四章 インチキ商人登場!?
ソフィアがコーディル王国へと訪れてようやく生活に慣れ始めた頃。
「さて、必要な物はポルトがローリエさんのお店で買いそろえてくれているし、私は依頼された品を作るために早く工房に帰らないと」
リーナを連れて町のすぐ外にある始まりの原っぱで必要な素材を採取してきた彼女は工房へと向けて帰っていた。
「ちょっと、そこの可愛らしいお嬢さん。……ち、ちょっと、ちょっと。待って! そこの貴女ですよ」
「へ、わ、私ですか?!」
男性の声が聞こえ誰かを呼び止めたのだろうと気にする事もなく通り過ぎようとすると、慌てて言葉をかけられ驚いて立ち止まる。
「そうですよ。貴女以外に可愛らしいお嬢さんなんていませんよ。私は旅の行商人です。ど~ですか、見た事ない珍品を御用意いたしております。ご覧になられませんか?」
「見たこともない珍品?」
道端に荷馬車が停まっておりそこで露店を広げるモノクルを右目につけた青年の姿に、陰気臭さを感じながら一応珍品と呼ばれている物を見る。
「これが珍品ですか?」
「そ~ですよ。こちらはコーディル王国、いえ。世界中を探し回っても絶対にお目にかかれないとても貴重で珍しい珍品。太古の昔の人が生み出した芸術作品ですよ。お嬢さん運がいいですねぇ~。この珍品に出会えるなんて本当に貴女はなんてラッキーなのでしょう。今ならなんとこの珍品がたったの十万レート。さぁ、お安いでしょう。買って帰られては」
疑いの眼差しでまじまじとその訳の分からない物体を見詰めるソフィアへと青年が営業スマイルを浮かべたまま朗々と語る。
「……これ、太古の昔に作られた品ではないですよね」
「へ?」
冷静な突っ込みに商人の方が面食らって目を瞬く。
「古くても百年前くらいに錬金術で作られたただのゴミです。懐かしいな~。私も昔はよく失敗してこういう物体を産みだしていたわ」
「れ、錬金術のゴミ!? ま、まさかそんな……つまり、これには一レートの価値もないというのですか!?」
懐かしいと小さく笑うソフィアへと青年が食らいつき尋ねる。
「はい。まったくの無価値です」
「なっ!?」
彼女の言葉に無情にも打ち砕かれた現実に衝撃を受けた商人が顔を青ざめる。
「そ、そんな……世紀の大発見をしたと思っていたのに……くぅ」
「あの、貴方は商人なのですよね。そんな目利きの悪さで大丈夫なんですか?」
愕然と肩をおとす姿にさすがに可愛そうになりながら尋ねると青年が顔をあげてソフィアを見詰めた。
「……ようやく親方の許可が下りて商人としての経験を積んで来いと五年間の修行の旅に出されたばかりの新人で悪かったですね」
「そ、そんなことは……五年間も修行の旅だなんて大変ですね。頑張ってくださいね」
拗ねた様子の商人の言動に慌ててなだめるように言いながら逃げるようにその場を立ち去る。
「まさかこれが錬金術で生み出されたごみだったなんて……いや。待てよ。そんなことどうして先程のお嬢さんは一発で見抜いたんでしょう。私でも見抜けなかったというのに……錬金術を知っている少女。これは、興味深いですね」
一人きりになった青年が独り言を呟き不敵に微笑んだことをソフィアは知る由もなかった。
その頃ようやく工房へと帰りついた彼女を、先に買い物から戻って来ていたポルトが出迎えてくれる。
「ソフィーお帰り。おいらちゃんとお買い物できたんだよ。褒めてくれる?」
「そっか、凄いね。もう人間界のお金の使い方はバッチリね」
褒めてと言わんばかりにすり寄って来る彼にほだされながらソフィアは頭を優しく撫ぜながら褒めた。
