「それはお姉さんが前に渡した精霊のペンダント」
首にぶら下げているペンダントをとても大事そうに手に取り見せるハンスへと彼がそうかといった感じで頷く。
「ソフィーから頂いたこのペンダントをつけてからというもの不運に合わなくなりましてね。ですからコカトリスだろうと伝説の森の主緑竜だろうと問題ありませんよ」
「分かった。そこまで言うなら連れて行く。その代わり俺達ではソフィーを護る事まで気が向けられないかもしれないから彼女の事をしっかり守ってくれよ」
「心得ておりますよ」
ハンスの言葉にマルセンが言うとこれで話は終わりだとばかりに切り上げて帰って行った。
「さて、それでは私も色々と準備をしないといけませんのでこれで失礼します。ソフィー。大丈夫ですよ。貴女の身は私が命に代えても守りますからね」
「命に代えて守ってもらわなくてもいいようにこちらも色々と準備しておくわ」
彼の言葉にソフィアはおかしそうに笑いながら答える。
こうしてコカトリス討伐の為の依頼を受ける事となった。
「さて、それじゃあ早速アイテムを作って行くわよ」
「薬系と爆弾系はおいらに任せて」
「それじゃあ私は身を護る系のアイテムから作って行くわね」
看板をクローズに変えると早速錬金術の準備を行う。
ポルトが傷薬やポーション。攻撃範囲や威力を絞った爆弾を作る横でソフィアは身代わりの人形や女神の祝福などを作っていく。
「ふぅ~。結構作ったねぇ」
「そうね。これだけあれば何とかなるとは思うけれど」
夜の帳が降りる工房で疲れ果てた顔でポルトが息を吐き出し座り込む。
その隣で同じように疲労の色を見せながらソフィアも頷いた。
「コカトリスは毒を撒いたり石化の息を吐くって聞くからそれを回復するアイテムも結構作ったけれど」
「在庫無くなっちゃったよねぇ~。おいら明日ローリエとユリアのお店で買い足してくるよ」
「えぇ。お願いするわね。兎に角。これだけ作って準備しておけば大丈夫だと思うわ」
彼女の言葉に彼が言うとソフィアは小さく頷く。
「後はコカトリスを討伐して無事に帰って来るだけだね。だけどおいらなんか嫌な予感がするんだよね~」
「嫌な予感?」
ポルトの言葉に彼女は首をかしげる。
「う~ん。はっきりと何がとは言えないんだけれど、妖精の勘ってやつ?」
「ポルトの勘は当たるからね。気を付けて討伐してくるわ」
はっきりと何が危険なのか分からないと言って唸る彼へとソフィアは頷き答えた。
そうしてポルトの予感は見事に的中する事となる。
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