第6話 宙に触れる

「まだ終わりではありませんよ」


 四角柱がその言葉とともに氷を貫いてレイの正面に現れる。


「お前は一体何なんだ! なぜ戦争を続けたがる!」


 レイが問う。


「争いは、停滞を生む。あらゆることの目的を勝利に置き換える。それを管理することが私の役目」


「何のためにだよ!」


 レイが叫ぶ。


「……魔法という技術を知っていますか? 非常に便利なものです。そこの少女の大陸では地学的な事情から扱うことができていませんが、他の大陸ではすさまじい兵器としても運用されています」


「何が言いたい!」


 叫んだレイの目の前に幾何学的模様の光が現れ、その中から鉄塊が出現して氷の大地に落下した。


「このように物体を生成することも可能。利用法によっては、人間文明は数年で星間航行まで可能にするでしょう」


「まさか、それを阻止するのがお前の目的なのか?」


「魔法核融合爆弾という技術を、外の大陸の国家に神を騙って与えました。目的は達成されています。争い合ううちは宙に目は向かないのです」


 四角柱はそう言い残して空へ飛び去った。


「なんなの? あれ」


 ローダは呟いた。


「UMC……大昔だから今もあるかわからない国家だが、そこで買った小説に、あれに似たような奴が書かれていた。高度文明の道具として」


 ザックも呟く。


「それじゃあ、戦争を続けないとその文明の思い通りになってないってことだから」


 ローダはぼそぼそと言葉を発しながら考えにふけった。


「……見に行ってやろうよ。あいつの正体を。俺は大気圏ぐらいなら余裕で突破できるし、あいつの存在はまだレーダーの距離を広げれば感知できる」


 レイが言った。


「見に行こう。そんで一発ぶん殴ってやろうよ」


「賛成だ」


 二人は笑いながらレイの言葉に賛成した。


 金色の巨像が大気圏を突破し、スペースデブリの大量に浮かんでいる真空に飛び込んだ。


「すごい……綺麗」


 少女は生まれて初めて見た空の向こう側に、魂を囚われたように目をくぎ付けにされていた。


「どうやら、はしゃいでる暇はなさそうだ……」


 ザックの目にしている表層探知機にはこの宙域に浮かぶ四角柱の数は10億以上だと表示されている。


「ザック。それだけじゃない。気を付けて」


 レイがそう言うとコックピット内に、さらに範囲を広げたレーダが表示された。


「ここから半径10kmの圏内に30億居る」


 戦闘に入ろうと操縦桿を強く握ったザックを四角柱の思念波が襲った。


「うっぐあっ」


 ザックはうめき声を上げながら操縦席から転げ落ちた。


「大丈夫!?」


 空中にふわりと浮きながらローダがザックに飛び寄る。


「……俺は気にするな……今は、操縦を……」


 言葉を言い切らないうちにザックは意識を失った。ローダは宙に浮きながら動き、操縦席に座った。


「操縦できんの!?」


「見てたからわかる」


「思念波はどうするんだ?」


「耐えきってやる!」


 ローダは、操縦席後ろのレバーをいくつも前に持ってきた。そして、勘を頼りにレイの額の砲門を操作して、引き金を引いた。レーザーが光学迷彩を纏っている四角柱達を溶かす。そして、その熱を持った破片が周りに飛び散り、二次被害としてそれらを破壊していった。


 少女たちの視界に無数の光が映る。そして、レーダーを頼りにしてローダは操縦桿を全力で倒した。


「危ないよ!」


 レイの制止も聞かず、光学迷彩を解いた四角柱の群れに突っ込む。


「帰ってもらいましょう」


 四角柱はその言葉とともに1331体が集まり、巨大なそれを形成して自身の表面を鏡のように変化させた。レイはそれに向けて光線を放ったが、鏡面にはじかれ明後日の方向に飛んでいく。


「受け止めに行きなさい。そうしなければ地上に落下します」


 もしも、その巨体が指向性を持って地上の人口密集地に落下すれば大きな被害が出る。というのはまだ希望のある予想に過ぎない。


「あいつが言ってた核の魔法を地上付近で使われたらどうしようもない!受け止めるぞ!」


「分かってる!」


 落下する四角柱を、レイが両手で受け止める。


「道具には限界があるのです。何のために作られたかによって。あなたは物を押すために作られたのではありません」


 四角柱の思念波を受けて、少女はぎりぎりと歯を鳴らす。


「私の恩人を道具扱いするんじゃない!」


 少女の激情をレイの内部のビオカウンターが受け取り、強烈なエネルギーを作り出した。力の奔流が赤い光としてレイの全身から吹き出す。


「なんだ……その光は……」


「吹っ飛べ!」


 鏡の四角柱に向けてレイの額から光線が放たれる。強烈な光はコックピットの視界も真っ白にした。


「ぶち抜け!」

 

 どちらの鏡面も反射率は100%に達しない。そして、レイは宇宙戦艦を艦首から艦尾まで貫徹するほどの威力の光を出しているが、四角柱は光を発していない。

 我慢比べの結果は明白であった。


「四角柱の熱量が上がっていく……成功かもしれないぞローダ!」


 鏡面をもつ巨大な四角柱は表面を溶かされ、光線に貫かれた。過貫通した光線は周辺にいたものも巻き込んで溶解させた。


 その出力を見て、四角柱のいくつかが大気圏内に突入した。


「光線で撃ち落とせる!?」


「だめだ! これ以上は熱で砲身が駄目になる!」


「なら……突っ込むしかない!」


 レイは大気圏内に突入に、四角柱の一本に追いついて手刀で叩き折った。


「あと二つ!」


 残りの落下する四角柱に向けて飛ぼうとしたレイだったが、四角柱はまだ活動を停止していなかった。

 レイに組み付き、すべてのエネルギーを使って爆発を起こした。


「そんな物が効くかっ!」


 レイが残りの二体のうち一体にレイが組み付き、重力波で球状に圧縮させて最後の一体に投げつけた。連続して二つの爆発が起こり、それらは爆散した。


「やったけどっ!」


 先ほど出した光線ですでに機体に負担がかかっていたレイはいくつかの機能を停止させながら、沼地に落下する。衝撃でローダは気を失った。


「ローダ? ローダ!」 


 レイの呼びかけにも当然応じない。


 沼地に落ちた巨像は哀れにもしばらくの間うつ伏せで放置されることになった。


「それでいい。人類は宙に出すべきではない」


 四角柱は宇宙から地上を眺めていた。

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