第5話 誰かもわからないまま

 地上にいる三者の元へ、四機のロボットが飛来してくる。


「二人とも、コックピットに入って」


 いち早く気が付いたレイが、自身の中に二人を招いた。


「俺が操作する」


 ザックが操縦桿を取り、ローダは宙に浮く。


 レイは立ち上がり、反重力エンジンの飛行を始める。


 四機のゴッザは地上に向かって飛び降りる。そして、レイとすれ違う寸前に同時にビーム砲を打つ。


 四本の光が二本ずつ胸部と頭部に向けて伸び、それをレイは頭部と胸部のスラスターで足を中心に体を後ろへ四分の三回転させて回避し、二発目が来る前に急加速して突撃し、ゴッザの一体を左腕で捕らえた。


 盾と右腕の間についたガトリング砲から昼に使ったものと同じとりもち弾を打ち込んで、捕らえたゴッザの全身のカメラやスラスターを使用不可能にする。


 レイは三発目を打たれる前に別の機体にとりもちだらけの機体を投げつけ、それらが木をなぎ倒して落ちた先にもとりもちを打って拘束してた。そして、ついでのように残りの二機のうちの一機の頭を額のレーザーで潰す。


「メインカメラが!」


 中の男は狼狽えながら残った計器で必死に戦闘を継続しようとしたが、レーザーの余波でそれらにも不調が生じ、機体は地面に落下して彼はエアバッグに包まれた。


 残った一機は地上に降り立ち、バックパックから剣の柄のようなものをとりだす。その柄からは白い光の剣が生成された。ガトリング砲から放たれたとりもちをその剣で防ぎながら、空中のレイに徐々に近づいていく。そして、レイはガトリング砲を止め、地上に急降下して着地し、ゆったりと歩き出す。

 レイに向かって走り、袈裟切りになるような形で光の剣を振り下ろした。


 黄金の巨像はその剣を飛び上がって躱し、ゴッザの頭を蹴り飛ばした。そして、なおも起き上がろうとするゴッザの頭部を踏み潰す。


 四機のゴッザを蹴散らしたレイの足元が揺れる。そして、地面を割り、全長が戦艦の倍ほどもある葉巻型の軍艦が現れた。


「こいつは……UMCの戦艦、オリンポスか。なぜここに?」


 30門の方が搭載されたそれの名前を知るザックは疑問を口にした。


「まさか、ルサッセ?」


 ローダは別の存在の名前を口にする。


「誰? それ」


「軍神の名前よ。平和な世の中になればその姿を消して思念体として人の邪心を煽り、争いが起こると力を増してそれを激化させる。その姿は、軍船だとも少女だとも巨像だとも言われている悪神」


「なるほど」


 オリンポスの砲がレイの方を向く。


「通信もできない。どうやら敵だな」


 臨戦態勢をとるザック。


「本気を出すよ、これでレーザーはすべて反射できる」


 レイの金色の装甲がオリンポスの船体を写す。金色の巨像が空中に飛び上がる。


 オリンポスの30門の砲は一斉にレイに向けて放たれ、そのすべては反射してオリンポス自身に命中した。硬い船体はそれでも損耗が激しくはなかった。


「レーザーの出力を全開にしたい。その、操縦席の後ろにある緑のレバーを倒してくれ」


 レイの要求にザックは応えられなかった。巨像を操作し、実弾の対空機銃を躱し続けながらさらに操作をするのは物理的に不可能だった。


「俺の腕は三本もないぞ!」


 オリンポスは、南海鎮守府の攻撃も振り切り、外洋に向けて進む。


「私がやるよ」


 ローダは操縦席の後ろに飛びつき、緑色のレバーを倒す。


 ザックが標準を合わせ、レイの額からレーザーが放たれる。それはオリンポスの巨大な船体を横薙ぎにする。レーザーが燃料に引火したオリンポスは、熱がミサイルや魚雷にまで伝わり、ドミノ倒しのように何度も誘爆を起こしながら海中に沈んでいった。


「ずいぶんと呆気ないな」


 戦艦を轟沈させた軍人の呟きは的外れなものとなる。


 火にまみれたオリンポスの船内を轟音とともに突き破り、各辺の長さの比が1:4:9の透き通った四角柱が現れる。


「争いの手段は科学だけではないのです」


 それから放たれたのは空気を介する言葉ではなかった。


「思念波か!」


 高度文明の軍人は反応し、レバーを倒してそれに近づく。しかし、四角柱の周りに光の円が形成され、直後にそれは南海の上空から姿を消した。


 レイは、左腕から粒子ワープアンカーを出し、空間を捻じ曲げる魔法で転移中の四角柱を捕らえ、転移先であった南の氷の大陸の上に姿を現した。


「放しなさい。争いの種がここにはあるのです。それを解き放つ義務が私にはあるのです」


「争いは人の死しか生まない! それでも争いを起こそうとするなら、まずお前が死ね!」


 激情に駆られた軍人が操縦桿を動かす。レイは腕から赤い光をほとばしらせながら透明な四角柱を殴りつけた。柱は、氷の大地を貫き、その中へと落ちていった。


「成功です」


 柱が落下した先の氷底湖に眠っているムカデのように長大な節足動物の怪物が目を覚ます。それは地上に這い出し、目の前にいたレイに鎌首をもたげて口から酸性の液体をまき散らしながら威嚇する。その足一本一本の幅が優にコルベットほどもある。


「ローダ。下から二番目の操縦桿の左から二番目のボタンを二回押してくれ」


「うん」

 

 椅子の後ろにいたローダは言われたとおりにボタンを押す。


 レイの盾とガトリング砲が右腕から外れ、残ったジョイントの上に三つの筒がつなげられてその周りを覆われた海苔巻きのような見た目をしている灰色の三連装亜光速魚雷発射機が転送されてくる。


「吹っ飛べ!」


 爆音と衝撃と共に宇宙用の魚雷が放たれ、閃光と共に怪物をクレーターを作った。地底湖から残った節足動物の下半身が現れ、襲い掛かるが、レイはそれをレーザーで両断した。巨大なムカデは縦に真っ二つに切られたことで体液をまき散らしながら倒れた。


「……なあ、お前一体何なんだ?」


 目の前の惨状を受けて、ザックは呟いた。


「……昔の文明も全部がこうってわけじゃないよね」


 魚雷の威力に驚いて大口を開けていたローダは数秒してやっと言葉を発した。


「俺は、平和を目指せるような存在じゃないのか……?」


 レイの呟きに、ローダはモニターを蹴って反応する。


「そんなわけない! あなたが人に作られたなら、それは人のために決まってる!」


 少女は、叫んだ。


「……そうだな。そんな悩み方ができる奴がただの破壊兵器なはずはない」


 男も、それに同意をした。

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