三章 水面下で動く計画

 ソフィアとイクトが王宮までくると門前に立つレイヴィンへと話をした。


「成る程ね。黒の集団の主謀者が別にいて、そしてまだこの国で何かしら企んでいるってことか」


考え深げに顎に手を宛がい呟く隊長へと二人は視線を送る。


「どう思う? やっぱりこのまま放置するわけにはいかないわよね」


「だからと言ってソフィーが調べたりなんかしたら危険な目に合うかもしれない。君を巻き込むわけにはいかない。兎に角このことを至急レオ様に報告だな」


ソフィアの言葉にレイヴィンが言うと三人は国王であるレオの下へと向かって行った。


「ふむ。黒の集団の件はうやむやに終わってしまうかと思っていたが、まだこの国で潜伏しているというのであれば調べれば捕らえることが出来るかもしれないな」


「それで、ソフィアはこの前も狙われたから暫くの間は護衛をつけた方がいいと思うんだ」


話を聞いた国王が深刻な顔をして顎をさする様子にイクトが提案する。


「それは勿論だ。工房の周りをうろついている可能性もある。レイヴィン彼女の工房の周辺のパトロールの強化を」


「勿論、俺達がしっかりパトロールして見て回るのでソフィーにもポルトにも手を出させやしませんよ」


レオの言葉にレイヴィンがにこりと笑い言い切った。


「このことをハンスにも話すべきではないかな。彼なら信頼できるし」


「ハンスさんに?」


次に口を開いたイクトの言葉にソフィアは不思議そうに目を瞬く。


「うん。俺もレオ様も隊長もずっと君の側についていてあげられたらいいんだけれど、立場上や仕事上そう言う訳にもいかないだろう。その点、ハンスなら君の工房と取引している。彼が頻繁に工房に出入りしていたとしても怪しむ人はいないと思うんだ」


「そう言われてみれば……確かにそうね」


彼の説明を聞いたソフィアは納得すると頷いた。


「レイヴィン、それからイクトとソフィー。私達はこれから黒の集団の動きを探り調べていく。だが決してこれは誰かに知られてはならない。それが例え家族や親しい友人であったとしてもだ」


「如何して? 皆に話せば協力してくれると思うのだけれど」


国王の言葉に彼女は不服気な顔をして尋ねる。


「警戒心を持つことは大切なことなんだよ。私やレイヴィンそれにイクトであったとしてもだ」


「それは、どういう意味かしら?」


レオの話の意味が分からなくてソフィアはさらに不思議そうな顔をした。


「レオ様は俺達の中に黒の集団と繫がっている人物がいるかもしれないから警戒しろと……いや、黒の集団の内通者が紛れているかもしれないから気をつけろと言いたいんじゃないかな」


「え、私達の中に黒の集団の内通者が?」


イクトがレオの話を解りやすく言葉にして伝えるとソフィアは驚いて目を丸める。


「相手は顔を隠している。それは素顔がバレたらまずいからだろう。だから普段から会う人物一人一人に警戒心を持って接しろって事なんだよ。誰が黒の集団と繫がっているのか分からないからな」


「でも、友人を疑いたくなんてないわ」


レイヴィンの言葉に彼女は顔を暗くして瞳を伏せて呟く。


「ソフィーの気持ちもよく分かるがね。ここで話した事を誰かに伝えたことが原因で黒の集団を取り逃がしてしまったら元も子もなくなる。分かってもらえるな」


「……分かったわ」


レオの鋭くも優しい口調に諭され小さく頷く。


「ではこれより黒の集団を捕らえるために我々だけで計画を進めていく。ソフィーそれからイクトそしてレイヴィン。君達にはその計画について如何なる場合であったとしても口外することを禁ずる。これはあまり使いたくないが王命として受け取ってくれ」


「「はい」」


「御意」


国王の顔つきになったレオが話すと三人はそれぞれ神妙な面持ちで答えた。


こうして黒の集団を捕らえるための計画が水面下で進められていくこととなる。


一歩その頃朝日ヶ丘テラスでは黒いローブ姿の人物が二人。物陰に隠れて何やら話していた。


「……マスター。お呼びでしょうか」


「キングが無事にこの国に入国できたそうです。クラウンのおかげで計画が狂わされてしまいましたが何とか遂行できそうですよ」


ウィッチが男に声をかけると彼がそう言って微笑む。


「……」


「おや、あんまり嬉しそうではありませんね」


「貴方は、本当にこの国で計画を進めていくおつもりですか?」


不服気な顔の彼女へとマスターが尋ねる。それにウィッチが答える代わりに問いかけた。


「貴女も望んでいたはずではありませんか。何を今さら躊躇う必要がありますか」


「貴方も魔法生命体を生み出すための実験の試験体として利用されたにもかからず本気で魔法生命体を生み出す装置をキングにやるというのですか」


彼の言葉に彼女が声を荒げて尋ねる。


「魔法生命体だけの国を作る。それが貴女と私の夢ではありませんか。夢の実現のためには金が要る。その為ならばこのくらいなんてこともありません」


「ですが、この国には彼女がいるのですよ。彼女がいるこの国で計画を進めていくおつもりですか」


マスターの言葉にウィッチが言うと微笑みを消して真顔になった彼が口を開いた。


「ウィッチ。計画が無事に終われば私達はこの国から立ち去る。それまで辛抱するだけですよ。分かりましたか」


「……」


静かな口調で告げられた言葉に彼女は無言になる。


「ウィッチ返事は?」


「……イエス。マスター」


テラスでのやり取りはそこで終わり二人は暗闇に紛れるように姿を消していった。

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