第7話

 「召喚の儀をやったんじゃな?」

 長者って言われたでっかい獣が言った。


 僕はグルグル巻きのまま、ちょっと大きめの家の床に転がされていた。


 木でできた家。

 土間があって、そこには竈らしきものもある。

一段上がったその部屋は木の板で、真ん中に囲炉裏があって、その奥側に長老が座り、囲炉裏を挟んで正座した4人が頭を垂れている。

 長老の後方に僕は転がされていた。


 「でも、おじいちゃん!大人を助けるにはコレしかなかったんだよ!」

 女の子の獣が言った。

 ちなみにイタチらしい。

 ほとんど同じに見えるもう一人もイタチ。そしてそうは見えないけど、真っ白なって言われた人もイタチ、らしい。イタチの獣人。

 僕に突っかかってきたのがタヌキの獣人で、もう一人がキツネの獣人だ。

 ってなんだよ獣人て。


 「それで裸族の、しかも子供なぞ呼び出しおってからに。」

 「でも、そいつツワモノだったぞ。」

 「だとしても、じゃ。分かっておるのか?こんな幼い子をおまえ達は誘拐してのと同じじゃぞ。この子の親もなげいとるわ。」


 シュン、とした感じで4人が肩をすくめる。

 てか、なんだよ、裸族だのツワモノだのって?


 スタスタって、イタチのしゃべってなかった方の子が僕のところへ歩み寄ってきた。

 そして、僕の側に正座で座ると、

 「ごめんなさい。」

って小さい声で言った。なんか涙も出そうな感じで、僕はちょっとうろたえる。


 「おいチェン!危ないぞ!」

 タヌキが慌てて追いかけてきて、その子を立たせようとするけど、その子はいやいやをするみたいにして、その手を振り払った。

 「え?」

 タヌキがその態度に驚いたみたいな様子を浮かべる。


 「ポン。チェンの好きにさせてやりなさい。」

 そこに長老が声をかける。

 タヌキはチッと舌打ちし、唇を噛むとおずおずと元の位置へ戻っていった。

 その様子を見て小さくため息をついた長老は、僕の方へと改めて身体を向けた。


 「して、裸族の子よ。落ち着いたかな?暴れないならすぐにも縄は解くが?」

 「長老!」

 タヌキが抗議の声を上げるも、長老は無視して僕の方に顔を向けたままだ。心なしか優しげな顔をしているような気がする。と言ってもしわしわの毛まみれの動物顔、表情がはっきり分かるわけじゃないんだけど・・・


 「裸族って僕のこと?僕、裸じゃないんだけど。」

 「おおそうじゃの。立派な服を身につけとるが、すまんのぉ。赤子のようにおまえさんは毛がほぼ生えておらん。そういう生き物を裸族、と言うのじゃ。まぁ蔑称じゃて、申し訳ないがのぉ。」

 赤子?赤ちゃん?

 そういや動物も生まれたばかりは毛が生えてない。そんなのと同じように毛が生えてない人を裸族って言う訳か。蔑称ってことは見下した言い方ってことだよね?まぁ見かけが違うと陰口はたたかれがち。そういう意味じゃ僕は慣れてるけどさ。


 「ふうん。でも僕は裸族じゃなくて人間だよ。こう見えても日本人だし。て、通じないかな?ま、いいや。僕は暴れるつもりはないし、そっちから攻撃してきたんだ。正当防衛だよ。」

 どうやってタヌキをはじいたかは謎だけど、そこはわざわざ言う必要ないよね。


 「正当防衛。そうか。それはポンが失礼した。では・・・」


 長老が杖を掲げてまた何かを唱える。

 するとツタがするするとほどけていき、まるでなかったみたいに空中に消えちゃった。

 びっくりです。


 「して、坊よ。名前を聞いても?」

 「僕?僕は桜康。大竹桜康だよ。」

 「ふむ。オーコーくんか。わしはこの村の長老じゃ。してオーコーくん。このたびは村の子供達が君をこの世界へと呼び出してしもうた。ほんとに申し訳ない。謝って済むことでもないがのぉ。送り返すことはできるが、いくつか条件が重ならねばならん。しばらくはこの世界で暮らしてもらうことになる。」

 「・・・それって異世界召喚、的な?・・・ひょっとして魔王を倒さなきゃ、とか?」

 本屋さんもあんまりない田舎暮らし。ネットで小説はいっぱい読んでたから異世界転生とかは好きだけど・・・

 中世ヨーロッパとかじゃないんだ。とか、そんなことをぼんやり思ったりして・・・


 「魔王?なんじゃそれは?子供に戦いを無理強いするつもりはないぞ。しかし時が満ちねば返せんからな、しばらくはその子達に面倒を見させる。ゆるりとしておられよ。」


 「ちょっと待ってよ!」

 そのとき、もう一人の、僕に謝った方じゃないイタチが言った。

 「その子、ツワモノよ。ポンを弾き飛ばしたもの。せっかく私たち、呼び出したの。母さん達みんなを助けられるミチビキテを呼び出したのよ!当然、大人たちを救ってもらいます!」

 「何を言って・・・」

 長老がイタチの子をいさめようとしてるんだけど、そのとき、僕の右手をしっかりと両手で包み込むのを感じた。

 僕はびっくりして、その手の主を見つめる。


 「お願い。悪いことをしたってのは分かっているの。でも・・・・他にないの。・・・お願いです。私たちを、たすけて・・・」

 もう一人のイタチの子が、涙目で僕に頼んできたんだ。

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