二章 花屋の少女

 ソフィアが工房を始めて数日が経った頃。


「う~ん。……お客さん全然来ないな」


「こんにちは、ソフィー。お店の調子は如何?」


工房をオープンしたにもかかわらず閑古鳥が鳴く店内で盛大に溜息を吐いているとリーナが入って来る。


「リーナさん。それが、全然お客様が来なくて……」


「まぁ……ソフィー、宣伝はちゃんとしたの」


ソフィアの言葉に彼女が大変ねと言いたげに眉を下げると考えたことを伝えた。


「宣伝?」


「もしかして、お店を持つのが初めてで知らなかったかしら? お店を開くためにも町中にチラシを配ったりしてお店がオープンしたことを知らせないと」


不思議そうな顔をする彼女へとリーナが小さく笑いそう説明する。


「そ、そうだったんですね。早速チラシを作ってみます」


「そうすれば、ソフィーのお店にもお客さんが一杯押し寄せてくるわよ。それで、今日来たのはこの前のお礼に、この前の風邪薬をあの子に飲ませたらすぐに良くなって。もうすっかり元気に駆け回っているわ。ソフィー有り難う」


今聞いた事を忘れないようにとメモを取っていると彼女がお礼を言って微笑む。


「お礼なんて、お子さん元気になって良かったです」


「それで、その腕を見込んでまた依頼を頼みたいの。枯れない花を作って欲しいのよ。普通のお花だとすぐにダメになってしまうから。お家の軒先につるして目で楽しむ可愛らしいお花があればいいのにってずっと思っていてね」


「畏まりました。でも、いまある素材だけでは作れそうにないなぁ~」


リーナの言葉にソフィアは考え込む。


「素材になる花を集めに町の外に行ってもいいけれど、イクト君を誘うのはまだちょっと勇気がいるし……」


「私も近くなら素材集めに付き合ってあげれるのだけれど、ちょっとこの季節は忙しくてごめんなさいね」


唸りながら考え込むソフィアへと彼女も申し訳なさそうに話す。


「いいえ、お気持ちだけで十分ですよ。う~ん……この町の中でお花が買える店があればいいのだけれど」


「あら、それならローリエの花屋さんに行ってみたら。素材になりそうなお花や薬草なんかも売っているかもしれないから」


悩んでいる様子の彼女へとリーナがそう提案する。


「お花屋さんですか。……分かりました。そこに行ってみます」


「えぇ。私では分からないけれど、錬金術に使えそうな素材が売っていると良いわね」


「はい」


二人はにこりと笑い話を終えるとリーナがお店を出てから早速チラシを作り町中へとばらまきに行くついでに教えてもらったお花屋さんへと向かう。


「あ、あった。ここね」


「いらっしゃいませ。花屋サンソンへようこそ。本日はどのような花をお求めでしょうか」


軒先に並ぶ数々の花が出迎えてくれるお店の中へと入っていくと、可愛らしい少女が笑顔で出迎えてくれる。


「その、はじめまして。つい最近ライゼン通りで錬金術のお店を始めたばかりのソフィアです。リーナさんから素材を探すならこのお店に行ってみたらとお話を伺って……その、錬金術に使えそうな素材とかがあれば見させてもらいたいのですが」


「錬金術? オルドーラでは有名なあの錬金術の事。凄い、凄いわ。私初めて錬金術師さんにお会いしました。このお店に売られている物が錬金術に使えるの?」


「錬金術に使えそうな素材があればそれを基に調合をするんです。分かりやすく説明すると、お料理を作るみたいな感じで素材をかけ合わせて一つの料理を作るみたいな感じかな」


「それなら、こういうのは使えますか?」


説明を聞いた少女が売られている商品の見本をいろいろと取り出して見せる。


「あ、この辺りは使えそうかも。あの、このお花とこっちの薬草を一束売ってもらえますか」


「畏まりました。……あの、私はローリエです。貴女は?」


「私はソフィア。ソフィーって呼ばれているわ」


花や薬草を束ねてもらいながら少女が自己紹介するとソフィアも名乗る。


「ソフィーさんとは良い商売が出来そうです。これからもどうぞご贔屓になさって下さいね」


「私の方こそ、よろしくお願い致します」


にこりと笑いローリエが言うと彼女も笑顔で答える。


こうして提供店として取引が出来るようになったので、これから錬金術の素材が必要になった時、ローリエのお店で買えるようになった。


お花屋さんで素材を買い込んだソフィアは早速工房へと戻るとリーナから依頼された枯れない花を作る為扉に鍵をかけオープンの札をクローズにすると調合を始める。


「さて、可愛らしいお花が出来ますように」


そう願いを込めてまずは買ってきた薬草をすりつぶしそれをお鍋で煮詰めると出てきた汁を抽出して基となる緑の薬を作り出すと、続いて花の束から茎を取り除き花弁だけをフラスコへと投入した。


そこに先ほど作った緑の薬を入れるとフラスコに念を込める。黄金色に輝きだしたフラスコからポンと音がすると空中に球体の光が現れ見る見るうちに枯れない花の姿が出来上がっていき調合に成功した。


「出来た!」


ピンクや黄色の可愛らしい小さな花が咲き誇る枯れない花が完成したことに喜ぶ。


「後はリーナさんが取りに来てくれるのを待つだけね。って、もうこんな時間。調合に集中しすぎてしまった。明日の準備をして夕ご飯食べて、寝なくっちゃ」


窓から差し込む光はいつの間にかなくなり夜の帳が降り始めている様子にソフィアは独り言を呟くと枯れない花を箱詰めしてからお店の準備を済ませ夕飯を作る為キッチンへと向かった。


そして翌日。オープンと共にリーナがやって来る。


「おはよう。どう、ローリエに会いに行ったかしら」


「あ、リーナさん。おはようございます。はい、いろいろと素材になりそうな物があったのでこれからどうしても必要になったらローリエさんのお店で買おうと思います」


彼女の言葉にソフィアは笑顔で答えた。


「それはよかった。それで、今日来たのは昨日頼んだ物が出来ていたら貰おうと思ってきたのだけれど、錬金術ってたった一日でアイテムが出来るものなのかしら」


「簡単な物であれば半日で出来上がりますので、大丈夫ですよ。でも、どうしても素材の関係や調合の難しい物はお時間が必要なのでせめて一週間くらい余裕を貰えたらというのもあります」


リーナの質問に彼女は答えると昨日作っておいた枯れない花を差し出す。


「これが、昨日頼まれた品になります」


「まぁ、素敵……こんなに素敵な物が出来上がるなんて思っても見なかったわ。これ頂けるかしら」


彼女が商品を受け取るとお金を渡す。


「はい……って、えっと。こんなにたくさん頂けれません」


「少し多めにしておいたわ。こんなに素敵なお花を作ってくれたお礼」


慌ててお代以上貰ったお金を返そうとするとリーナがにこりと笑い答える。


「有り難う御座います」


「こちらこそこんなに素敵なお花を有難う。これを軒先につるしておけば貴女のお店の宣伝にもなるわね。ふふ、早速帰ってつるさないと」


お礼を述べるソフィアへとリーナが微笑み嬉しそうに鼻歌を唄いながら帰っていった。


「……れんきんじゅつぅ? こうぼう? お店ってことだよね。うん、よし、ここに決めた!」


リーナが帰っていった後工房の外でチラシを拾った小柄な少年がにこりと笑う。


ソフィアのお店に新たな出会いがもたらされそうである。

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