十六章 蘇りのペンダント

 レイヴィンから話を聞いた翌日。朝も早いうちから工房の扉が開かれ誰かが入って来る。


「お邪魔する」


「はい、あれ、レイヴィンさん?」


「隊長こんな朝早くからどうしたの?」


やって来たのは隊長でこんな朝早くからどうしたのだろうとソフィア達は近寄っていった。


「ソフィーに昨日言い忘れたことがあってな。昨日の話だけれど絶対に誰にも話さないでもらいたいんだ。お願いできるかな」


「勿論です。絶対誰にも話したりしません」


「有り難う」


真剣な顔でお願いするレイヴィンへと彼女は分かっているといいたげに答える。その返事を聞いて安心した表情で笑った。


「二人ともいつの間にそんなひみつのかんけいになっちゃったの?」


「ち、違うのよ。特別な関係とかじゃないからね」


「そ、俺達は秘密を共有する深~い関係なんだよ」


その様子を疑問に思い見詰めるポルトへと慌てて答えるソフィア。しかしレイヴィンがにこりと笑い肯定するように話す。


「おいらが知らないうちにいつの間に~!?」


「そんな関係にはなってません。隊長もちゃかさない。ポルトも納得しない」


驚いて叫ぶ彼へと彼女は少し怒ったような口調で話す。


「は~い」


「冗談だよ、冗談」


二人はそれぞれ答えると少しの間が出来る。


「……それで、今日来たのはもう一つ理由があって。俺なりに知り合いに聞いたりしてリリアの記憶を取り戻す方法がないか調べてみたんだ。それで、リリアの記憶を取り戻せるかもしれない錬金術のアイテムがあるらしいことが分かった。蘇りのペンダントっていうらしいんだけれどそれを君なら作れないかと思って」


「蘇りのペンダント作れないことはないですが、難しいと思います」


「そうなの?」


隊長の言葉にソフィアは困った顔で答えた。ポルトが分かっていないといった様子で尋ねる。


「ペンダントを作る素材がどうしても足りないんです。そしてそれはとても採取するのが困難な物ばかりで」


「その素材ってどんなものなのですか」


彼女の言葉に今まで黙って話を聞いていたリリアも自分の事だからと気になって尋ねた。


「竜神の瞳と精霊の雫と千年に一度だけ満月の夜に花を咲かせるという月光花。それがないと作れないんです」


「竜神の瞳か……それなら俺が心当たりある。取ってくるよ」


「おいらも精霊の雫なら妖精の里に行ってもらってくるよ」


「話は分かりました。私も協力いたしますよ」


「「「「!?」」」」


ソフィアの話に答えるレイヴィンとポルトだがそこに第三者の声が聞こえ皆驚く。


「ハンスさん。それにレオさんにディッドさんもいつからそこに?」


「蘇りのペンダントの話をし始めた頃からですよ。ポルト君だけで町の外へ行くのは危険でしょうから私が同伴致します」


驚いたまま尋ねる彼女へとハンスが答える。


「レイヴィン、まさかあの場所に一人で行く気ではないだろうな。私達も一緒に行くぞ」


「隊長のいくところにどこまでもお供しますよ」


「レオ様、ディッド……」


レオとディッドの言葉にレイヴィンが二人を見詰め頭を下げた。


「俺達が必ず素材を持って帰るからソフィーは工房で準備をして待っていてくれ」


「分かりました」


隊長の言葉にソフィアは力強く頷く。


「あの、これは私の記憶を取り戻すためのアイテムを作るんですよね。それなら私も一緒に行きます」


「リリアはダメだ!」


「!?」


話を聞いていたリリアが自分も採取地へと向かうと告げると、いつになくきつい口調で怒鳴るようにレイヴィンが言う。その声量と気迫に驚き固まる。


「あ、大きな声を出してしまいすまない。だが、とても危険な所に採取に行く。だから君はここでソフィーと一緒に錬金術の準備をして待っていてもらいたいんだ」


「そうよ。竜神の瞳と精霊の雫は皆に任せて私達はここで準備をして待っていましょう」


固まってしまった彼女の様子に怒鳴りつけるみたいに言って驚かせてしまった事を謝り説明する。それに真っ先に賛成の声をあげたのはソフィアであった。


「? 隊長もソフィーも変なの」


「だが二人の判断は正しい事だよ。竜神の瞳はドラゴンが住むと言われる洞窟の奥にある。そして精霊の雫も木こりの森の奥にある迷いの森を抜けたさきに精霊の里に繫がっている空間があるのだろう。そんな所いくら妖精のポルト君が一緒だったとしてもよほど旅慣れしているか、森に詳しい者でないと迷ってしまっては危険だ」


「加えて最近木こりの森ではアイアンゴーレムの噂まである。そんな所に女性を連れて行くのは心配だと思わないかな」


二人の様子がおかしいと言わんばかりのポルトにレオとディッドが説明するように話す。


「それは、確かにそうかも……そうだよね。危険な所にソフィーやリリアを連れて行くのはよくないよね」


「そう言う事だから二人はここに残ってもらう。分かってもらえたかな」


「はい……」


話を聞いて納得した彼から視線を外しレイヴィンがリリアへと言葉を投げかける。それに彼女が何事か言いたげな顔ではあったが小さく頷き引き下がった。


こうしてレオ達は竜神の瞳を取りに、ポルト達は妖精の里へと向かって工房を出て行った。


「後は月光花だけね。これをどうするか考えないと」


「その事なら心配ご無用よ」


「リーナさん、それにローリエにユリアさんも」


工房で留守番をするソフィアが小さく呟いた時誰かの声が聞こえ扉の方を見るとリーナ達が立っていた。


「話は隊長達から聞いたわ。それで月光花についてなんだけれどローリエが詳しく知っているらしいの」


「昔先代であったおじいちゃんに教えてもらったことがあるんです。その山に行けば月光花を手に入れられると思います」


「そこでわたし達でその山に取りに行こうって事になったのですよ」


リーナが言うとローリエが説明し、ユリアがにこりと笑い話す。


「皆有り難う!」


「あの、やっぱり私も行く。自分の事なのに皆さんにばかり頼るのは間違いだと思うので」


「リリア……分かったわ。でも絶対に危険だと思ったら無理しないでね」


ソフィアがにこりと笑いお礼を言っているとずっと押し黙り考え込んでいたリリアが口を開く。その真剣な眼差しに彼女は折れて山に行く事を認める。


「それじゃあ、行ってきます」


「気を付けてね」


許してもらえたリリアが嬉しそうに微笑み言うと彼女は心配そうな顔で見送った。


こうしてリリア達が月光花を探しに工房を出て行って、ソフィア一人で皆の帰りを待つこととなる。


「皆の事を信じて私は今できる事をして待ってよう。……皆如何か無事に帰って来てね」


ソフィアは皆が出て行った扉を見詰めて祈るように呟いた。

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