十四章 リリアについて
寒風吹きすさぶ冬のある日。ソフィアのお店の扉が開かれお客が入って来る。
「失礼する」
「はい。あ、ハンスさん。いらっしゃい」
入ってきたのは商人のハンスでソフィアはどういった御用なのだろうと近寄っていった。
「リリアの身元ついて私なりに何かわからないかと調べてみた結果をお伝えしに来た」
「私の身元?」
「つまり出生地や家族の事とかを調べてくれていたって事ね」
彼の言葉にリリアが不思議そうに首をかしげる。その横に立ちソフィアは話す。
「リリアの記憶が少しでも戻ればと思い、私なりに協力させてもらおうと思ってな」
「へ~ハンス。いいとこあるじゃん。ね、お姉さん」
「そうね。私達も一応一通り調べては見たけれども、まるで記録がないかのように何の手がかりも見つけられなくて。リリアもあれから思い出したことはオルドゥラで錬金術師として生活していて、施設長って人が親身になっていろいろとやってくれた事だけで、家族の事も自分の事も何も思い出せていないみたいだから」
ハンスの言葉にポルトがにこりと笑い同意を求める。それに彼女も笑顔で頷き話した。
「そうでしょう。私はとても親切で世話焼きなんです。ソフィーやリリアのために何か力になりたいと思ったのですよ」
「リリアは分かるけど、どうしてそこでソフィーが出てくるの?」
ズレてもいないモノクルを上げ直し不敵に微笑む彼の言葉にポルトが尋ねる。
「妖精さんは知らなくていいのです」
「「「?」」」
頬を赤らめ取り繕うハンスの様子に三人して不思議そうな顔で彼を見詰めた。
「と、兎に角。今現在で分かった事をお伝えいたします。リリアが言っていたオルドゥラというのはいまのオルドーラ王国になる約千年も前の国名であることが分かりました。何故リリアがオルドーラではなくオルドゥラと言ったのかは分かりませんが、彼女がその国にいたことは間違いないでしょう」
「「「……」」」
語り出したハンスの言葉に三人は真剣に聞き入る。
「そして、その昔オルドーラ王国の錬金術師の第一人者と呼ばれていた人物が「リリア」という名前であるという事も分かりました。「リリア」という名前は女性ではありきたりな名前なので同姓同名の別人という事も考えられますが、その錬金術師も現在はオルドーラにはいません。ある日忽然と姿を消し行方不明となったのです。それが丁度リリアがここコーディル王国に来る直前の出来事なのです。そしてリリアも錬金術師のライセンスを持っている。……以上の事からリリアがその伝説の錬金術師の可能性もあるという見解に行き当たりました」
「「リリアが伝説の錬金術師!?」」
「私が伝説の錬金術師?」
語り終えた彼の言葉に三人は三者三様で驚く。リリアはいまいちよくわかっていないといった顔をしていた。
「あくまで可能性のお話ですので、全くの別人という事もあります。ですが、わずかでも可能性があることが分かったので、お伝えに参ったのですよ」
「もし、本当にリリアがその伝説の錬金術師だとしたらどうして記憶喪失になっちゃったの?」
「錬金術の失敗で記憶が一時的に飛ぶなんて聞いたことはないし……でも確かに錬金術のアイテムの中には記憶を忘れる物もあるからそれを誤って飲んでしまったって事はあり得るわね」
ハンスの言葉にポルトが分からないといった顔で問いかける。それにソフィアは説明するように話した。
「そう言えば前に隊長リリアの事知っているみたいな感じで話していたよね。隊長に聞けば何かわかるかもしれないよ」
「そう言われてみれば、確かにリリアを見て驚いた顔をしていたわね」
ポルトが言うと彼女もリリアを見た時のレイヴィンの様子を思い出しながら話す。
「リリアは隊長とお知り合いだったのでは?」
「う~ん…………分からない」
「「「……」」」
ハンスの言葉に彼女も考えてみるが思い出せない様子で首をかしげる。その様子に三人は盛大に肩を落とした。
「ねぇ、お姉さん。おいらが見た感じ隊長はリリアの事すごく大切そうな愛おしい目で見ていた気がするんだ」
「私も割れ物を扱うかのように優しくエスコートする様子を見ていましたよ」
「つまりレイヴィンさんとリリアは幼いころどこかで出会っていてお互いとても大切な存在だったって事よね」
リリアから背を向けて三人は小声で話し合う。
「リリアがああでは苦労するでしょうね」
「レイヴィンさんの事まったく覚えていないみたいだからね」
「隊長かわいそ~」
こそこそと話し合うソフィア達。一方話題に出ているリリアは三人の声が全く聞こえておらず不思議そうな顔で彼女等を見詰める。
「隊長の為にもリリアの記憶を取り戻してあげないとね」
「えぇ。そうね、頑張りましょう」
「私も協力いたしますよ」
「うん? 有り難う?」
やる気満々で話す三人の様子に彼女が不思議そうに首を傾げ疑問形でお礼を述べた。
「今度レイヴィンさんに会ってリリアについて何か知っていることがあったら教えてもらえないか聞いてみるわね」
「隊長お姉さんの事好きみたいだから何でも教えてくれるんじゃない」
ソフィアの言葉にポルトが答える。
「まさかとは思うが、騎士団の隊長が女性なら誰彼構わず好きになるなんてことはないとは思いたいですが、ソフィーに続けてリリアの事もとなると少し……いえ、これ以上は止めておきましょう」
「「「?」」」
小声で何事か呟くハンスの様子に三人は不思議そうに首をかしげた。
「いえ、何でもないのです。何でも。……それでは、私はこれで失礼しますよ。ソフィー、また何かわかりましたらお伝えしにまいりますね」
「えぇ。有り難う御座います」
気にするなといいたげに微笑むとお店を出て行く旨を伝える。その言葉にソフィアは笑顔で見送った。
「リリアの記憶喪失について少しだけ前進したようでおいらなんだか嬉しい」
「えぇ、そうね。確証はないけれどもレイヴィンさんに話を聞いてみたらその事と何かつながる話が出てくるかもしれないし、少しだけでも分って良かったわね」
ポルトが笑顔で話す横でソフィアも頷き語る。
「そう、ですね。……私、また忘れちゃうのかな」
「「?」」
「何でもないです」
リリアが顔を曇らせ呟いた言葉に二人は彼女の方をじっと見詰め疑問符を浮かべた。
その様子にリリアがにこりと笑うと気にするなと話す。
果たしてハンスが持ってきた情報はリリアと直接にかかわりがあるのかどうなのか。それを知っていると思われるレイヴィンの下へと今度話を聞きに行く事となった。
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