十一章 接触

 アルフォンスと別れたソフィアとポルトは黒いローブの人物を追って王宮の廊下を駆けていた。


「何処にもいないわね」


「う~ん。こっちじゃないのかな?」


溜息交じりに呟く彼女へと彼も困った顔で話す。


「誰を探しているんだ?」


「「!?」」


突然誰かに声をかけられ驚いてそちらへと体を向ける。薄暗い廊下の奥から現れたのは黒いローブに身を包み仮面で顔を隠した男だった。


「女。お前は我等に相当興味があるようだな」


「「……」」


探していた黒の集団の一員だと思われる人物が自分から接触してきた様子に二人は警戒して身構える。


「ソフィーさん。ポルト君」


「ヴィオ先輩?」


その時慌てて走って来る足音が背後から聞こえてくるとヴィオルドが二人の側へと向かって駆け寄ってきた。


「このような所で何をなさっているのですか。アルさんが心配していましたよ。さ、お祭り会場に戻りましょう」


彼が有無を言わせぬ勢いでソフィアの肩を抱き、ポルトの右手を引いて歩き出す。


「待て、女。黒の集団に興味があるなら今すぐにでも色々と教えてやるが」


「……騎士団や冒険者が周囲を警戒してうろついております。見つかる前に姿をくらました方がいいのでは?」


呼び止められ足を止めた三人へと男がそう話す。それにヴィオルドが鋭い声で忠告した。


「ふふっ。そうか。面倒な展開になる前に我は消えるとしよう。女、また今度な」


「行きましょう」


「「……」」


あくまでも余裕な態度を醸し出す男の言葉を聞き流しながらヴィオルドが二人を促す。


「はぁ~。緊張したぁ~」


祭り会場まで戻って来た時ポルトが盛大に溜息を吐き噴き出た嫌な汗を拭う。


「でもヴィオ先輩がどうしてここに」


「アルさんから貴女達が黒いローブの人物を探していると聞いてすぐに様子を見に来たんですよ。あんな怪しい人を追いかけるなんて貴女達は何をなさっているのですか。危ない事には首を突っ込んではいけませんよ」


ソフィアの問いかけに彼が答えながら軽く説教をする。


「すみません……」


「まぁ、分って頂けたのなら良いのです。さ、随分と暗くなりましたのでそろそろ家に帰らないと。夜道は危険ですからね。送りますよ」


素直に謝る彼女へとヴィオルドが本当に大丈夫なのだろうかといった顔でしばし見詰めていたが微笑みそう語る。


「えっと」


「「「ソフィー!」」」


このまま帰っては黒の集団の事をレオ達に伝えられないそう思っていたところで聞きなれた声がした。


「イクト君。ハンスさん。レイヴィンさんも」


「三人そろって如何したの?」


そちらへと顔を向けると慌てて駆け寄って来るイクト達の姿があり二人は不思議がる。


「如何したじゃないだろう。アルから話を聞いて二人を探していたんだ」


「二人が黒のローブの人物を追いかけて行ったと聞いた時にはもう心臓が止まるかと」


「兎に角無事でよかった」


険しい顔で話すレイヴィンに今にも崩れ落ちそうなハンス。二人の元気な姿を見たイクトが微笑む。


「どうやらお迎えが来たようですね。それでは私はここで失礼します」


「あ、ヴィオ先輩さっきは助けて頂き有難う御座いました」


その様子を見ていたヴィオルドが言うと立ち去ろうとする。彼の背中へと向けてソフィアはお礼の言葉を述べた。


「いえ。ソフィーさん、ポルト君。またお会いしましょう。それでは」


「さっきの人は誰ですか?」


彼女の顔も見ずに彼が答えると歩き去る。その姿を見ながらハンスが尋ねた。


「ヴィオ先輩はアカデミーに通っていた時にお世話になった方なんです」


「お姉さんのあこがれの人だってさ。でも大丈夫だよ。ヴィオの事は好きとかそういう感情は持っていないらしいから」


説明するソフィアの横でにやりと笑いポルトが話す。


「別に気になんてしていません」


「ははっ。そっか。そっか。アカデミー時代の時にお世話になった先輩ね」


「二人とも落ち着きなよ」


むきになるハンスににこやかな笑顔で呟くレイヴィン。その姿にイクトがやんわり声をかける。


「如何したの?」


「何でもないから気にしないで。それより三人とも聞いて。さっきおいら達凄い体験してきちゃったんだから」


不思議がるソフィアへとポルトが言うと三人へと話しかけた。


「凄い体験?」


「そうだわ。実はね……」


首をかしげる隊長へと彼女もそうだったと言わんばかりに先ほどの事を伝える。


「黒の集団の方からソフィーに接触、ね。こいつはやばいかもしれないな」


「私達が嗅ぎまわっていることに気付かれてしまうかもしれませんし」


「兎に角暫くの間二人は工房から出ない方がいいだろう。外に出る時は俺達の誰かが迎えに行く」


険しい表情で話すレイヴィンに難しい顔をするハンス。顎に手を宛がいイクトもそう言った。


「兎に角このことを至急レオ様に報告してくる。イクト、ハンス。二人を工房まで送ってやってくれ」


「分かった」


「さ、行きましょう」


レイヴィンが言うと二人はソフィア達を連れて王宮を後にする。


黒の集団の方から接触してきた今。ソフィア達は更に警戒して生活しないといけなくなってしまった。一体相手は何を考えているのであろうか。それはまだ分からないのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る