少女
入道雲が山の頭に被っている、夏の日の昼下がり。
膝の下を田んぼの泥で固めたあたしは、蝉時雨の降り注ぐ木陰の下でひとり握り飯をかじっていた。
その視界に、汚れひとつない真っ白な足袋が現れる。
「… フジ」
「こんにちは、ひかり」
フジは綺麗な着物が汚れるのも構わず、あたしの隣に腰を下ろした。
フジはこうしてたまにあたしの元を訪れるようになっていた。
訪れて何をするのかというと、二言三言言葉を交わすか、ただ黙って一緒にぶらぶらと散歩をするかのどちらか。
すごくたまに、ちょっとだけ遠出をすることもあるけど。
どこに住んでいるのか、ここまでどうやってきているのかもわからない子。
だけど… 。
あたしにとっては、たまに遊びにくる、綺麗な目をしたちょっと不思議な友だち。それ以上でも以下でもなかった。
「今日は、ひかりに見せたいものがあるの」「ふうん?何?」
「… 見てからのお楽しみ」
言って、フジはあたしが握り飯を食べ終わるのを待って、米でべたついたあたしの手を握って駆け出す。
色のついた風景が、高速で後ろに流れ去る。
空の色、村の家々の色、山の葉の深い緑… あたしたちは獣の速さで村を出て、山を登り、開けたところにやってくると、ようやく足を止めた。
わっ!と思わず声が出る。
フジが連れてきてくれたのは、一面に輝くような色の花が咲くひまわり畑だった。
青い空を背景に、背の高い黄色い花が一心不乱に太陽を見つめている。
「綺麗だねぇ… 」
あたしはぎゅっとフジの手を握った。
「あんたと見る世界は、本当に綺麗だね… 」
「うん… 」
フジは透けるような瞳であたしを見つめる。
「私も、ひかりと見る世界が一番好きよ」
… そして、あたしたちは村に帰った。
フジはいつのまにか姿を消し、あたしは母親に「もう、いつもの休憩場所にいないでどこいってたのよ」と叱られる。
そういうことが、この先何度も何度もあって…
それが、あたしの少女時代だった。
短い短い、少女時代だった
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