十八章 さよならとまた会うための約束を
丑三つ時と言われる時間帯。眠いのを我慢して付き合っているマルセンに暖かなココアを入れてあげようと立ち上がったその時工房の扉が開かれる。
「ただいま!」
「ふ~。ようやく戻ってこれましたよ」
「ポルト、ハンスさん。お帰りなさい」
笑顔でポルトが扉を開けて入って来るとくたびれた表情でハンスもやって来る。ソフィアは二人が無事に戻ってきたことに顔をほころばせて喜ぶ。
「はい、お姉さん。これがおいらとハンスで頼んで貰ってきた精霊の雫だよ」
「ポルト、ハンスさん。有り難う御座います」
ポルトが両手で抱え大事そうに持ち帰った精霊の雫を差し出す。それをしっかりと受け取ると再び扉が開かれ誰かが入ってきた。
「待たせたな」
「無事に手に入れて来たぞ」
「お待たせしました」
「レイヴィンさん、レオさん、ディッドさんお帰りなさい」
今度はあちこちボロボロになった格好でレイヴィン達が入って来る。怪我をしてはいないかと不安になり駆け寄った。
「こんなのただのかすり傷だ。だから大丈夫」
「ソフィーさんが作ってくださった傷薬のおかげで皆無事だよ」
「ただ、持たせてくれたアイテム全部使い切ってしまいましたけどね」
「皆が無事でよかったです」
三人の言葉に安堵するとレイヴィンが右手を差し出す。
「受け取ってくれ。これが竜神の瞳だ」
「はい」
隊長の手からしっかりと受け取った竜神の瞳を見詰めていると再び扉が開かれた。
「ただいま戻りました」
「遅くなってごめんなさいね」
「無事に月光花を手に入れましたよ」
「月光花は千年に一度満月の光を浴びて咲く花。その名前の通りに咲くまでは何処にその花があるのか全く分からなかったのですが、ローリエさんから教わった場所は月光花の群生地でこんなにたくさん採取することが出来ました」
リリアの声が聞こえてくるとリーナとローリエそして最後にユリアが入ってきながら説明する。
「皆で採取に夢中になりすぎちゃったら遅くなってしまってね。これで足りるわよね」
「えぇ。リリア、リーナさん、ローリエ、ユリアさん有難う御座います。さて、後は私に任せて下さい」
「おいらもお手伝いするよ」
「私も、自分の事ですので」
リーナの言葉にソフィアは答えると準備していた工房の奥へと向かう。その様子にポルトとリリアが頷き合い手伝うという。
「それじゃあ。ポルトは黄色の薬の準備をお願い、リリアは月光花を煮詰めて出汁を抽出。お願いね」
「分かった」
「分かりました」
手伝うという二人ににこりと笑うとソフィアは指示を出す。そうして三人で一緒に錬金術をおこなう。黄色の薬に竜神の瞳を合わせ、精霊の雫を一つ落とし、月光花の出汁をフラスコで混ぜ合わせたなら祈りを込めて念を送りシルバーインゴッドを投入する。そうして黄金色に輝く室内で浮かび上がってきたダイヤの形のペンダント。見る見るうちに光は収まりソフィアの掌に完成したアイテムが乗っていた。
「完成よ!」
「やったぁ~」
「やったー」
にこりと笑う彼女の言葉に手伝っていたポルトとリリアが喜ぶ。皆も嬉しそうに拍手を送った。
「さ、リリア。これを受け取って。皆が貴女の為に採取を手伝ってくれて出来上がった蘇りのペンダントよ」
「はい……」
『……』
リリアへとペンダントを差し出すソフィアの手からそれを受け取った彼女が首元へと着ける。皆固唾を呑みその様子を見守った。
「リリア……」
「……私が誰で、何処から来たのか。そして今まで何を忘れていたのか。全て思い出しました。私一度オルドーラに行きます。会いたい人達がいるので、皆きっと今頃心配していると思うのでだから、一度故郷に帰ります」
「もうここには戻ってこないの?」
そっと呼びかける彼女の言葉に反応するように瞳を開いたリリアが少しだけ寂しそうな顔でにこりと笑い語る。その話にポルトが涙目で問いかけた。
「ずっと、心配して待っていてくれている人達がいると思うので、その人達に会いに行かないといけないんです。でも、またここに戻ってきます。故郷にいる人達に会いに行った後、何十年経ったとしてもちゃんと戻ってきますので、ですからこれでさよならではありませんから」
「そうよ。リリアにはリリアの事を心配して帰りを待ってくれている友人がいるかもしれないんだもの。その人達をずっと心配させたままなんて良くないわ。ポルトだってもし私がここで出会った人達に何も告げずにいなくなったら心配してくれるでしょう」
彼女の言葉にソフィアが説明するように語る。
「そりゃあソフィーがいなくなったらおいら心配して探し回るよ。あ。……そうかぁ。そうだよね、リリアにもそういう人達がいるんだね。分かった。でもまた遊びに来てくれよ」
「えぇ。また絶対に必ず会いに来ます」
その言葉で理解できたらしいポルトが寂しいけれどお別れを受け入れ涙をぬぐいにこりと笑う。それにリリアも力強く頷き返事をする。
こうしてリリアは記憶を取り戻し故郷であるオルドーラにいる友人達に会うため翌朝コーディル王国を旅立って行った。
そうしてリリアを見送り一人欠けた工房でソフィアとポルトは部屋の中を見回す。
「……リリア行っちゃったね」
「うん」
「工房こんなに広かったんだね」
「うん……」
彼の言葉に小さく頷くだけで何も言わない彼女の様子にポルトはちらりと顔を見上げる。
「お姉さん、泣かないで。リリアだってまた会いに来るって言ってくれたじゃないか。ソフィーが泣いちゃったらおいらまで悲しくなるだろぅ……」
「ごめんね、ポルト。でも、私たった半年一緒に過ごしただけで、こんなにリリアと別れるのが辛くなるなんて思っていなかったの。どうするのかはリリアが決めていいって言っておきながら駄目だね私……うっ……うぅ」
彼の言葉に堪えきれなくなった涙で頬を濡らす。
「ソフィー……おいらも、おいらもこの町に来たばかりで知り合いも誰もいなかった時にすごく心細かった。でもお姉さんと出会ってこの町の人達と知り合いになれてすごく嬉しかった。リリアとも少ししか一緒に生活できなかったけれどでもこの町で知り合いが増えて本当に良かったって思えてだから……お友達が一人いなくなっただけでこんなに寂しいなんておいらどうしたらいいのか分からないんだ」
「ポルト……リリアはきっとまた私達に会いに来てくれるよね。だって約束したんだものまた会いに来るって……」
ついにポルトまで泣き出してしまいそんな彼をあやすように抱き締めにこりと笑う。
「うん、そうだよ。リリアまた記憶喪失になって戻ってくるよ。そうしたらまたこの工房で一緒に生活すればいいさ」
「記憶喪失になって戻ってくるかどうかは分からないけれど、きっとまた会えるわよ」
ソフィアの言葉に励まされた彼が笑顔で言った言葉に彼女はおかしくて小さく笑う。
「うん! ……朝ごはん食べよう。マルセンが持ってきてくれたスープ温め直してさ」
「そうね。ご飯を食べたら今日からまた工房をオープンさせるよ」
「うん。リリアがいなくてもおいらが何でもお手伝いするからだから任せてよ」
ようやくいつもの笑顔が戻った二人はリリアがいなくなった工房での生活に戻る。
さよならして終わりじゃない。またいつか再会できる日を楽しみにしながら二人は今日からまた二人きりの工房での生活に戻っていった。
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