第16話 宇宙海賊あさなぎ

 第六惑星の持つ最大の衛星にあるあさなぎの基地に、日向は停泊することになった。大気のほとんどが窒素で、熱も僅かの厳しい環境だが、彼らは巨大な基地を持っていた。その基地は、パームアイランドよりも遥かに広大で、メタンの海に浮かんでいる。そこへ、黒い艦艇に牽引されて、日向は格納された。


 日向の船員たちは、好意的に迎え入れられた。それは、あさなぎという海賊が地球にルーツを持っていたからだ。日向の船員も、それを知ると、あさなぎの者への態度が軟化していった。

 

 巡洋艦白鰐と、潜行艦白鯨という名はまるで地球にあった国の一つ、日本のようであった。


 あさなぎのリーダー。白鮫はくこうが、モニター越しに日向の艦長ガイ・シグレと今後について話し込んでいた。


「戦艦一隻に巡洋艦一隻、潜行艦一隻。この戦力では、奴らの補給拠点を絶つことは厳しいと私は思う。あの基地の駐在艦隊は千隻の戦艦と巡洋艦を中心に、無数のコルベットや駆逐艦で合計1万隻以上の大艦隊だ」モニターからの言葉は、日向の船員に恐怖を与える。


「補給用の拠点の転移装置の破壊さえできればいい。潜行艦に艦載機を積んで行けないか?」伊400を思わせるような無茶な提案だった。


「可能だ、だが回収はできない。転移装置の中核となる電源は第八番惑星の内部にある。自力であの星から離脱できる機体でなければ、特攻になる」命と引き換えの作戦になると、この場の者は誰もが思っていた。


「待ってください! こいつらならやれます」マークがそう叫び、ポーズをとっているレイとローダを手で指した。


「おい!」唐突な彼らの行為を、艦長は止めようとしたが、白鮫がすぐに口を開いたので彼は黙った。


「そいつの性能は?」白鮫はそれに興味を示していた。


「単純な出力なら、戦艦並みで、少なくとも地球くらいの大気圏なら脱出できます。仕組みはわからないですが、位相変換の最大出力は戦艦の主砲並です」マークは、白鮫に向けてレイを売り込み始めた。


「さっきそれに乗っていたのも君か?」白鮫がローダに尋ね、ローダはうなづいた。


「了解した。考えさせてもらおう」白鮫の言葉を受けて、三人はその場を離れた。


 三人もまたばらばらに分かれた。


 マークは、あさなぎの記録室へ向かった。まるで図書館の内部のような風体をしたそこには、ザックがいた。


「レイについての記録はここにもなかったか?」マークがザックにそう聞き、ザックは首を横に振った。


「俺が知っているのは、あれがMD-00-01という型式番号だということとか、00というのは名づけられた時代の戦艦の76分の一の大きさで同等の出力があるからということぐらいだ。名前の由来じゃ、戦闘には使えない」ザックはマークに向けてそう言った。


「もし彼女が行くなら、後付けの武装を盛るくらいしか俺達にはできないな」マークもそんなことを呟いた。


 結局、レイが潜行艦に乗って突っ込むということに決定し、二百時間弱の後に作戦が始まった。

 全身に装甲と武装を追加されたレイの決戦使用が、潜行艦に乗り込む。ローダもまた、ザック達に手を振りながら潜行艦に乗り込もうとする。


「待って!」リリーがローダに向けて叫ぶ。そして、ローダの前に上り、彼女の手を握った。


「私はあなたのこと見直したから、戻ってきて。見直し損にしないでね」リリーは、状況に顔を赤くしながら言った。

「もちろん!」ローダはそう言いサムズアップをして潜行艦に乗り込んだ。


 三隻の艦艇が発進し、しばらくの航海の後に第八番惑星の艦隊と巨大な円形の転移装置を認識した。


 潜行艦が空間に沈み込み、基地に向けて進む。


 そして真の目的に気づかれないためにも、日向は艦載機を発進させ、海賊の巡洋艦は突撃を敢行した。


 虚を突かれたバズン共和国の艦隊はすぐに体勢を立て直し、無数の光線の雨が白鰐に向けて降り注ぐ。


 白鰐はそれらを大推力で躱し、艦首の魚雷を発射して、艦載機展開中だった正面の空母を爆沈させて、さらに衝角で貫き、突っ切った。


 僅かに発進できた艦載機も、アルストロメリアが次々と撃ち抜いていった。


 そんな宙域の下ともいえる場所を、潜行艦は突き進んでいた。

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