第20話 平和

 潮風の香る海辺の小高い丘に建てられた小屋で、少女が目を覚ます。子供の組み立てたような粗造の木の小屋であったが、戦いからは遠く離れていた。


 小屋の隣には、金色の巨像が座っていた。


 小屋へ少し離れた村の青年が訪ねてくる。


「魚の干物を街に売りに行くんだ。手伝ってくれないか?」

「もちろん」


 少女は、しばらくの間彼らの手伝いの駄賃や日雇いの仕事、巨像の大道芸で生計を立てていた。


 彼女は巨像に乗り込み、それは立ち上がって青年の後ろを歩き始めた。


 少女の生きてきた大陸から遥か遠く、魔法という技術の発展した土地で戦いから無縁のほのぼのとしたような生活をしていた。


 巨像が、干物の入った箱を持ち上げて歩き出す。


「来てから毎回運んでもらって大助かりです。ずっといてほしいくらい」青年は、いずれ去る少女に話しかけた。


「また、戻ってきたいなあ」少女が、ハッチの開いたコックピットの中でそう呟いた。


 何の思い出もない光景が、彼女の心にはなによりも優しかった。

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遺物巨像レイ (Ⅳ) @Hk-4

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