記憶の彼方

勝利だギューちゃん

第1話

街を歩いている。

懐かしい街だ。


10代までの多感な時期を、僕はこの街で過ごした。

いつ以来だろう?

大昔のような・・・

最近のような・・・


ただひとつ


「まるで変わっていない」

そう、変わっていない。


憎たらしいくらいに変わっていない。


細かい所は、差がある。

でも、当時の比べてみないとわからない差だ。


喫茶店に入る。


「いらっしゃい。久しぶりだね」

「ここは変わらないですね」

「変わっていくのは、若いうちだけだよ」


学生時代は、ここにたむろしていた。

マスターとも馴染みだ。


「夏美さんは?」

「とっくに辞めたよ」

「寿退社?」

「近いね」

「相手は?」

「俺ではない」

マスターが言う。


未だ独身の様だ。


「悪かったな」

「聞こえてた?」

「俺は地獄耳だ」


当時と変わらない会話をする。

この時間が、とても楽しい。


他の連中も来ているのだろうか?


「じゃあ、僕はそろそろ」

「また来いよ。待ってるからな」

「お勘定」

「いいよ。今日は俺のおごりだ」

「悪いな。ごちそうさま」


マスターの笑顔に見送られ、外へ出る。


さてと・・・

そろそろ迎えが来るかな。


「ご主人様、この街の再限度は?」

執事に声をかけられる。

「90点だな」

「不足分は?」

「マスターが、かっこよすぎる」

「修正いたします」


この街は、僕の記憶を元に再現された場所。

つまりは、実物大の模型。


社会に疲れた時、この街で過去の自分に戻る。

そしてまた、現実へと帰る。


列車に乗る。

そして、元の世界へと戻る。


疲れたら、また来よう。


「あなた、お帰りなさい」

妻となった夏美さんが、笑顔で出迎えてくれた。

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記憶の彼方 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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