第8話 カシャ山にて
地面が湿った木造住宅が立ち並ぶ亜熱帯雨林の中の街の端で、鱗を模した服を着た神官がザックに話をしていた。
「蛇神様によって半年前、我々に核魔法がもたらされました。海上実験を行いましたが、魔法は制御を失い、沖へと飛んで行きました。それからです。あなたの国は使者を送って宣戦布告を行い、戦争は始まりました。それ以来、核魔法の使用は禁じられています」
「……ああ、わかった。ありがとう」
ザックはその言葉に驚き呆れながら、街の外れのレイの元へと歩いて行った。
「……これ、休戦させられると思うか?」
「この国の人たちは信仰が強いからね。偽の神に騙されたことを証明できればなんとかできる気がするけど、それにはあの四角柱を引っ張ってこないと」
「じゃあ、引っ張ってこようよ」
ローダの提案に、二者は困惑した。
「どうやって?」
「レイが掴んで、それから……」
「却下」
意気揚々と作戦を話し出すローダをレイが止めた。
「わかったぞ。本物の神様に会って、あれは偽物だって証言してもらえばいいんじゃないかな!」
ローダは自分の考えを試すために、早速街の中の神官の方へと走って行った。
「まさか神様なんてのがいるとは思えないな」
「世界は広いからね。不在証明は不可能だよ。たぶん」
「それもそうか」
二人は談笑をし始めた。
数分後。
「山に登るよ!」
そう叫びながら凄まじい勢いで飛んできたローダは、レイのコックピット内に飛び込み、操縦桿を握った。慌ててザックもレイの中に飛び込み、すぐにハッチが閉まる。
「予言をしたのは火を司る蛇神で、向こうのカシャ火山にすんでるんだって!」
レイは立ち上がり、遠くに見える山に向けて走り始めた。
「あの山の麓までどれくらいだ?」
「一時間くらいだよ」
「すごい! 汽車より全然早い!」
「そりゃあそうだよ」
一時間かけて、三人は山の麓までやってきた。
「山道もないな」
「レイ、空飛んでけない?」
「飛べるけど、いいのかな」
レイはゆったりと空に浮き始めた。目の前のカシャ火山の中に何かがいることを感じながら。
「山の方から、すごい存在を感じる……」
ローダはそう言ったが、他の二人は何かを感じたという様子では全くなかった。
「気のせいでしょ」
「疲れてるな」
やがて、山頂にレイが着くと、どちらの感覚が正しかったかがはっきりとした。
溶岩の滴る大蛇が、彼の方を向き鎌首をもたげている。
「なんの用だ?」
ローダがコックピットハッチを開け、火蛇の前に立った。
「あなたは、ナーガ王国の人々に、核魔法を与えたんですか?」
「核魔法? 彼らに魔法を与えたことはこの十年で一度もない」
「分かっりました。ありがとうございまーす」
ローダはすぐさまレイの中に飛び込み、レイは山を下って行った。
「なんだったんだ?」
突如現れて去って行った巨像に首をかしげている火蛇の頭上を、ゴッザが回転翼機に乗って飛んで行った。
「国の外から傭兵など雇って、何をするつもりなのだこの国は」
レーダーの調子が悪いレイの背中を、回転翼機から飛び降りたゴッザが蹴った。蹴られたレイは飛行をやめて山の斜面に着地し、ゴッザの前に立った。
「殴り合い用の武装はないの!?」
ローダが、片手を座席の後ろに伸ばそうとした。
「拳で十分!」
レイの言葉に、ローダは操縦桿を両手で握り直す。ゴッザは、背中のバックパックから剣の柄を取り出し、光の剣を掲げるようにして構える。
「先手必勝!」
走り出したレイは、剣が振り下ろされる直前で飛行装置を作動させ、急加速とともにゴッザの頭を殴りぬいた。
「メインカメラをやったぐらいで!」
ゴッザは構わず、剣を逆手に持ち替えてレイの胸を背中から狙って突き刺そうとしたが、刀身はレイの装甲に触れると同時に霧散し、柄が残った。
「なかなかやるようだな」
ゴッザはレイを蹴って距離をとり、跳び上がって回転翼機の上に着地した。
「逃がすか!」
飛び上がろうとしたレイに向けて、ゴッザは煙幕爆弾を投げつけた。
「待て!」
無理に動こうとしたことで足を滑らせ、山を転がって麓まで落ちた。
「やった。この国の神様が、核魔法を否定する映像を取れた……」
コックピット内で、ローダは喜んだ。
「なるほど、それが目的だったのか」
ザックが笑いながらそう言った。
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