第87話
本当の祖父母のようにセレニティに接してくれる二人のおかげで、以前にも増して幸せな暮らしを送れている。
次々に自分の夢が叶い、キラキラと人生が輝きに満ちていた。
何より畑で実った野菜の美味しさに今は夢中である。
セレニティはマルクとソフィー、スティーブンとお茶をしてから汗を流すためにシャワーを浴びる。
そしてマリアナと共に手早く準備を終えて、三人が待つ部屋へと急足で戻った。
「スティーブン様、大変お待たせいたしました!」
「セ、セレニティ!」
「あら……スティーブン様、お顔が赤いですけれど何かあったのですか?」
セレニティがスティーブンにそう問いかけると彼は首を横に振る。
不思議に思いマルクとソフィーに視線を送ると彼らはいつものようにニコニコと優しい笑みを浮かべていた。
「マルク様、ソフィー様、どうされたのですか?」
「奥手すぎる孫に少しアドバイスをな」
「そんなところもマルクにそっくりで!ウフフ、なんだか懐かしいわ」
「……ゴホンッ」
マルクがソフィーの話を遮るように咳払いをする。
「なんのアドバイスでしょう?わたくしにも是非、聞かせていただきたいですわ」
セレニティがそう言って目を輝かせると、ソフィーは「セレニティはそのままで大丈夫よ」と言って笑った。
「ゴホン……!セレニティ、そろそろ店が開くだろう。行こう」
「あっ、はい!」
マルクと同じように咳払いしたスティーブンに腕を引かれてセレニティは歩き出す。
二人に笑顔で手を振って、ネルバー公爵家の馬車に乗り込んだ。
馬車に揺られながらセレニティは考えていた。
少し前までは令嬢達にモテすぎるスティーブンを助けたいという気持ちから一緒にパーティーに付き添っていたが、今はセレニティが婚約者として馬車に乗っている。
(なんだか急に恥ずかしいですわ……!)
まだ婚約者らしい雰囲気とは違うが、セレニティの中で確実に何かが変化しているようだ。
セレニティは恥ずかしさを振り払うように頬を押さえて、ブンブンと首を横に振るのを見ていたスティーブンは不思議そうに問いかける。
「セレニティ、どうかしたのか?」
「い、いえ……!それよりもトリシャお姉様が、まさかリタ帝国の第一皇子リュシアン殿下と結婚するなんて驚きでしたわ」
「ああ、俺もびっくりだった」
トリシャといえば、アーナイツ王国の宝石と呼ばれるほどの美女である。
しかし幼い頃に暴漢に襲われたのをきっかけに大の男嫌いになってしまう。
その時、トリシャを襲った男を撃退した際にハーモニーは胸元に傷を負ってしまう。
そのことで互いに責任を感じて悩んでいた二人。
トリシャからリュシアンの話は度々聞いてはいたが、まさか結婚することになるとは夢にも思わなかった。
何故ならトリシャと同じでリュシアンは女嫌いで有名な皇子らしい。
つまり女嫌いのリュシアンと男嫌いのトリシャの結婚というわけだ。
最初、その話を聞いたセレニティは驚きすぎて空いた口が塞がらなかった。
しかし話を聞いてみると悪いことばかりではないようだ。
それにリタ帝国といえば広大な土地と様々な部族を支配している。
そんな帝国の第一王子というからどんな恐ろしい人かと思いきや、上品で端正な顔立ちをしている美しい男性だった。
この容姿ならばさぞ令嬢達にモテるだろう……そう思えるほどに。
だがリュシアンは二十五歳になるのに婚約者がいたことはなく皇帝もお手上げ状態。
男色の噂も出て困り果てたリュシアンは大っ嫌いなパーティーに出席して、男嫌いなトリシャと出会ったと教えてもらった。
二人の出会いは護衛とはぐれてしまい、人がいないところで休もうとしたらお互いに肩が触れて絶叫したというすごいエピソードからはじまっている。
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