九章 青年と騎士のご来店
ソフィアがこの町に来てから初めての秋を迎えた頃。
「お邪魔する」
「はい……あれ、貴方は確か……」
工房の扉が開かれお客が入って来ると対応しに動いた彼女は驚いて立ち止まる。
「王国騎士団第一部隊隊長のレイヴィンだ。ちょっと、そこに隠れさせてもらうぞ」
「はい?」
騎士団の男性が名乗るとお店のカウンターの後ろへと身を潜めた。その様子にソフィアは不思議そうに見ているしかできなくて、一体何事だと首をひねる。
「失礼する。お嬢さん、この前は工房へと来たのに何も注文せずに帰ってしまい申し訳ない。今日はちゃんと品物を買いに来ました」
「いらっしゃいませ。貴方は確かこの前の……どのようなお品をお探しですか」
再び扉が開かれ入ってきたのはこの前の青年で、また何でもいいと言われるのではないかと予想しながらも問いかけた。
「お嬢さんが作る錬金術の品であれば何でもいい」
「畏まりました。少し待っていてください」
やはりといった感じで彼が言った言葉にすでに準備をしておいたソフィアは奥の棚からあるものを持ってくる。
「こちらは如何でしょうか?」
「ふむ。これが錬金術で作った品か。なるほど……貴女の腕は確かなようだ。気に入った。これからも度々来店してもよろしいですか」
彼女が次に青年が来た時に渡そうと思っていたネクタイピンを見せると彼が微笑みそう話す。
「有り難う御座います。是非ともご贔屓になさっていただけたら嬉しいです」
「私はレオと言います。お嬢さんのお名前も教えてもらえませんか」
青年の言葉に笑顔で言うとレオと名乗った彼が名前を尋ねる。
「私はソフィアです。ソフィーって呼ばれています」
「おいらはポルトだよ」
「「!?」」
自己紹介をしているとそこに第三者の声が聞こえ下を見るといつの間にか買い物から帰ってきていたポルトの姿があった。
「君は……妖精か? 実際の妖精を見るのは初めてだな」
「お姉さんに頼まれていたお使い終わったよ」
「ポルト、有り難う」
独り言を呟き考えこむレオの横でソフィアへとポルトが話し御釣りを手渡す。
それに答えながらちらりとカウンターの方へと視線を向けた。
「ソフィー如何したの?」
「え、えぇっと。何でもないのよ」
その行動を不思議に思ったポルトへと彼女は慌てて取り繕う様に答える。
「しかし、レイヴィンに先回りされていると思っていたが、今日は見当違いだったか。これでゆっくりソフィーさん達とお話が出来る」
「はははっ。そう上手くはいきませんよ。レオ様。……とう! 王国騎士団第一部隊隊長、レイヴィン登場ってね」
レオの言葉にカウンターの後ろへと身を潜めていたレイヴィンが姿を現すと最後は照れ笑いしてウィンクを落とす。
「ふむ……やはりか」
「うわぁあ!? びっくりした」
「ポルト大丈夫?」
さして動揺した様子もなく青年が呟くと、盛大に驚いたポルトがこける。その様子にソフィアが慌てて起き上がらせながら尋ねた。
「うん、大丈夫。でもソフィーは驚かないの?」
「ごめんね。レイヴィンさんが隠れていた事私は知っていたから……」
「お嬢さんには協力してもらっていたのさ。レオ様は絶対ここに来ると思ってね」
彼へと彼女は謝りながら説明する。それににこりと笑い騎士団の男性も話した。
「それにしても……土の妖精さんに気に入られる錬金術師の少女か。うん、気に入った。ねぇ、君今好きな人とかいるの? もし独身なら俺君の事狙ってもいいかな?」
「へ、ええっ!?」
「また始まった。女性を口説くのはほどほどにしてくださいよ」
レイヴィンの言葉に驚くソフィアの耳にまたまた第三者の声が聞こえそちらを見ると騎士団の隊服を着た男性が立っていた。
「お、ディッド遅かったな」
「やれやれ、お目付け役が増えてしまったな」
「隊長が早すぎるんです。そしてレオ様お目付け役が増えたってどういう意味ですか?」
にこりと笑い扉の前に立っている青年へと声をかける彼に溜息を零すレオ。
そんな二人へ向けて騎士団の男性が口を開く。
「失礼、お嬢さん。隊長とレオ様がお邪魔してすみません。オレはディッド。王国騎士団第一部隊の新人の隊員です」
「は、はい。私はソフィア。ソフィーって呼ばれています」
真面目に自己紹介してくれる青年へとソフィアも名乗る。
「ソフィーは町の外に素材採取に行く事もあるんだろう。よし決めた! 俺が護衛する。町の外に行くときは声をかけてくれればいつでも手伝うよ」
「それなら私も護衛しよう。町の外は危険もいっぱいあるから、少しでも剣に覚えのある者が付いて行った方のが安全だろうから」
「はぁ……また始まった」
レイヴィンとレオの言葉に驚いているとディッドが溜息交じりにぼやく。
「最近町の外は物騒なんだ。アイアンゴーレムを見かけたってことで騎士団や冒険者が奴を倒そうと躍起になるほどに。だからそんな危険な所に君達だけで行かせられないって事」
「そう言えばそんな噂がライゼン通りの間でも広まってたね」
隊長の言葉にポルトも思い出した様子で話す。
「そうね。町の外へ行くときはお願いした方が安全かも」
「よし、それなら決まりだな。俺はいつでも王宮の門前に立って警備しているから、護衛をして欲しい時はそこに来てくれればいいぜ」
「何時でも声をかけてくれ。と言っても私はあまり外でフラフラできない身分でね。王立図書館によく本を借りに行くから、護衛を頼みたい時はそこに来てくれれば助かる」
「分かりました」
二人の話にソフィアは返事をする。
「騎士団の隊長と剣を扱えるレオか。お姉さん何だか頼もしいね」
「そうね。遠くに行く時とかは二人にお願いすることもあると思います。よろしくお願いします」
こして新たに護衛を頼めるようになり、これならば今までは行けなかった山や海といった場所にも採取に行けるかもしれないとソフィアは思った。
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