第15話 日向発進
補給を終了した宇宙戦艦日向は、宇宙へ飛び立つ準備をしていた。
「敵軍の軍事コロニーは無視し、第八番惑星のワープゲートを破壊する作戦を行う。私達第一駆動騎兵部隊は敵基地の射程外で発進することになる。それまでは戦闘がなければ待機だ」
深緑をさらに暗くしたような髪色の駆動騎兵隊の隊長、村雨ショウによる今後の話をローダ、リリー、ザック含む駆動騎兵隊は聞き終えた。
「ザック。相談がある」ショウがザックを呼んだ。そして、部屋の外に連れ出す。
「リリーとローダの関係があまりよくないようだな」ショウが聞いた。
「本当ですね。ローダは優しい子ですが感情的になりやすいです。今は長い間抱えていた重荷をおろしたばかりですから舞い上がっているのかも」
「ローダのことは時間が解決してくれるか。リリーは身長を笑われることが嫌いだから、それをローダに伝えるか……?」
「いいかもしれませんね」
彼らの心配をよそに、日向は宇宙に向けて発進する。そしてすぐ、敵の灰色の艦隊の姿を捉えた。
「第一駆動騎兵隊発進せよ」
金色の機体が日向のカタパルトから発進し、その後次々にクロコマとパキラが発進し、最後にアルストロメリアが発進してそれぞれクロコマにまたがる。
レイだけはクロコマを使わないまま空を飛んでいた。
彼の背中に着けられたグローブが外れる。そして彼はそれについた線を引いて両手に装着した。
「ダゲーラ隊発進!」
バズン共和国の全通空母マガザドリズから、駆動騎兵と同じように人型の、しかし灰色のロボットが発進していく。
アルストロメリアが、バズン共和国の艦隊の内の一隻のコルベットの砲塔を狙って狙撃を敢行した。
細い光線がコルベットの砲塔を直撃し、吹き飛ばした。
「もう一発は狙えないか」
リリーは片目に着けていたスコープを取り、アルストロメリアにも狙撃銃を離させてレーザーマシンガンを持たせた。
アルストロメリアはクロコマと分離し、レーザーの飛び交う戦闘宙域の自身に目を向けていない相手を狙って突っ込んだ。
レイがその横を通り過ぎ、艦隊に向かって突っ込んでいった。コルベットや駆逐艦の艦砲をやすやすと躱して駆逐艦の一隻に近づき、殴りつけて艦の装備を破壊する。そのまま損傷の激しい箇所に額のビームを打ち込んだ。
駆逐艦の装甲はたちまち融解し、艦首にかけてそれが広がった。まだ沸々と溶けている駆逐艦からレイは飛び去る。
その途中で手元の小銃からレーザーを打ちながら追ってきた敵の人型機の胸を殴りぬいて破壊した。
「今のがバズン共和国の装甲歩兵ザダーか、あの防御と機動ならなんとかなりそう」とローダが呟いた。
青い光が遥か遠くから飛んできて、空母の甲板に大穴を開けた。
「なんだ?」
次々と光が飛んできてバズン共和国の艦艇を破壊していく。
「援軍?」ローダがそう言って友軍艦艇の表示を確認するが、日向一隻のままだった。
「第三勢力が確認された。各機、帰還せよ」日向からの通信が展開中の機体に入った。
バズン共和国、地球双方の機体が牽制をしながらその場を離れていく。バズン共和国は残存艦艇をかき集めて青い光の元へ発進した。
そして、日向の探知機はバズン共和国の援軍が居ることを示した。
すぐに地球の軍機が一通り日向に収納されたが、その距離はもうすぐミサイルの射程に入ろうとしていた。
「ワープできるか?」艦長がワープをしようと航海士に聞く。
「敵のジャマー艦かジャマー設備が落ちたようです。第六惑星までいけます」航海士は喜ばしい答えを返した。
日向が加速し、空間跳躍の準備に入る。日向の空間跳躍装置が作動し、たちまち通常空間から飛び上がった。
その濃紺の船体はガス惑星の薄茶色に照らされて非常に目立っていた。
「敵影なし」
確かにこの惑星の付近は、バズン共和国の艦艇の残骸ばかりで、動いている船というものはなかった。
しかし、日向の後方の宙域から魚雷が発射された。
日向はすぐさま加速して機銃で対応することで魚雷を防ぐが、彼らのレーダーの情報に敵影はなかった。
「最大戦速でこの宙域を離脱しろ!」艦長が操舵主に指示を出した。
しかし、それよりも早くにバズン共和国の艦隊が空間を飛び越えて日向の前に現れた。
「魚雷が足りん」潜望鏡が通常空間の外に沈み、姿を消した。
「敵艦隊は戦艦1、巡洋艦8、駆逐艦13です」宙測員が艦長に伝える。
「この状況。突撃するしかないな。主砲、重イオン砲発射準備。艦載機は待機。第二戦速で突っ込め」艦長が指示を出した。
日向の八門の主砲がそれぞれ周囲の艦の方向を向く。そして日向は加速しながら敵艦隊へ突っ込んだ。バズン共和国の艦隊と反航戦の状態になる。
駆逐艦が日向の周りを回転しながら陽電子砲を日向に向けて打ち込む。一隻あたり七門の砲から放たれるそれは、数が多いながらも戦艦の装甲に大きな損傷を与えることはなかった。しかし、日向の主砲の威力は駆逐艦に過貫通を起こすほどで、次々と駆逐艦はうち減らされていった。
戦闘を行う駆逐艦をよそに、巡洋艦と戦艦は日向と同じ方向を向き、同航戦の状態になりながら距離を縮めていた。
日向は、狙いを駆逐艦から巡洋艦に変更し、一隻ずつ主砲の斉射を行うことにした。しかし、日向の主砲の一基にミサイルが直撃して吹き飛ぶ。
残った砲を真横の巡洋艦に斉射して轟沈させるが、戦艦の砲を艦載機発艦口付近に受けて内部の艦載機が露出する。
そして幾つかの装置の故障によって艦載機たちは船外に引っ張り出された。その中にはレイもあった。
共に引っ張り出されたパキラが撃ち落とされていく中レイはすぐに体勢を立て直し、近くの巡洋艦に狙いをつけた。対空レーザーを装甲で無力化し、砲の最大仰角よりも上から砲塔に迫って殴り壊し、続いて艦橋を殴りぬく。上向きに設置された巡洋艦のスラスターをレーザーで焼き、艦首を下向きに押して無理やり向きを変える。
別の巡洋艦に対して、額のレーザーを最大出力で打ち込み、艦橋や主砲を両断する。
その間にも日向が残りの砲で巡洋艦を撃ち減らしていた。
巡洋艦が日向から距離を開けていき、戦艦が徐々に近づいてくる。しかし、魚雷が戦艦の艦尾に直撃して吹き飛ばした。
宙域に潜行していた艦の仕業だった。
旗艦に打撃を受け、指揮系統が混乱した隙に、日向は僅かに宙域に残った艦載機を回収して、加速して艦隊から逃げ出した。そして、艦隊も日向を追うことはなかった。
近くの小惑星の陰に停止し、損害を確認する日向のもとへ通信が入る。
「我々は宇宙海賊あさなぎ。そちらは地球軍か?」音声だけが日向の艦内に響く。
「こちらは地球軍の戦艦日向。用件は?」
「協力しよう。敵の敵は味方だ」
「……了解した」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます