第14話 アナベル・リリー

 着水した日向が、軍港に入る。この星の人間にとって現行の戦艦の倍以上に全長を持つ艦艇だ。注目が集まらないわけがなかった。軍港内は軍人でない政治家や学者なども集まっていた。


 日向から一機の駆動騎兵が発進し、滑走路に着地した。コックピットハッチが上に開き、そこから金属の棒が地面に伸びて、それを滑って白い軍服に軍帽の男が降りてくる。

 男の元へ翻訳家が駆け寄った。


「大丈夫です。そちらの言葉は分かります」


 すぐに翻訳家はその場を離れ、学者や政治家たちにその事を伝える。しばらくの間議論がされたのち、学者の一人が彼の前に行って話を始めた。


 それらの光景を、ローダは非常に暇そうに眺めていた。


「乗るときになったら起こして……」


 そのまま彼女はコックピット内で眠りについた。彼女が目を覚ましたのは次の日で、日向は既に港にいなかった。


「……えっ、はっ?寝坊した!?」


「……移動しただけだよ。しばらくこの星に停泊することが決まったから」


「それ決まった時に起こしてよぉ」遅刻しそうになっている学生が親に文句を言うように、ローダはレイに文句を言った。


「ごめん。気をつけるよ」


「居眠りした私も悪いよね。謝らせてごめん。……日向はどこ?」


「もう地図に場所は出したよ」


「いこー!」少女の表情は非常に明るくなった。


 ローダがしっかりと操縦桿を握った。レイが空を飛び、遺跡が多くある場所の上空にいる日向の元へ行った。


「艦上部に着艦できる場所がある。緑色の光がついているところだ」


 日向からの通信を受けて、レイがその指示どうりに着艦した。ローダがレイから降りると、レイは格納庫まで移動させられた。


「君がこの駆動騎兵のパイロット?」


 周囲を見渡すローダに、一人の男性が声をかける。


「はい! あなたは?」


 ローダはうきうきでその前髪がもっさりした茶髪の男に話しかける。


「俺は整備兵のマークだ。君に色々教えるように艦長から頼まれている。あと、レイって駆動騎兵の改修もな」


 白い作業着姿の男は汚れた手袋を外して、近くの壁に掛けてあったカバーに穴の開いたタブレットを取り出す。


「まず、戦場での味方を覚えてもらおう」


「はい!」


「……実際に見た方が早いかもな」


 マークが格納庫の戦闘機を指さす。その見た目は、21世紀のものとさほど変わっていなかったが、ローダには非常に目新しく見えたことで、彼女はそれに飛びついて行った。


「これは骨が折れそうだ……戦闘用だけでもあと五種類はあるぞ」


「この飛行機の名前は?」


「A-48、名前はスターゲイザーだ。偵察と爆撃ができる」


「どこに爆弾積んでるの?」


「説明してやるから……」


 長い時間をかけたマークの説明の後、ローダの目線は白い人型の駆動騎兵に向いていた。


「これは、二機しかないんだね」


「そうだ、アナベル・リリーって人の専用機だし、あんたにはあの金ぴかがあるから乗らないだろうがな」


「そっかー」


「少し、言ったことを覚えているかテストしてもいいか?」


「もちろん! 完璧に覚えたよ」


「一問目。なぜ、人型の航宙機を駆動騎兵と呼ぶ?」


「支援する機体とドッキングし、多様な武器を扱うために設計されたから人型をしていて、主に航続距離などを伸ばすための機体とドッキングすることが多かったから」


「正解! 二問目、この艦に搭載されている駆動騎兵と、その支援機の名前は?」


「駆動騎兵は、あの白いやつの番号がG-6で開発コードがアルストロメリアだったからそのまま呼ばれてる。で、さっき見た緑の奴がG-1で名前はパキラ。それで、支援機がクロコマでしょ? 航続距離を延ばすやつ」


