十章 夏祭りの夜に
今日はいよいよ夏祭り。ソフィアとポルトの姿は王宮にあった。
「今日がいよいよ夏祭りの日ね。計画が上手くいくと良いのだけれど」
「気にしていてもしょうがないからどこか見に行こうよ」
緊張した面持ちの彼女へと彼が笑顔で声をかける。
「そうね。まずはハンスさんのお店を見に行きましょう」
「ハンス。ちゃんとお店をしながら怪しい動きをする奴がいないかどうか見れているのかなぁ?」
ソフィアの言葉にポルトが心配そうに話す。
「もう、ハンスさんの事信頼してあげなさいよ」
「そうだね。あ、見えて来たよ」
「あら、イクト君も一緒ね」
話をしながらお店がある広場へと向かうと見えてきた姿にソフィアは笑顔になる。
「いらっしゃい」
「お二人ともよく来てくださいましたね。どうです。お祭り楽しんでいますか?」
笑顔で出迎えてくれたイクトにハンスも彼女等に気付き声をかけた。
「えぇ、楽しんでいるわよ」
「そのようには見えませんがね」
「黒の集団の事なら心配しなくても大丈夫だ。だから二人はお祭りを心から楽しんでおいで」
歯切れの悪い言葉にハンスが言うとイクトも笑顔で語る。
「そうね。楽しまないとよね」
「そうだよ。それよりイクト。良く抜け出せたね」
ソフィアも気持ちを切り替えたところでポルトがイクトに尋ねた。
「マクモさんがお店番を変わってくれたんだ」
「アイリスちゃんはどうしたの?」
答える彼へと今度は彼女も問いかける。
「アイリスは今頃キース君と夏祭りを楽しんでいる頃だと思うよ」
「そう」
イクトの言葉にソフィアは微笑む。
「それよりせっかくお店にいらして下さったんです。何か見ていってはどうですか?」
「そうね。それじゃあ……あ、これ錬金術に使えそう」
「おいらはこのホットドッグとカップケーキとそれからそれから」
ソフィアは言うとハンスのお店に置いてある素材の山から薬草を抜き出す。隣にいるポルトがイクトのお店で食べ物を見ながらあれこれ指さしていった。
「ではこちらをお包みしますね」
「ポルト。そんなに慌てて頼まなくても食べ物は無くならないよ」
ハンスが言うとイクトも微笑み話す。
「はぁ~。お腹一杯食べて幸せ」
「さて、それじゃあ次は――っ!?」
こうしてお店を堪能してそろそろ移動しようと思った時、ソフィアは目を見ひらき凍り付く。
「お姉さん如何したの?」
「今、角を曲がっていったのは間違いない黒の集団の一人だわ」
「あ、待って!」
駆けて行ってしまう彼女の後をポルトも慌てて追いかける。
「はぁ、はぁ。追いつけない。こうなったら。えい!」
「それは煙玉。そっかそれを使えば目印になるよね」
彼女が投げた煙玉は見事に相手のローブに当り確りとカラフルな色が付着した。
「はぁ。はぁ。あの角を曲がっていったわ!」
「よ~し。追いかけて捕まえてやる」
前方を見据えながら彼女は言うと彼が小さな足を一生懸命動かし角を曲がる。
「えいや!」
「っぅ!?」
彼が服の裾を掴むと相手は驚きの声をあげた。
「捕まえたぞってアル?」
「……いきなり駆け込んできたと思えば二人は何をやっているんだ?」
「アル、その服の裾如何したの?」
捕まえた人物の顔を見てポルトが驚き慌てて手を放す。アルフォンスが不思議そうに尋ねた言葉に答えずにソフィアは聞き返した。
「仕事で使うアイテムを確認にしに倉庫に行った所上から煙玉が落ちて来てな。ひっかけてしまったと言う訳だ。洗ったんだがまだ残っていたんだな」
「煙玉をひっかけちゃうなんてアルって案外どんくさいんだね」
彼女の答えを聞いたポルトがにやりと笑い言う。
「まったく。返す言葉もないよ。それより二人はそんなに慌てて何をしていたんだ?」
「ねぇ、アル。ここの角を曲がっていった黒いローブ姿の人物を見かけなかった?」
溜息交じりにアルフォンスが答えるとソフィアは尋ねた。
「いや、見ていない。それよりも前も同じこと聞いて来たな。危険な目に合うかもしれないから首を突っ込むのは止めろと忠告したはずだぞ」
「う、そ。それはそうなんだけど」
心配して怖い顔で忠告してくれる彼女へと視線を彷徨わせながらソフィアはしどろもどろになる。
「……まぁいい。黒いローブの人物だな。見かけたら教えるよ」
「有難う」
その様子に溜息を吐くとアルフォンスが言う。その言葉に彼女は嬉しそうにお礼を述べた。
「それじゃあおいら達もう行くね。じゃあね」
「あぁ。じゃあ……」
立ち去って行くソフィア達の後姿を見送りながらアルフォンスが考え深げな顔をしていた事を二人は知らない。
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