十一章 記憶喪失の少女
太古の湖からの帰り道、木こりの森まで戻って来てあと少しで町に着くという時である。
「っ!? 大変、人が倒れている。あの、大丈夫ですか?」
「「「!?」」」
一番に気付いたのはソフィアで道に人が倒れている様子に慌てて駆け寄り怪我がないかを確認した。
後からやって来た三人も倒れている少女の姿に各々驚く。
「う……ん」
「見たところ怪我はなさそう。という事は行き倒れ?!」
「ここは危険だ。とりあえず安全な町の中まで連れて帰ろう」
少女が小さく身じろぐ様子に息をしていることに安堵する。体に怪我がないことを確認したソフィアはひとまず安心だと思ったが、行き倒れを発見したことに驚く。
レイヴィンのもっともな発言に少女を連れて町の中まで戻ると、とりあえず工房に連れて帰り看病する。
「それじゃあ、この人が森の中で行き倒れていたって事?」
「えぇ。どうしてあんなところに倒れていたのか分からないけれど、彼女が目を覚ましたらいろいろと聞いてみようって事になったの」
少女を連れて戻ってきた彼女達の様子に留守番をしていたポルトが驚く。彼に事情を説明していると再び少女が小さく身じろいだ。
「う……あれ、ここは?」
「あ、目が覚めたのね。良かった。貴女森の中で倒れていたのよ。どうしてあんなところにいたの?」
目を覚ました少女の様子に安堵したソフィアは続けて問いかける。
「森の中に? …………う~ん。思い出せない」
「それじゃあ、貴女どこから来たの?」
「……オルドゥラ」
「!?」
どうして森の中にいたのか思い出せないという彼女に質問を変えて聞いてみると少女は数秒考えるように黙り小さく答えた。その言葉にレイヴィンが目を見開き彼女の顔を凝視する。
(オルドゥラってどこかで聞いたことがあるような……)
「やっぱり。どこかで見たことある顔だと思ったが……貴女はリリアか?」
「リリア……それが私の名前?」
ソフィアが内心で考えていると、隊長が少女の前へと進み出て膝を曲げると彼女と視線を合わせ問いかけた。
その言葉に少女は不思議そうに首を傾げる。
「この子変だよ? 自分の名前も覚えていないなんて」
「もしや、記憶喪失なのでは?」
ポルトの言葉にハンスが仮説を唱えた。
「他に覚えている事とかないの?」
「………分からない」
ソフィアの言葉に頭を捻り考えてみる少女であったが何も思い出せないのか首を振る。
「きっと記憶の混乱だろう。しばらく経てばある程度は思い出せると思う。それより、ソフィーこれを見て見ろ」
「錬金術師のライセンス。……ずいぶんと古い物みたいだけれど、これを持っているってことは貴女、錬金術師なのね」
少女の首から下げられているライセンスを確認したレイヴィンが彼女へと見せた。それを見たソフィアがはっきりと刻まれている文字を読み彼女の顔を見詰める。
「錬金術……そうだ、私錬金術師だった」
「ここに名前も書かれているわね。……リリア。リリアって名前で間違いはないみたいよ」
「リリア、それが私の名前」
譫言のように呟く少女のライセンスにははっきりと「リリア」と書かれておりそれを伝えると彼女は自分の名前なのに不思議そうに呟く。
「彼女の身柄は王国騎士団が保護する。とりあえずその後は、また話をしに来るから。ソフィーそれでいいな。……お嬢さん。一緒に来て頂けますか」
「はい。……あの、皆さん。ご迷惑をおかけしたようで、ごめんなさい」
隊長の言葉に大丈夫かなといった感じで少女を見詰めるソフィア。話を聞いて理解したリリアがこの場にいる全員へと頭を下げて謝る。
そうしてレイヴィンに連れられ彼女は部屋を後にした。
「はぁ。面倒な事に巻き込まれた。俺は疲れたから帰って寝る」
「では、私も戻らねばならないのでこれで失礼します。ソフィー。あの少女の事で何かありましたら力になりますので、いつでも相談くださいね」
頭を書いて疲れた様子で話すイクトの横でハンスがソフィアに微笑み語る。
「隊長に任せておけば大丈夫だよお姉さん。そんなに心配しないで、ね」
「うん。……リリア。身柄を保護するって言っていたけれど、大丈夫なのかな」
ポルトも安心させるように話すも、浮かない顔で心配そうに彼女は呟く。
「また後で話に来てくれるって言っていたし、大丈夫だと思うよ」
「そんなに心配なら後で騎士団に様子でも見に行けばいいだろう」
励ますポルトの言葉に小さく頷くも上の空の様子にイクトがめんどくさい奴だといいたげにぼやいた。
「そうね。後で話を聞きに行ってみるわ」
こうしてこの話はここでお仕舞となり。イクトとハンスと別れた後、ポルトからお留守番中の出来事を聞いて過ごす。
「お邪魔する」
「はい。あ、隊長。それにさっきの……」
昼過ぎ工房の扉が開かれレイヴィンがリリアを連れて来店する。
「リリアです。あの、ソフィーさんが私を助けてくれたって聞きました。有り難う御座います」
「いいのよ。それよりどうして家に?」
どうして二人が工房へとやって来たのか分からず不思議そうに問いかけた。
「彼女はある理由から記憶喪失となってしまったようでね。それで記憶が戻るまでの間、錬金術師のライセンスもある事だし、君の店で働かせてもらえないかと思ってね」
「それってつまり、私が彼女を保護するという事ですか」
「まぁ、見つけて助けたのがソフィーって事で君の下で預かってもらえないかという話が出たんだ」
隊長の言葉に驚いて尋ねるとにこりと笑いレイヴィンが説明する。
「でも、記憶喪失って相当なショックがないとなかなかなるようなものでもないですよね。一体リリアの身に何が?」
「まぁ、それはおいおいわかるだろうという事で、とりあえず今は彼女の居場所を作ってあげることが大事だという話だ。それでソフィーに頼みに来たんだよ。お願いできるかな」
どんな理由で記憶喪失になったのだろうと考える彼女に隊長が笑顔を崩さず話す。
「分かりました。リリアの記憶が戻るまでの間、私が責任をもって預からせて頂きます」
「有り難う。……というわけだ。リリアよかったな」
「はい。ソフィーさんこれからよろしくお願い致します」
断る理由もないので了承するソフィアへとレイヴィンが嬉しそうに笑いリリアに話しかける。彼女も理解したらしく頭を下げてお願いした。
「おいらもいるよ。リリアはおいらの後輩ってことになるんだよね。おいらは先輩だから先輩の言う事は何でも聞くんだぞ」
「はい。ポルト先輩もよろしくお願い致します」
ポルトの言葉にリリアもにこりと笑い答える。こうして記憶喪失の少女を工房で預かる事となり、お店番などのお手伝いを頼めるようになった。
リリアとの出会いが、後々悲惨な事件の解決となるのはまた別の物語でのお話である。
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