「正解。次は……」「何遊んでるの」金髪の少女が彼らを制止する。


「おっリリーさん。ちょうどよかった。こっちが……」「ローダンセでしょ。あの駆動騎兵のパイロットの」


 ローダと比べても本当に小さい身長の赤いパイロットスーツを着た少女は、マークを手で除けてローダの方へ歩いて行った。


「楽しそうね、機体性能だけで戦ってきたお上りさん」


「初対面で言っていいことと悪いことがあるんじゃない?」


「待て、喧嘩するな」マークの言葉を二人は聞いていなかった。


「じゃあポンコツに乗って頑張ってましたって言いたいわけ?」


 友人をポンコツ扱いされたことで若干ローダの頭に血が上る。

「レイは強いよ。でも、私だってレイに乗って同じ奴に勝ったんだ。舐めないでもらえる? おちびさん」


「ちびだって!?」ほんの一言だったが、リリーの強烈な怒りをよんだ。彼女はローダに殴りかかった。


「うぐあっ」ローダは思いっきり顔を殴られて倒れる。リリーは止めに入ったマークを殴り飛ばし、鼻血を出している少女に馬乗りになって殴りかかった。


「初対面の相手を殴るその精神、叩き直してやる!」ローダはリリーの両手の拳を受け止め、横に転がってリリーの体を下にして、立ち上がった。そしてリリーが立ち上がるのを待って、彼女の薄い胸に強烈な跳び蹴りを食らわせた。


「ぐえっ」リリーは盛大に頭を打つも、立ち上がってローダを殴ろうとする。拳を固めたローダとリリーの間に割って入ったマークは、その合計二連撃を腹に受けた。


 二人は反省部屋にぶち込まれた。しかし、彼女らはすぐさまそこを出る羽目になる。


「マドスナッザ帝国軍から連絡! 敵です!」


 リリーはアルストロメリアに乗る。そしてローダがレイの格納庫に行こうとしてマークに止められた。


「まだ、その機体はこの艦のカタパルトに対応していない。これでも読んで待っとけ」


 ローダはパキラの分厚いマニュアルを渡され、ふくれっ面をしてからそれを開いた。


 防空駆逐艦トルーゼンの必死の対空砲火をものともせず、十六のハチドリ型の怪物が大陸に向けて空を飛んで行った。その背にはプレートアーマーの人間が乗っていた。




「地球軍がいてもお構いなしか。蛮族め。陸風に無線を繋げ」トルーゼンの船長は指示を出し、無線機を取る。


 遺跡から発掘され、修理を受けたミサイル駆逐艦陸風と、艦上戦闘機を携えた空母ルートルート。それらがハチドリ達の迎撃を行う。


 機銃が効かず、艦砲の当たらない相手に、その迎撃も突破されようとしていた。


 アルストロメリアは、クロコマに乗ったままの狙撃でハチドリの一匹を撃ち抜いた。そのままクロコマは速度を上げ、アルストロメリアはレーザーマシンガンを取り出す。


 統率の乱れたハチドリの部隊が一体、また一体と艦砲やレーザーマシンガンで撃墜されていく。


 そこから大陸を挟んで反対の海から、潜水艦が大気圏外に向けて飛び立とうとしていた。艦が、水平線に対して平行なままゆっくりと空気中を浮上していく。


 日向は、手を出さなかった。


「なんで攻撃しないの?」ローダはマークに尋ねる。


「弾薬の無駄。だそうだ」マークはそう質問に答え、レイの改修を再開した。


 そこへ、戦闘を終えたリリーがやってくる。


「あら、あなたは何をしてたの?」


「戻ってたの? ちっちゃすぎてわかんなか」わかんなかったと言いかけたローダの顔にリリーの鉄拳が炸裂した。


「待て!」殴り合い始めるローダとリリーを制止したマークは再び腹を殴られた。


 そして二人はまた反省部屋へと放り込まれた。

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