十二章 攫われたソフィー

 夏祭りも終り秋の色に染まるライゼン通り。


黒の集団から狙われているかもしれないソフィアは今日も工房の中で大人しく過ごしていた。


「こんにちは。ソフィーいるかしら?」


「リーナさんこんにちは」


「リーナ如何したの?」


リーナがやって来たので二人はそちらへと近寄る。


「最近工房の中にこもりきりだって聞いてね。それで様子を見に来たのよ。何か大きな依頼でも受けているの?」


「そう言う訳ではないのですが、ちょっと暫くの間は工房でお仕事しようかなって思いまして」


「そ、そうそう。おいらがお姉さんに頼んで錬金術を一杯教えて貰っているんだ」


黒の集団の事は話せない為ソフィアとポルトは言葉を濁す。


「あら、ポルト君はもう立派な錬金術師なのにまだソフィーに何か教えて貰わないといけない事でもあるの?」


「今、伝説級の錬金術のお勉強をしているんだ。それが出来るようになったら本当の意味での一人前なんだって」


不思議がるリーナへと彼が慌てて説明を付け足した。


「あら、そうだったの。お勉強頑張ってね。兎も角二人が元気そうで良かったわ。それじゃあ私はそろそろ……」


彼女が話をしていると部屋の中が煙で充満する。


「な、何?」


「こほ、こほ。な、なんなの?」


「う~。おいら何だか眠くなってきた」


驚きながら煙の下を探すソフィア。リーナも咳き込みながら尋ねる。ポルトが大きな欠伸を一つつくと舟をこぎ始めた。


「これは、睡眠薬!?」


眠くなっていく様子にソフィアは異変に気付き慌てて煙を吸い込まないようにと鼻と口を覆うがすでに遅く睡眠薬の効果で瞼が重くなっていく。


「おね、えさん……」


ポルトも異変に気付きソフィアの側へと寄ろうと動くが睡眠薬の効果によりその場に倒れ込む。


「ポルト、リーナさ、ん」


ソフィアもそう呟きながらそこで意識を失い倒れ込んだ。


「っ……ポルト、リーナさん! あれ、ここは?」


次に彼女が目を覚ますと薄暗い空間で不思議そうに首をかしげた。


「遺跡?」


なぜ自分が遺跡の中にいるのだろうと不思議に思うが早くここから出ないといけないと警告が頭の中を駆け巡る。


「ふふっ。目覚めたか」


「っ!?」


不意に男の声が聞こえてきてソフィアは警戒して身構える。そこには黒いローブで仮面をつけた人物が佇んでいた。


「ようこそ、わが黒の集団の秘密基地へ。歓迎するぞ」


(この前の……という事は私黒の集団に攫われてしまったの? ここにいる事を皆に知らせないと)


ソフィアは言うと何時もつけているポーチから何かを探して取り出す。


「っあ!?」


「ふん。何を隠し持っているかと思ったら導きのペンジュラムか。こんなもの使って如何するつもりだったんだ?」


しかし男により腕を掴まれ導きのペンジュラムを奪われてしまう。


「まぁいい。女ついてこい。お前が知りたがっている我等の秘密を教えてやろう」


「……」


男が言うとソフィアを無理矢理立たせて遺跡の奥へと連れて行く。


抵抗したくても睡眠薬の効果がまだ残っているのかぼんやりとした感覚で逃げようと思っても力が入らず男に連れて行かれるがまま歩いた。


「ここが我が計画の礎となる場所だ!」


「……あれは、何?」


男が言うと「どうだ、素晴らしいだろう」といいたげに両手を振り上げ見せつける。


薄暗い空間の中にたくさん置かれた装置に彼女は怪訝そうな顔をした。


「これは魔法生命体を生み出す装置だ。これさえあれば古代文明で滅んだ魔法生命体を復活させることが出来る」


「魔法生命体!? 復活させて一体何を企んでいるの」


男の言葉にレイヴィンやリリア、ギルの姿を思い出しながら彼女は尋ねた。


「決まっているだろう。奴等に命令を下し国を攻め落としてもらうのだ。そうすれば王も第一王子もなすすべなく奴等の存在に苦悩する事だろう。そこに我が奴等を倒し英雄となり国王となって君臨するのだ!」


「生み出した魔法生命体に国を襲わせた上に殺してしまうだなんて。どうしてそんな酷い事が出来るのよ」


男の説明を聞いて怒りを覚えながらソフィアは言う。


「所詮魔法生命体などただの道具に過ぎないだろう。そんな物にすぎない奴等の為に心を痛めるほど我は暇ではないからな」


「っう。なんて酷い……」


鼻で笑う男の言葉に彼女は怒りで身を震わせながら相手を睨み付ける。


「女、お前には魔法生命体を生み出すための実験に付き合ってもらうぞ。マスター。この女を装置につなげ」


「っ」


男の言葉に姿を現したのはこちらも黒いローブ姿で仮面をつけた人物。


ソフィアは窮地に追いやられたことに息を呑む。


「……え?」


しかし現れた男はソフィアの予想とは反して彼女を庇うように前へと進み出てその意外な動きに呆けた顔をする。


「……貴方の命令には従えませんね。ウィッチ。彼女を安全な所へ」


「イエス。マスター」


マスターと呼ばれた男が言うと何処からともなくウィッチが現れる。


「これは驚いた。冷酷非道と言われたマスターがたかが一人の女の為に我に刃向かうとは」


「確かにキングが何をやろうと口出しする気はありませんでした。ですが彼女を巻き込むというのならば話は別です。ウィッチ、早く彼女を連れて行きなさい」


男の言葉にマスターが不敵に微笑みそう話すと背後にいるウィッチへと指示を飛ばす。


「はい。行きましょう」


「でも……」


「マスターなら大丈夫。でもここに貴女がいたら危険な目に合うかもしれない。だから今は逃げるのよ」


そっと肩を抱かれて言われた言葉にソフィアはマスターの事を心配して動けずにいた。


そんな様子にウィッチが言うと彼女に手を引かれ遺跡の外へと向けて走り出す。


ソフィアを助けてくれるマスターとウィッチは一体何者なのか。そしてキングと呼ばれた男はどんな恐ろしい計画を企てているのか。


前を走る彼女に連れられソフィアはただ足を動かした。

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