五章 木こりの森へ

 いよいよ木こりの森へと素材を採取しながらイクトが調べたい事に付き合う日がやって来た。


「木こりの森まで来たぞ。それで、どうするんだ?」


「まずは採取しながら森の奥に向かおう。目指すはソフィーが捕らえられていた山小屋だ」


レイヴィンの言葉にイクトが説明する。隊長が周囲を警戒して見張ってくれている間にソフィア達は必要な素材を探す。


「カラフル草とマンドラコラの根ですか」


「カラフル草はすぐに見つかると思いますが、マンドラコラの根は難しいかもしれないわね」


「というと?」


素材を探しながら聞いて来たハンスへと彼女も答える。イクトが不思議そうに首を傾げた。


「マンドラコラは魔物ですから。直ぐに遭遇できるとも限りませんので」


「「え?」」


「マンドラコラ。別名マンドラゴラもどき。葉っぱに黒い斑点がついているのが特徴。それ以外はマンドラゴラに似ているため見分けるのが難しい。主に森の中に生息していて人間が近付くと土の中に身を隠す」


ソフィアの発言に目を丸める二人へと話を聞いていたレイヴィンが説明する。


「危険性は?」


「マンドラゴラと違って鳴き声を聞いただけじゃ死なないから大丈夫さ」


不安そうな顔でハンスが尋ねると隊長がそう言って安心させた。


「この森にマンドラゴラは生息しているのかな?」


「この森で遭遇したことはないわ」


イクトの質問にソフィアは首を振って答える。


「それならマンドラコラと間違えて引っこ抜く危険性はなさそうだね」


「はぁ~。一瞬寿命が縮みましたよ」


安心する二人の様子にソフィアとレイヴィンが小さく笑う。


「さ、採取しながら奥へと向かいましょう」


それから素材を集めながら森の奥へと進んでいく。


「もうすぐ山小屋が見えて来るぞ」


「あれ、誰か立っている?」


レイヴィンの言葉にソフィアは前方から見えてきた光景に不思議がる。


「山小屋は今誰も立ち入れないように騎士団が管理しているんだ」


「それはわかりますが。もう一人の男は誰でしょうか?」


隊長の説明を聞きながらハンスが尋ねる。


山小屋の入り口をふさぐようにコーディル王国の騎士が一人立っている。その彼を睨み付けて怒りを露にしているのは紫の鎧を着た男だった。


「ここは今コーディル王国の国王の命令で立ち入りを禁止している。お引き取りを」


「確かにコーディル王国に立っている山小屋だが、ここの建物は我が国の王室が管理している。コーディル王国の王室とて勝手に我が国の所有物を調べる事は出来ないはずだが」


「国王同士での話し合いも終わっている。疑うなら国王陛下に直接尋ねてみればいい」


「ふん。まあいい。だがあまり長い間閉鎖するようならば王子が黙っていないと言っていた。覚えておくことだな」


他国の騎士と揉めている様子だったが男性が吐き捨てるように言うと立ち去って行きソフィア達もそろそろいいだろうと山小屋へと近づいて行った。


「これは、レイヴィン隊長」


「お仕事ご苦労さん。ちょっと調べたい事があるから中を見させてもらうぞ」


「はっ!」


兵士がレイヴィンに気付くと姿勢を正し敬礼する。道を開けてくれたのでソフィア達は山小屋の中へと入っていった。


「はい、イクト君。探知コンパスよ」


「有り難う」


ソフィアの手から探知コンパスを貰うとイクトが辺りを調べ始める。


「あの時のまま保管するように言っておいたが如何だソフィー。何か変わっているところとかありそうか?」


「う~ん。あの時と変わらないように思うけれど……あ。あそこ。あそこに積まれていた荷物が無くなっているわ」


レイヴィンの言葉に彼女は部屋の中をぐるりと見まわし気付いた事を伝えた。


「あの後すぐに規制線を張り立ち入りを禁止したのにどうやって持ち出したんだ?」


「……」


不思議がる隊長の横を通り抜けイクトが何かを探すようにうろうろしていたが壁の一点を見詰めて厳しい顔つきになる。


「それは分からないわ。でも。私が皆と合流するまでの間にここにいた黒の集団が持ち出したのかも?」


「隊長ちょっといいかな」


「ん?」


首を振り困り顔で話すソフィアの話が終わったところでイクトがレイヴィンへと声をかけた。耳元で何事か伝えると隊長の表情も真剣な物へと変わる。


「荷物の中身は一体何だったのでしょうか?」


「さあ。でもとても大きな箱だったからもしかしたら闇取引の品だったのかも」


ハンスとソフィアはそんな二人の様子に気付かづに話を続けた。


「兎に角。持ち出されてしまったもんを調べることはできないからな。他に何か気になる所がないなら街に戻るぞ」


「えぇ」


表情を緩めて優しい顔に戻ったレイヴィンがソフィア達に声をかける。それに彼女も特に気になる事はなかったので返事をした。


「それで、イクト君。探知コンパスは役にたった?」


「あぁ。調べて見たけれど特に何も怪しい物はなかったかな」


「やはり黒の集団が持ち出してしまったのでしょう」


帰り道ソフィアの言葉にイクトが返事をするとハンスも仮説を唱える。


「それじゃあ、帰りがてら太古の湖にも立ち寄ってみるか。そこでも素材集める予定なんだろう」


「えぇ。お願いするわ」


レイヴィンの言葉に彼女は笑顔で頼む。こうして街に戻りながら太古の湖へと向かって行った。

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