第13話 宇宙戦艦日向

 地球での呼称はN星系2番惑星。マドスナッザ帝国の天文学者からはカノンと呼ばれている星には、金星に存在するアルテミス谷と同じくらいに大きな谷があった。つい最近戦闘があったばかりで、その端には崩落の跡がいくつも見られる。


 地球の戦艦日向の主砲に貫かれ、衝撃で斜面に衝突して土を人を巻き込んだミキサーと化しながら転がり落ちて行ったバズン共和国の艦艇の残骸が無数に埋まっている。その数戦艦含め二十七隻。そして、日向もまた、崩落した土の中にいた。


 バズン共和国はそれだけの犠牲を払い、レイを墜とした100億の四角柱の軍団を生産し制御する基地を守ったのだ。


 守ったはずなのだ。


「ズよ。地球方面に撒く用のモノリスは無事か? 」


「ええ、ナーズ閣下。プロパガンダ用のモノリス群は、補給が間に会いそうです。それに、グゴ軍の機体を手に入れて宇宙に現れた下等文明種族もこの半年間宇宙に出ようという動きはありません。あの見た目の効果は充分かと。ただ、精神波の機能はオミットしてもよいかもしれません」


「いや、それは重要な機能だ」


「分かりました。他にご用件は?」


「ない。失った艦艇の補給はすぐに行おう」


「ありがとうございます」


 綺麗に整えられ、絵画まで飾られた司令官室で上官との通信が終わったことに安堵している男がいた。彼の名はズ・トマという。薄紫色の髪をオールバックにしたせいで元々広い額がさらに広くなったことから平野というあだ名を持つ。


「まったくなにが地球人は物語を過信するという思い込みを生んだのだ? もしそうならここにやってきた艦の名はヒュウガではなくヤマトのはずだ。それに調停者のようなお飾りを作るなら、モノリスではなく天体制圧用最終……」


 文句を吐き連ねていた彼は、ドアのノックでその口を閉じる。


「入れ」


 ドアが開けられようとしたその瞬間、強烈な爆音が轟いた。


「なんだ!?」


 日向が土を押しのけ、空中に飛び上がる。八門の主砲が山の向こうの基地を狙い、高く射角を取る。榴弾が放たれ、基地に降る。残存艦艇や、基地の中枢が次々と破壊される中、戦艦ガズースが発艦する。


「攪乱ミサイル。撃て!」


 日向のVLSの一つから、ミサイルが放たれ、山を越えたところで子弾をまき散らす。それらの一つ一つが金属粉を含んだ煙をまき散らす。


「何が起きた!」


「探知機器がやられました!」


 日向から十二メートルほどの人型航宙機が発艦する。山を飛び越え、窒素バズーカを持って、基地に迫り、それを打ち込んだ。爆発と共にモノリスもどきの制御装置が破壊され、無数のモノリスもどきが重力に引かれ、青い星に落下していく。


 煙幕がなくなる前に航宙機は着艦し、日向は青い星に向けて飛び立った。


「最大戦速で3番惑星に向かえ」


 宇宙の中を、日向が進む。追ってきた戦艦ガズースを振り切り、軍事コロニーや、衛星の基地を避け、数十分後に大気圏へ突入した。

 

「あれが、地球の船か……」

 

 まるで流星のように突入する日向を、ローダは眺めていた。

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