「もう何処でも買い物バッチリだよ。そう言えば、ソフィー。リーナとミラから聞いたんだけど、最近王国の玄関と呼ばれている噴水広場に行商人がやって来てるんだって。だけど、どうもそいつインチキ商人ってもっぱらの噂で、誰彼構わず人を呼び止めては高額で変な物を売りつけてくるから気を付けってだってさ」
「そのインチキ商人ってもしかして……」
ポルトの言葉に先程出会った新人の商人の事が頭をよぎるが首を振って考えを追いやる。
「? もしかしてソフィーもうそのインチキ商人ってやつに出会っちゃったとか?」
「そ、そんな事ないわよ。インチキ商人なんて困った人ね。ポルトも出会わないように気を付けてね」
「うん」
彼女の様子に彼が不思議そうに首をかしげながら尋ねた。それに慌ててごまかすように答えると採取してきた素材をそれぞれに仕分けてしまいながら依頼の品を作るために準備を始める。そうしてその日の夜は更けていった。
翌日。朝も早くから工房の扉を叩く音で目を覚ましたソフィアは一階へと向かい玄関へと急いだ。
「はい。どなたですか? ……って、ええっ!?」
「ソフィー如何したの。大きな声をあげて、まさか強盗!?」
扉の先に立っていた人物は昨日出会った商人の青年で盛大に驚く。その悲鳴を聞きつけ慌ててポルトも駆け下りてきた。
「いや~。ようやく見つけましたよ。貴女が噂の錬金術師の工房の主ソフィアさんだったんですね」
「えぇっと、貴方は昨日の……如何して家に?」
「お前、一体どうやってこの工房を割り出したんだ。お姉さんに酷い事したらおいら許さないからな」
ズレてもいないモノクルをくいっとあげ直し青年が言うとソフィアが尋ねる。ポルトも変な勘違いをしているようだが彼を睨み付けて身構える。
「商人の話術を使えばこれくらい簡単ですよ。さて、ソフィーさん。錬金術師である貴女に頼みがあって参りました。貴女は町の外に素材を探すため採取に向かうこともあるとか。そこで、私も採取をお手伝いさせて頂きたいと思いましてね。要は町の外へ出る際の護衛として付いて行きます。獣が出ようが化物が出ようが、貴女一人護るくらいどうってことはありません。どうですか?」
「そ、そうね。リーナさんやイクト君を危険だと分かっている遠くの採取地まで連れて行くわけにはいかないし。お願いできますか」
「お前みたいなもやし野郎が獣や化物とまともにやり合えるのか?」
すっかり丸め込まれているソフィアとは対照的に疑ってかかるポルト。
「まぁ、行商人として旅をしてきましたからね。そこらの熊一匹倒すくらいならお任せ下さい」
「おぉ~」
ウィンク一つ落とし自信満々に言い切る様子に尊敬の眼差しに変わった彼が感嘆の声をあげる。
「私は商人のハンスと申します。以後お見知りおきを。……それでは、今日はそのお話をしに来ただけですのでこれで失礼いたします。私は普段噴水広場で露店を出しておりますので、護衛に誘いたい時はそちらに来て頂ければと思います」
「分かりました。護衛を頼みたい時はお伺いいたしますね」
「それでは、これにて失礼いたします」
一言二言交わすとハンスと名乗った青年は帰っていった。
「熊を一撃必殺で倒すとこおいらも見て見たい。ソフィーおいらも採取に付き合わせてくれよ」
「そうね。素材を覚える勉強にもなるし、採取は錬金術師にとって覚えておいて損はないし、まずは練習で今度の休日イクト君と私と一緒に木こりの森までいきましょう」
「やった~!! 約束だよ。絶対おいらを連れて行ってくれよ」
ポルトの言葉に数秒考えていたソフィアは笑顔で了承する。
こうして次の休みの日にポルトも一緒に採取へと連れて行くこととなった。
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