六章 太古の湖

 木こりの森から寄り道して太古の湖までやって来たソフィア達。


「ここでは湖の水と朝雫の葉。それから踊るキノコを採取するわよ」


「踊るキノコってあれの事か?」


「はい。あれです」


彼女の説明にレイヴィンが渋い顔をする。


「隊長は踊るキノコがどの様な物なのか知っているのですか」


「うん。まぁ、あれだな」


「俺も何となくだけと見当はついているよ」


ハンスの問いかけに言葉を濁す隊長。イクトも苦笑いしながら呟いた。


「まぁ、探してみれば分かるさ」


「それじゃあ、私は湖の水を汲んでくるから朝雫の葉と踊るキノコをお願いね」


レイヴィンが小さく笑う横でソフィアは言うと小瓶を取り出し湖へと近寄る。


「さて、と……」


膝を折り右手で小瓶を持ち湖の水を汲む。


「これだけあれば十分かしら。さて、皆の様子は――」


「うぎゃぁっ!?」


「ははっ。それが踊るキノコだよ」


ソフィアが言いかけたところで誰かの悲鳴が響き渡る。そちらを見やると踊るキノコに背後を取られ胞子を振りかけられたハンスがいてその隣に立つイクトが小さく笑いながら説明していた。


「踊るキノコは大丈夫そうね」


「っ。皆俺の後ろに!」


小さく笑い呟いた時レイヴィンの鋭い声が聞こえてきて緊張が走る。


「ま、魔物!?」


「太古の湖には危険な魔物はそうそう寄り付かないはず」


慌てるハンスにイクトも険しい顔をして呟いた。


「キュピーッ!!」


「ブルルッ」


「あれはフラワードードとウルトルス」


「如何して喧嘩なんかしながらこっちにやって来ているんでしょうか」


茂みの中から現れた魔物達の姿にソフィアは冷や汗を流しハンスはレイヴィンの背後に隠れながら尋ねる。


「あれだ。ウルトルスの背中にフラワードードの雛が乗っている。親鳥はそれで怒っているんだ」


「成る程。奴は雛がいる事に気付かづに追いかけ回されて機嫌が悪いんだな」


隊長の言葉にイクトも納得して頷く。


「兎に角こっちに来るなら両方とも」


「待って。雛がいるんでしょう。殺してしまってはいけないわ」


レイヴィンの言葉にソフィアは待ったをかける。


「だけど戦う以外にどうやって追い払う気ですか?」


「私に任せて」


ハンスの言葉に彼女はポーチの中から何かを取り出し思いっきりフラワードードとウルトルスへ向けて投げつけた。


「ッピー!?」


「ブゥル!?」


二匹は驚きながらも香って来た匂いに次第に瞼が落ちて行きその場へと倒れ込んだ。


「睡眠薬よ。この隙に雛を親鳥の所に。そしてウルトルスは別の茂みに移しましょう」


「そんじゃあ。まずは雛を降ろしてっと。ほら、ハンス。イクト。手伝え」


ソフィアの言葉に剣を降ろしたレイヴィンが二匹の下へと向かって行く。


「私は力仕事は得意ではないのですが」


「まぁ、そう言わずに。俺も手伝うから。さ、行こう」


小さく愚痴るハンスを促しイクトも歩いて行った。


「はぁ……疲れましたよ」


「でも、ついでにフラワードードの羽も沢山採れたわ」


「採ったていうか。あれだけ暴れまわっていたから抜けた羽が一杯落ちていたって感じだけれどね」


溜息を吐き出すハンスへとお疲れ様と言わんばかりの微笑みを浮かべてソフィアは言う。


イクトも苦笑を零しながら話した。


「さて、朝雫の葉も採れたし。そろそろ帰りましょうか」


こうしてコーディル王国へと戻っていったのである。

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