十七章 それぞれの思い
ソフィアが皆を見送ってから工房で待っていると扉が開かれ誰かが入って来る。
「すみません今日は臨時休業で……って、イクト君?」
「……」
扉の前には不愛想な顔で佇むイクトの姿があり一体どうしたのだろうと近寄っていった。
「……ん」
「へ?」
彼が右手を差し出し小袋を渡してくる。その様子に驚いていると苛立った顔でさっさと受け取れと言わんばかりに睨みつけられる。
「これは……シルバーインゴット!? 丁度切れていたから欲しいと思っていたの。でもどうして?」
「俺は別にどうでもよかったんだけれど、おばさんがどうしても届けてくれってお小遣い倍にしてくれるって言うから仕方なく来てやったんだ。あんたの店ライゼン通り中で噂になってるんだ。リリアの記憶を取り戻すために蘇りのペンダントをあんたが作るらしいってね」
小袋を開けると一本の良質なシルバーインゴットが丸々入っていて驚く。そんな彼女へとイクトがふてぶてしい態度で説明した。
「そんな噂に……」
「それで自分も協力したいとか何とか相変わらずいらないお節介をするおばさんだよね。自分に関係ない事なんか放っておけばいいのに。じゃ、確かに届けたからな」
よほど届けるのが面倒だったのか早々に帰ろうとする彼の様子にソフィアは慌てて口を開く。
「あ、待ってイクト君! あの、有り難う」
「ふん。それはおばさんに言えば、あの人馬鹿みたいに他人の事でも自分の事のように喜ぶからさ」
お礼を言うソフィアへとイクトが鼻を鳴らしさっさと出て行ってしまった。
「イクト君、ミラさん有り難う」
既に見えなくなった彼の背中へと向けて頭を下げる。ソフィアが工房で皆の帰りを待っているころドラゴンの巣窟と言われている洞窟にレイヴィン達の姿があった。
「レオ様危険ですから絶対に俺等の前に出ないでくださいよ」
「分かっている。それよりもリリアの記憶を取り戻すため私達が出来る事をしてあげよう。レイヴィンの為に、な」
「えぇ、絶対に竜神の瞳を手に入れて帰りましょう」
対峙する巨大なドラゴンから視線をそらさず背後で庇うレオへと隊長が声をかける。それに彼が答えると最後はにこりと笑う。ディッドも目の前の相手へと剣を向けたまま話す。
「ディッド、奴の周りを固める。行くぞ」
「了解っす!」
レイヴィンの指示に彼が返事をすると三人は陣形を崩さずにドラゴンへと間合いを詰めていく。
そうして三人が竜神の瞳を手に入れる為ドラゴンと対峙していた頃、ポルトとハンスは無事に妖精の里までやってきていた。
「ここがおいらたちが住む妖精の里だよ。ここにいろんな妖精が暮らしているんだ」
「ここが妖精の里……」
ポルトの案内で辿り着いた妖精の里を見回し夢見心地なハンスへと彼がにこりと笑うと口を開く。
「それじゃあおいら族長に精霊の雫を別けてもらえないか聞いてくるよ」
「ポルト君待ちなさい」
「?」
駆け出したポルトを慌てて呼び止める彼へと不思議に思いふり返る。
「リリアの為に何かしてあげたいのはあなただけではありませんよ。私も一緒に行きます」
「!? ……そうだよね。おいらそんなことまで抜け落ちてるなんて焦りすぎてたよ。分かった。一緒に行こう」
ハンスの言葉に驚いたが自分の気が焦っていた事に気付かされにこりと笑い二人で族長の家へと向かっていった。
こうしてポルト達が族長に会いに行っているころ山へとやって来たリリア達はローリエの案内で月光花の咲いているとされる場所まで来ていた。
「ここが昔おじいちゃんから教わった場所になります」
「この時間では本当に月光花の咲いている場所なのかどうかわからないわね」
ローリエの言葉にリーナが困った顔で呟く。
「暗くなるまで待ちましょう」
「はい」
ユリアの言葉にリリアが返事をすると日が落ち満月が差し込むまで様子を見ようとその辺りの木陰に座り休憩することにした。
その頃皆が無事に帰ることを願い一人きりの工房で心配しながら待つソフィア。扉が開かれるのを待っていると誰かが入って来る。
「っ! ……あ、マルセン君いらしゃい。でも今日はお店臨時休業なのよ」
「そんなことは知ってるよ。リリアの為に蘇りのペンダントを作るんだろう。それを知ってこれを持ってきたんだ」
皆が戻って来たのかと思い顔を上げた彼女の目に飛び込んできたのはマルセンの姿で、気が抜けた顔で答えると彼が分かっていると言って何かを差し出す。
「わぁ~。美味しそうなスープ」
「おふくろと一緒に作ったんだ。きっと今頃ソフィーは大変だろうからって、これを差し入れで持って行ってやれってさ」
差し出されたお鍋の中には湯気を立てた暖かくておいしそうなスープがたっぷり入っており微笑むソフィアへとマルセンがにこりと笑い説明する。
「マルセン君有り難う」
「俺もここにいる。ここにいてソフィーの錬金術が完成する瞬間を一緒に見届ける。ダメかな」
お礼を言う彼女へと彼が真剣な顔で話す。
「いいえ、駄目じゃないわ。正直言うと一人で心細かったの。お話相手になってくれると助かるわ」
「それじゃあ俺蘇りのペンダントが出来るまでここにいるからな」
マルセンの言葉ににこりと笑いソフィアは答える。すると彼が向日葵のような明るく温かい笑顔で安心させるように話した。
「大丈夫さ。皆無事に戻ってくるって。隊長達は強いし、ちょっとやそっとじゃ死にやしないって。ポルトとハンスだって危険な所に行ったわけじゃないんだろう。なら無事に戻ってくるさ。妖精って幸運を運ぶって言うしな。リリア達にはリーナがついてる。あの人は頭がいいから危険だと思ったら逃げたりするからだから大丈夫さ。それにユリアって案外強いんだろう。女四人そろえば怖いものなしだよ。だからソフィー大丈夫だ」
「うん、そうよね。有り難うマルセン君」
ソフィアが心細いと思っていたところにやって来たマルセンがふざけたり調子をこいたりして笑わせてくれるおかげで、皆が戻って来るまでの長く感じる不安な時間が少しだけ楽になったようなそんな気がして彼女は再度彼へとお礼を述べる。
そうこうしているうちに辺りはすっかり暗くなり誰も戻ってこないまま深夜を迎えた。
皆が戻って来るまで心配で眠れないソフィアの隣に寄り添うようにマルセンも睡魔を我慢して付き合ってくれる。
「マルセン君眠かったら眠っても大丈夫だからね」
「いや、大丈夫だ。不安そうな顔で待ち続ける女性一人を残して俺だけ寝られないよ」
「もう、マルセン君たら」
舟をこぎ始める彼へと彼女は言うと眠気を吹き飛ばすように頭を振ってにこりと微笑み答える。その言葉がおかしくてソフィアはくすくす笑う。こうしてこの日の夜は更けて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます