第89話


最近、トリシャもハーモニーも結婚式の準備に追われて忙しくして顔を合わせていない。

今回のパーティーを逃せば、次にトリシャの顔を見られるのは結婚式になってしまう。

便箋を包んでもらいながらセレニティは鼻を啜っていた。

それから店を移動してスティーブンが渡す花を買い込んだ後にスティーブンに案内してもらった宝石店に入り、髪飾りを選んでいた。



「わたくし、今回は奮発して四人でお揃いのものを……と思っていて」


「セレニティ……」


「ぐすっ……」



店で感極まって泣き出してしまったセレニティを抱きしめたスティーブンはセレニティの代わりに店員に事情を説明してくれた。

セレニティが落ち着くまで個室のソファで休ませてもらい、スティーブンはなるべく同じデザインの髪飾りを用意してもらうように頼んでくれた。



「セレニティ、四つ揃いのデザインでいいのか?」



セレニティがハンカチで顔を押さえながら首を縦にして頷いていた。

だんだんと落ち着いてくると、スティーブンに胸を借りて泣いているこの状況はなんだか恥ずかしくなってくる。


(どういたしましょう……!抜け出すタイミングがわからないわ)


しかしこのままでは店にも迷惑をかけてしまうと、セレニティは真っ赤な目を擦りつつも小さな声でスティーブンを呼んだ。

そして胸元から上目遣いで彼を見つめる。



「あの……スティーブン様。も、もう大丈夫です」


「……!」


「取り乱して申し訳ございません。はしたないですわよね」



あわあわと頬を赤らめるセレニティを見て、何故かスティーブンはバッと視線をそらしてしまう。


(な、なにかわたくしが気に触ることをしてしまったのかしら)


セレニティが慌てているとスティーブンの耳が真っ赤になっていることに気づく。

それを見たセレニティは自分がくっつきすぎたためにスティーブンが暑くなってしまったのだと思った。


(暑い中、スティーブン様に気を遣わせてしまったわ!)


セレニティは慌ててスティーブンから体を離してガバリと頭を下げる。



「申し訳ありません、スティーブン様」


「え……?」


「わたくしが密着したばかりにお体が暑くなってしまわれたのですよね?」


「………………いや」


「何か仰げるようなものがあればいいのですが……」



セレニティの大きな勘違いに一部始終を目撃していた店の人たちからは残念そうな声が漏れる。

それからスティーブンを応援する声もチラホラと届いていたが、懸命にパタパタと手で風を送る可愛らしいセレニティを見て、照れていただけとは言えないスティーブンは「すまない」というしかなかった。

こうしてスティーブンとセレニティを応援する人たちがまた増えていく。



「少しは涼しくなりましたでしょうか?」


「あ、あぁ……」


「失礼いたします。お品物をお持ちいたしました」



スティーブンとセレニティの前に髪飾りがテーブルの上に広げられていく。

セレニティは金色がベースになっていて石がはめ込まれている一番シンプルなものを選んだ。



「わたくしがピンクでハーモニー隊長は赤。ブレンダお姉様は紫……トリシャお姉様は黄色か水色か、スティーブン様はどちらがよいと思います?」


「トリシャ王女殿下は、いつも水色のドレスを好んで着ているし宝石は水色でいいのではないか?」


「そうですわね!さすがスティーブン様ですわ」



セレニティは手を合わせて喜んでいた。



「こうやって一緒にプレゼントを選ぶのってとても楽しいのですね!スティーブン様、ありがとうございます」


「……あぁ」



こうしてまた無意識にスティーブンからのセレニティへの愛情が深まっているとも知らないセレニティは店員と和気藹々と談笑しながら髪飾りを包んでもらっていた。


待っている間、スティーブンは男性店員を呼んでショーケースの中を指さした。

男性は頷くと、すぐにセレニティと話している女性店員のもとへと向かい耳打ちをする。

頷いた女性店員はセレニティの前にアクセサリーを並べていく。


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