第9話 元凶を見よ

 レイは、内蔵のカメラで撮影した映像を国の最高指導者に見せるべく、国に張り巡らされた魔法の監視と連絡の網を遡って空を駆けた。


「つまりどういう作戦だ?」


 ザックがローダに説明を求める。


「この国の人たちは、神様を大切にしてる。核魔法っていう神様からの貰い物のせいで死者が出たとか、街に被害があったとかそんな事を帝国に言われて宣戦布告をされたらもうそれは神様への否定みたいなもの。でも、貰い物が偽物だったらどっちの矛先も同じ偽物野郎に行く


「なーるほど。両方の陣営に対して、戦争の犯人の第三者を示せばそいつにヘイトが向くってことか」


 ザックは何となくで話を纏めた。


「そう、まずはナーガ王国」


 レイは十数分かけて森を移動し、王宮らしき煌びやかな建物の前に着地した。


「私は火蛇様の言葉を伝えに来た」


 ローダはマイクのスイッチを押して言った。


 その巨大な存在と、彼らの神に関係する言葉に警備の兵が応援を呼び、様々な武器を持った兵士が集まる。


 コックピットの中でマイクのスイッチが切られ、代わりに映像投射機を起動した。レイの肩に備え付けられた小型の機械が、空中に火蛇が核魔法について話した映像を映し出した。


「こんなものを信用していいのか?」

「火蛇様の姿は伝承通りだが……」

「俺の仕事は教会の警備だけど核魔法についてのお告げの時、なんかいつもより寒かったんだよな」

「それがどうした」

「なんか声が違ったって神官が呟いてるの見たぞ」

「核魔法の実験で帝国の軍艦を沈めちまったんだろ?」

「もうこっちも海軍の三割の被害が出てるのに今更こんなこと……」

「何が魔法の技術を守るための聖戦だよ」

「こいつが敵国のものじゃないのか?」

「だったら最初に城を叩き潰してるだろ」

「本当なら、俺の兄貴は無駄死にじゃないか……」


 映像を見た兵士は口々に言葉を落とす。


「成功ね。次は……」


 ローダは再びマイクのスイッチを入れた。


「火蛇様は、戦いに進む王国に疑問を抱いている。この国が和平を望むのであれば、私はそれに尽力しよう」


 ナーガ王国の司令部は、すぐさまこの件を拡散して、世論を終戦へと傾けさせた。


 それから三日後の夜、マドスナッザ帝国やシデン連邦の中で外交を目的にしているという意味で用いられる白い旗の中央に赤く太い横線の入った旗を掲げたガレオン船が、ナーガ王国の港を出港した。その上では、レイが速度を合わせて船を追いかけている。


 風に乗り、朝になるまで航海をしたところでガレオン船の船員の目に、はるか遠くで立ち昇る排煙が見え、その直後に水平線の向こう側からやってくる戦艦が映った。


 160mの全長、ガレオン船を一斉射で破壊する25cmの連装砲が三基。その他の武装すらも、ナーガ王国の技術を凌駕している。武器ではない二つずつの煙突とブリッジも威圧を放っているようにナーガ王国の船員たちは感じていた。


「所属不明の航空機及び、ナーガ王国艦艇を目視で確認。政治旗を掲げています」


 艦隊の旗艦として最も先行している戦艦ノイアリスマは、すぐさま付近の艦隊の艦船に連絡を飛ばし、攻撃を辞めさせた。


 ガレオン船は艦隊に囲まれて、海の上を連行されていった。


 そのさなか、上空を飛んでいるレイのコックピット内にいる少女は、戦艦ノイアリスマという兄の乗る艦を見て、近づこうと高度を少し下げた。


「忌々しい」


 ノイアリスマの艦長は艦橋にやってきてそう言った。彼の妹は、半年前に起きた南方鎮守府襲撃事件の時に行方不明になり、その際に確認され、行方をくらましたのが金色の巨像だった。妹に極端に愛情を注いでいるわけではなかった。ただ、彼は長男とした余命いくばくもない父から家族を奪ったことが許せなかったのだ。


 レイのモニターから艦首側の艦橋に兄がいることを確認したローダは、コックピットハッチを開け、制止のために掴もうとしたザックの手を払いのけて、そこに向けて飛び降りた。


「サラミス兄ー!」


 叫びながらびたーんと大きな音を立てて、艦橋のガラス窓に張り付いた少女はすぐに力なく甲板の上に落下した。


「ローダンセ!?」と叫び、甲板に飛び出す艦長。痛みに悶絶しているローダ。困惑する周囲の人間。辺りは混沌に包まれた。


 サラミスに抱き着くローダ。状況を余り理解していないが取り敢えず祝う船員たち。それを眺めるレイとザック。


「なあ、あいつ何メートルから落ちた?」


「十メートルくらいかな」

 

「その割には元気だよな」


 ローダは船内に連れていかれ、心配からの強烈な説教をくらった。


「平和そうだからいいんじゃないの? そういうの」とレイが言った。


「まあ、そうだな」ザックは、遺伝子改造などの一抹の不安を置いて、概ね同意した。



 それらを遥か遠くから眺める存在があった。海中に潜む大きな艦の艦橋で三人の軍人が四角い長机の周りに座って話し合っている。


「あれは、グゴ軍の駆動騎兵だな。我々が鹵獲したゴッザより高性能だ。今ある資料で分かることは、奴の型式番号はMD-00-1。名前は開発中に敗戦し未定。遅すぎた決戦兵器ということだな」


 馬の蹄のような髭と髪が頭皮に押さえつけられたオールバックで、胸板の厚い壮年の男が戦闘や偵察で回収した情報を纏めた紙を読みながら言った。


「ナーガ王国からの傭兵契約も切られました。この星付近の防衛及び封鎖と、この星の現住種への妨害はできていますが、地球艦隊との戦闘が激化しているようで本国からの補給はありません。数機のゴッザが鹵獲されました。これだけでも、撤退の理由にはなると思います」


 七三分けで眼鏡をかけた線の細い青年がそう言った。


「問題はあの機体だ。ゴッザのサーベルが弾かれた。物理的な装甲も固く、頭部のレーザーの威力も高い。脱出するには間違いなく邪魔になる」


 サングラスをかけ、ピンク色の髪をツインテールにした青年期の女性が言った。


「……この星を脱出する。そのためにも奴を破壊するぞ。切り札の駆動騎兵を使おう。あれと同型の2号機は3号機との共食い整備で人が乗れば使えるくらいには残っているはずだ」


 壮年の男は、艦の格納庫を指さした。


「人工知能の補助がありませんが大丈夫ですか?」


 眼鏡の青年が、女性に聞いた。


「問題ない。サーベルさえ効けば私は奴に勝ってたんだ」


 女性は軍のジャケットを椅子に置いて、更衣室に入って行った。

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