第3話 南方鎮守府
広い港街の一角にある図書館で、船を軍に引き渡した後の二人が本を漁っていた。南方鎮守府という帝国軍の防衛機関が置かれ、山と海に囲まれたサカラムクという街は平和に存在している。
「ねえ、レイは置いてきて良かったのかな?」
巨像を近くの山に置いてきてしまった事をローダは気にしていた。
「あいつ、一度起動したら他の人間は起動できないらしい。大丈夫だよ」
そんな事を言いながらザックは歴史書を手に取って、開く。
「どれを借りるんだ?」
「出来るだけ公平なやつ」
高価で高性能な、遺跡産の化学繊維の長袖長ズボンにサファリジャケットという静かに本を読むのが好きな人間だと思わせないような服装で本を読んでいた少女はそう言った。
「そんなもん戦時下の国にあるわけないだろ」
「そうだよね……」
ローダとザックは数冊の歴史書を読んで、図書館から出ていった。
「どちらが真の王朝かで揉めるなんて馬鹿らしいな」
心の底から呆れている軍人は少し笑った。
「こんなことで七度も戦争をするなんて本当にね……」
少女もまた、酷く呆れている。
「過去の戦争はすべて疲弊によって終結している」
歴史書の内容を思い返しながらザックはそう呟いた。
「その後、戦力についての条約を作っては破ってまた戦争。もう戦争相手は民主議会政治の連邦国になって王朝とか関係なくなったのに」
ローダが群れからはぐれ、ひっくり返った赤い蟹を拾い、群れの中に放り込んだ。拾いあげるときに彼女のサファリジャケットに別の蟹が掴まったことに気が付いてそれも群れの中に放り込む。
「……待てよ? なあ、あの艦ってどこの所属なんだ? 戦争相手のシデンとかいう国が発掘したとしても、あそこに単艦でいる理由がないぞ」
港に留められている軍艦のうち、彼の視界に入った数隻の駆逐艦を見てザックが言った。
「まさか、別の勢力が居るって言いたいの?」
「もしそうだとしたら、手を取り合う理由になる」
「それはいいことなんだけど、どうやってそれを示せばいいの?」
「レイに、録画機能があるのは確認できた。情報は持っている状態だから、国家元首にそれを示す方が難しいな」
「そっちは簡単だよ。だって私のお兄ちゃん、海軍の中将だから。ここの司令官やってる」
少女は鎮守府の建物を指さして言った。
「艦長やってるのとは別の兄貴か?」
中将と艦長を結びつけなかった軍人が訊ねた。
「うん」
少女は頷き、男の手を引いて南海鎮守府の建物へと向かった。門兵に近づき、自身をザックに持ち上げさせる。
「ズムウォルト・ノイ・リキシアに繋いでください。ローダンセ・ノイ・リキシアの名で」
司令官がよく話題にだすと又聞きではあるが知っている門兵は、裕福なことのわかる格好の少女に彼の妹の名を出され、確認のために電話を繋いだ。
「なあ、君の兄貴の名前の由来はなんなんだ?」
「古文書に書いてあった船の名前だってお父さんは言ってた」
「そうか……ズムウォルトってのは苗字だったんだがな」
「……誰にも言わないでねそれ」
すさまじく長大なジェネレーションギャップに、少女は少し嫌な顔をした。
「……中将にお取次ぎ出来ました」
しばらく雑談をしながら待っていた二人を、打って変わって敬語で門兵が呼ぶ。
「はいはーい」
「はいは一回にしておけ」
ザックに注意を受けた少女は、門兵のいる小さな小屋の中に入り、電話を取った。
「もしもし兄さん?」
「なんの用だよ。こっちは持ち込まれた古代文明の戦闘艦の処理で揉めてて大変なんだけど」
「その船持ち込んだのは私」
「……そうかい。で、用件は?」
「古代文明の兵器を持った集団が蜂起している。それを伝えるために帝王様に謁見したいから、紹介状がほしい」
「その証拠ってのはどんなの?」
「映像。見せた方が早いから明日持ってくるよ」
「そうだな。また明日来てくれ」
二人は帰路についた。といっても山の方面であったが。
日本の地形で例えると鎌倉のように三方を山で、一方を海で囲まれた港街。その山中に隠したレイの元へ二人は戻ってきた。日はもうすぐ沈むというところまで来ていて、空は綺麗なオレンジ色をしている。
「これ、空からだと丸見えだな」
「悪かったな、金ぴかで」
男二人が軽口を叩く。
「明日、頑張ろうな」
レイは今日非常にいろいろな経験をした少女に声をかけた。
「まだまだ。私は頑張るよ」
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