九章 意外な組み合わせ

 錬金漬けの毎日でようやく王国からの依頼の品を納品し終えた日の午後の事。


「はぁ~。やっと終わったね」


「そうね。これで暫くは日常に戻れると思うわ……あら?」


盛大に溜息を吐き出すポルトに答えていたソフィアだったが道の先に見慣れた人物達の姿を見つけて不思議がる。


「あれはアルとヴィオだね。あの二人が一緒にいるなんてどういう関係なんだろう?」


「不思議ね。ちょっと声をかけてみましょうか。アル。ヴィオ先輩」


彼も視線の先を見やり首をかしげた。彼女は言うと大きな声をあげてそちらへと近寄って行く。


「おや、ソフィーさん。それにポルト君も」


「二人そろってお出かけか?」


二人もソフィア達に気付き笑顔で出迎えてくれる。


「如何してアルとヴィオが一緒にいるのさ?」


「如何してって言われてもな。ヴィオ先生は学者だろう。だから仕事上良くやり取りをするんだ」


「私は考古学を専門にしていますからね。遺跡の調査でよく一緒に行動をすることがあるのですよ」


「そうだったんだ」


ポルトの質問に二人が答えた。それにソフィアは納得して頷く。


「それより。しばらく会っていない間に二人ともやつれた顔をしていますがお仕事そんなに大変なのですか?」


「城の人から工房にこもったまま出てこなかったって聞いているぞ。そんなに大変な仕事をしていたのか」


ヴィオルドが言うとアルフォンスも心配そうな顔で尋ねる。


「ちょっと大きな依頼が入ってそれでしばらくの間錬金術でアイテムを作っていたから。でもついさっき納品してきたところだからもう大丈夫よ」


「それならいいのですが。ソフィーさんは昔から集中したら周りが見えなくなるところがありましたので心配していたのですよ」


「あぁ。食事もまともにとらなくなるくらい錬金術に熱中するからな。何時倒れるのじゃないかって気が気じゃなかったんだ」


「二人ともお姉さんの事凄く心配してくれていたんだね」


彼女の言葉にひとまず安心したようであるがやはり心配だと話す二人にポルトが声をあげた。


「心配かけてごめんなさい。でも昔と違って今はしっかり休みを取るようにしているからだから大丈夫よ」


「そうだよ。お姉さんにはおいらがついているからね。無理なことはさせないよ」


ソフィアの言葉に彼も同意して頷く。


「そうか。頼もしいな」


「ポルト君が側にいてくれて良かったです。これからもしっかりソフィーさんが無理しないように見張っていてくださいね」


にこりと笑いアルフォンスが言うとヴィオルドも笑顔でお願いする。


「うん」


「私、そんなに信頼ないのかぁ……」


頼まれた言葉に元気に返事をするポルト。ソフィアは溜息交じりにそう呟いた。


「お姉さん。自業自得って言葉知ってる?」


「「……」」


そんな彼女へと彼が「まったく分かってないな」といいたげな顔で話すと二人も同感だといった様子でソフィアを見詰める。


「うっ……信頼ないんだから」


「兎に角。仕事を終えたのなら今日はこのままゆっくり休むんだぞ」


「えぇ。どこかに遊びに行ってもいいですし。工房でゆっくり体を休めるのもいいと思いますよ」


肩を落とし落ち込む様子にアルフォンスとヴィオルドがそれぞれ言葉をかけた。


「分かったわ」


「それじゃあ、二人ともまたね」


「えぇ」


「またな」


やり取りを終えるとソフィア達は工房へと向けて歩いて行く。


「それで、今日はこの後どうする?」


「そうね。久しぶりにゆっくり過ごすのもいいし。お店を見て回ってもいいと思うの」


尋ねて来るポルトへと彼女は答える。


「そっか。そうだね。ってあっ!」


「如何したの?」


大きな声をあげる彼の様子にソフィアは不思議そうに尋ねた。


「あそこにいるのって……リゼットとマルセンだろう」


「本当だ。珍しい組み合わせね」


指さす方角を見ると何事か話し合っている様子のリゼットとマルセンの姿があり二人はそちらへと近寄って行く。


「お~い。リゼット。マルセン」


「あら、ソフィーさんにポルト君。こんなところで如何したの?」


ポルトが声をかけるとこちらに気付いたリゼットが笑顔で話す。


「それはこちらが聞きたいですよ。二人もこんなところで何をしていたのかしら」


「お、俺達はその――」


ソフィアの言葉に言いよどみ目線を彷徨わせるマルセン。


「ふふっ。マルセンの恋の悩みを聞いていた所なのよ」


「「マルセンが恋!?」」


彼女の言葉にソフィア達は心底驚いて大きな声をあげる。


「ふ、二人とも声が大きい」


「あ、ごめん。でもマルセンが恋ねぇ~。相手は誰なの?」


慌てて声をあげる彼へとポルトが謝り続けて問いかける。


「同じ冒険者の女性らしいわよ。確か名前はキリさんって言ったかしら」


「でもマルセンが好きだったのって……」


リゼットの話を聞きながらソフィアは視線を彼女へと向ける。


「あ、あれは子供の頃の話だ。今は違う。それに彼女はもう結婚しているだろう。その時に諦めた」


「あら、初恋の相手がいたの?」


彼女の言わんとする言葉の意味に気付きマルセンが答えると話が見えていないリゼットが不思議そうに尋ねる。


「な、何でもないんです。それよりも二人も話を聞いてしまったんだ。何とかしてキリさんと恋仲になれる方法がないか考えてくれないか」


「う~ん。おいらは当たって砕けろだと思うけどね」


彼女へと慌てて答えた後ソフィア達へと視線を戻し尋ねた。それにポルトが考えたことを伝える。


「砕けてたまるか!」


「う~ん。そうね。私が思うにキリさんともっと一緒に仕事をしていったらいいんじゃないかしら。そうしていくうちに親しくなれると思うの」


大きな声を出すマルセンへとソフィアも考えた事を話す。


「そ、そうか。親父さんに仕事上一緒になれるように頼んでみるよ」


「それとね。私も冒険者をやっていたから言うのだけれど。冒険者の女って言うのは強い男が好きなのよ。だからマルセンが戦って負け知らずなところを見せれば相手は心を向けてくれるようになると思うわよ。あぁ、一緒に稽古するのもいいかもしれないわね」


アドバイスを真剣に受け止める彼へとリゼットも話をする。


「成る程。分かりました。有難う御座います。二人も有難うな。ちょっとこれから試してみるよ」


「「頑張ってね」」


「おいらも応援してるから」


マルセンが笑顔でお礼を述べると三人もにこりと笑い言う。


「あぁ。それじゃあまたな」


「ふふっ。若いって良いわね~」


「そうね」


笑顔で立ち去って行く背中を見送りリゼットが言うとソフィアも頷く。


「それよりも貴女の方は如何なのよ」


「え?」


彼女の意外な言葉に驚いてそちらを見やるとにやにや笑うリゼットの姿があった。


「隊長かハンスさんかいい加減答えを出した方が良いわよ。じゃないとチャンスを逃すことになりかねないわよ」


「そうそう。お姉さんも二人のどっちにするかいい加減決めた方がいいよ」


「もう。リゼットさんもポルトも変なこと言わないで。私は恋なんてしません」


二人の言葉にソフィアは答える。


「あら、そうかしら? 貴女を見ていると気がないわけではなさそうなんだけれどね」


「おいらもそう思う」


「もう、知りません」


ニヤニヤ顔の二人から逃げるように彼女は言うと工房へと向けて足を進めた。

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