二章 黒の集団の行方

 暖かな日差しが変わらずに照らす昼下がり。この日ソフィアは採取地から帰ってきた所であった。


「それでは、私はここで」


「俺も王宮に帰らないといけないから、ここでお別れだな」


「護衛してくださり有り難う御座いました」


噴水広場に差し掛かったところでハンスとレイヴィンが口を開く。


ソフィアはお礼を言うと二人と別れライゼン通りまで歩いて行く。


「それでは私もここで」


「ローリエも有り難う。貴女の知識のおかげで採取困難な神のつる草を見つけることが出来たわ」


「また採取に行くときにはお誘いくださいね」


ライゼン通りまでくるとローリエが言う。彼女へとお礼を述べると二人は別れてそれぞれ帰路につく。


「一杯採取できたからこれで依頼の品を作れるわね。あら」


独り言をつぶやいた時見慣れた人物の後姿を見つける。


「ヴィオ先輩? 間違いない先輩だわ。先輩~」


憧れの先輩の後姿を見つけて嬉しくて大きな声で呼びかけ駆け寄る。しかし相手は彼女に気付いていない様子で路地裏へと消えて行ってしまった。


「待って、先輩! はぁ~。ヴィオ先輩ったら歩くの早すぎよ」


呟きながら路地裏へと続く角を曲がると見えて来た光景に慌てて側に積まれた箱の陰へと隠れる。


「……黒いローブ。間違いないあの人達は黒の集団だわ」


先輩の後を追いかけていたらまさかの黒の集団を見つけてしまい彼女は生唾を飲み込む。


「まだこの国に潜伏している人達が残っていたって事? でも如何して。主謀者は行方不明になったって言っていたからてっきりもう解散されたとばかり……」


「ウィッチ久しぶりですね」


「マスター。貴方も無事にこの国に入れたのですね」


「えぇ。監視が厳しくなっていて入るのに少々手間取ってしまいましたが何とかここまで来れましたよ」


仮面をつけた男とウィッチが何やら話を始めたためソフィアは聞き耳を立てる。


「クラウンの失態のおかげで騎士団と冒険者に睨まれてしまいました。これから例の計画を進めていくというのにまったく……」


「私はどう動けばよろしいでしょうか」


「キングから私に会いたいと連絡が来ております。貴女はキングと接触して下さい。そこで私から指示を出します」


「イエス。マスター」


聞こえて来た話し声にソフィアは目を大きく見開き両手をきつく握りしめた。


「っ」


気付かれる前にその場から急いで離れて工房まで駆け込む。


「はぁ、はぁ」


「お帰り~。そんなに慌てて如何したの?」


扉を乱暴に閉める音に気付きやって来たポルトが首を傾げた。


「ポルト、大変よ。私大変なことを聞いてしまったわ」


「え?」


顔色の悪い彼女の言葉に彼が驚く。


「黒の集団のメンバーがまだこの国に潜伏していたのよ。また何か企んでいるみたいだわ」


「えぇ!? 黒の集団がまだこの国に? それでお姉さん。そいつらは何を企んでるの」


「気付かれる前に逃げ出してきてしまったから何をやるのかまでは分からないわ」


ソフィアの言葉に盛大に驚き尋ねるポルトへと彼女は首を振って答える。


「兎に角この話をレイヴィンさんにしてくるわ」


「お姉さん待って。一人だとまた狙われたらどうする気なのさ。イクトに頼みに行ってみようよ」


「そうね。イクト君なら話を聞いてくれると思うから」


こうして二人は工房を出てイクトのいる仕立て屋へと向かって行った。


「成る程。黒の集団がね」


「それでその話を今からレイヴィンさんに伝えようと思って」


「だけどソフィーは一度黒の集団に狙われて攫われただろう。だから今回もその可能性があるからイクトに護衛してもらえると助かるんだよ」


考え深げな顔でイクトが呟くと二人は話す。


「分かった。護衛を引き受けるよ。ポルトは工房に帰るんだ」


「如何して? おいらも一緒に行くよ」


彼の言葉にポルトが不機嫌そうな顔で言う。


「気持ちはわかるけれど工房を空けておくのは心配なんだ。……俺は前回の主謀者は本当の主謀者ではないと思っているから」


「それはどういう意味かしら」


イクトの言葉にソフィアは不思議そうに尋ねる。


「もし本当にこの前のクラウンだったっけ。彼が主謀者だったとしたら黒の集団は頭を失い組織自体の機能が停止するはず。だが実際にソフィーが黒の集団がまだこの国に潜伏していて何か企んでいるのを聞いたのであればクラウンと言う男は主謀者ではないと思ったんだ。別の誰かがいてその誰かの命令で彼等は動いている」


「成る程。確かにそれなら辻褄が合うわね。主謀者がいなくなったのにいまだにこの国に潜伏しているなんて可笑しいもの」


「それじゃあ誰が主謀者なの?」


彼の話に納得して頷くソフィア。ポルトの言葉に少し考えてからイクトが口を開く。


「それは俺にも分からない。だからこそこれから調べていくしかないと思う」


「さっき言っていた工房を空けない方が良いって事とこの話がどうつながるの?」


彼の言葉にポルトがさらに質問する。


「主謀者が別にいるならソフィーを攫って来いって言った人物も違う人の可能性が出て来るだろう。だからソフィー達が工房を空けている間に色々と物色されたりしたら困るだろうと思ってね。あそこには錬金術で作ったアイテムが一杯あるから。それを持っていかれて悪用されでもしたらそれこそ問題になるだろうし」


「そっか。分かった。おいら工房に戻ってお店を守るよ」


イクトの話を聞いて合点がいった様子で彼が大きく頷くと工房へと帰って行った。


「それじゃあ、ソフィー王宮に行こうか」


「えぇ。お願いするわ」


彼の言葉にソフィアも答えると二人は王宮へと向けて歩き出す。これからなにが待ち受けているのか今の彼女達では分からないことだらけだが黒の集団の陰謀を阻止するためにもレイヴィンの下へ話をしに行かなくてはならないのであった。

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