第91話
串焼きを受け取ったセレニティはスティーブンと共にベンチに腰掛ける。
串に刺さり、油で照りっと光る肉を見つめながらセレニティは興奮していた。
ほんのりと香る肉が焦げた匂いに深呼吸を繰り返す。
(これが……噂の串焼き!ナイフとフォークを使わないで食べるお肉なのですわよね?)
スティーブンの食べ方を暫く観察していたセレニティも恐る恐る口に肉を含む。
「……んむっ!?」
「美味しいか?」
「はい……!とても美味しいですっ」
ジュワリと口いっぱいに広がる油に幸せを感じていた。
訓練後にお腹空いている時に食べたら絶品だろう。
その後、スティーブンと露店を満喫したセレニティはマルクとソフィーの分も注文してお土産に買ってから家路に着いた。
侍従に荷物を運んでもらう間に、冷めてしまったが露店で買った串焼きやパンを渡す。
すると二人は目を輝かせて大喜び。昔話に花を咲かせて嬉しそうにしている。
それを聞いてスティーブンに視線を送ると、スティーブンは優しい瞳でセレニティを見ていた。
セレニティはスティーブンの耳元で囁くように言った。
「サプライズ、大成功ですわね!」
「……ああ、セレニティのおかげだ」
「スティーブン様が色々と教えてくれたおかげですわ」
二人で目を合わせて笑い合った。
そして今度は二人で訓練後に食べに行こうと約束したのだった。
* * *
トリシャの結婚を祝うパーティーが開かれる日を迎えた。
準備段階から涙するセレニティに困り果てているマリアナに呼ばれてソフィーが部屋に訪れた。
「あらあら……」と、困ったように笑ったソフィーはセレニティの涙を布で拭ってくれた。
「セレニティの寂しい気持ちはよくわかるわ。けれどね、トリシャ王女だって国から離れてこれから異国の地で暮らすの。そばにはハーモニーがいるけれど、きっと不安だと思うの」
「……ソフィー様」
「それに大好きな友人が泣いてばかりいたら悲しくなってしまうわ。それにセレニティと同じようにトリシャ王女も思っているはずよ」
「……っ」
「今日は涙よりも笑顔よ。セレニティ」
ソフィーの優しい声色はセレニティを落ち着かせてくれる。
力強くも説得力のある言葉に頷いた。
たしかにセレニティが泣いてばかりいたらトリシャやハーモニーを困らせてしまう。
セレニティは涙と鼻水を拭ってから、マリアナに頼んで気合いを入れて準備を進めていく。
ソフィーはセレニティの手を握りながら笑顔でいてくれた。
薄桃色のドレスに着替えたセレニティなソフィーに改めてお礼を言って抱きしめてからスティーブンの迎えの馬車に乗り込んだ。
「いってきます!」
「いってらっしゃい、セレニティ」
「気をつけて」
「スティーブン、頼むぞ」
「はい」
セレニティはマルクとソフィーのことを本当の祖父母のように思っていた。
そして優しく見守ってくれるこの邸の人たちが大好きだった。
セレニティが窓を閉めてから席に座る。
スティーブンも少し赤くなっているセレニティの目元を見ながら、ポケットから小さな箱を取り出してセレニティの前に出す。
「セレニティ、よければこれを受け取って欲しい」
「これは?」
セレニティはスティーブンから箱を受け取って交互に彼と箱を見ていた。
「開けてみてくれ」
「はい」
スティーブンの言葉に頷いてから箱を開けると中にはネックレスが入っている。
「わぁ……素敵!」
スティーブンから渡されたのはシンプルな金色の薄いプレートに細かな花の装飾がされたものだった。
真ん中に小さな紫色の石が埋め込まれいる。
(あの時にお店で見ていたネックレスによく似ているわ)
それに装飾も宝石がついたものよりも薄くてとても軽い。
「スティーブン様、これをわたくしに?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます