第83話
「また公爵邸に来た時に今度はゆっくり話をさせて。今は二人で話すべきことがあるでしょう?あなたならいつでも歓迎するわ。セレニティ」
「ありがとうございます」
「母上……!」
「先程も言ったけれど、わたくしはあなたがスティーブンの結婚相手になって欲しいと思っているわ」
「ワシも大歓迎だ。是非とも前向きに考えて欲しい」
いい笑顔で部屋の外に出た公爵達を見送った。
スティーブンは頭を抱えていたが、すぐに気分を切り替えたのか顔を上げる。
「すまない。父上と母上の言うことは気にしなくていい。言葉通り、セレニティの意思を優先したいと思っている。それに返事がもらえないことが気がかりだったが、まさか手紙が届いていなかったとは」
「スティーブン様、それは……!」
そう言いかけて口をつぐんだ。
本当にジェシーかどうかはセレニティの想像でしかない。
悔しい気持ちはあるが確実な証拠がない限り、発言するべきではないと思った。
「それに君が愛する人ができるまで待つつもりだったが、セレニティと共に過ごすうちに、気持ちが抑えられなくなっていった」
「…………」
「放っておけない存在から、いつの間にか側にいて欲しいとそう思うようになった」
スティーブンの頬が真っ赤になっていくのをセレニティは驚きからじっと見つめていた。
「俺は、セレニティのことが好きだ。とても大切な存在だと、そう思っている」
「……!」
「それだけは知っておいてくれ」
「ですが、以前好意を寄せている人がいると……」
「ああ、それは君のことだ」
スティーブンはそう言って微笑んだ。
『危なっかしい、目が離せないんだ……俺が守ってあげられたらと思っている』
『いつも一生懸命、頑張っているんだ。よく笑い、周囲を気遣い、素直で優しい彼女の姿を尊敬して……っ、すまない、その』
スティーブンの言葉を思い出したセレニティの体が火照っていく。
俯くようにして顔を隠した。
心臓が口から飛び出してしまうほどにドキドキしていた。
「わ、わたくしはまだ正直なところ恋というものがよくわかっておりません……!ですが、スティーブン様が他の令息達とは違う特別な存在だということだけはわかりますわ」
「俺もセレニティが特別な存在だと思っている」
その言葉にセレニティは顔を上げた。
バイオレットの瞳は本当に愛おしそうにセレニティを見つめている。
はじめての経験にセレニティはどうすればいいかわからずに焦りを感じていた。
ドクンドクンと音を立てる心臓を押さえながらスティーブンに問いかけた。
「この胸の痛みは……スティーブン様が好きということでしょうか?」
「そうだと嬉しい」
「~~~っ!」
熱くなった頬を挟むようにして手のひらをあてる。
クラリと目眩がしてしまうくらいに気持ちが昂っていた。
「ゆっくりでいい。俺との関係を前向きに考えてくれるのなら、これ以上嬉しいことはない」
「あの……っ、あの!」
スティーブンはセレニティの指を解くようにして手を握る。
スティーブンの体温が肌から伝わり、強く意識してしまう。
「好きだ。セレニティ」
スティーブンはそっとセレニティの手の甲に口付けた。
こうして自分の気持ちに気づいてしまえば後戻りはできない。
「セレニティに言われた通り、気持ちを伝えてよかった」
「それはっ……!わたくしのことだなんて思わなくて」
「これからどんな時でも君を守ると誓う。だから側にいさせて欲しい」
「お、お手柔らかにお願いいたします……!」
スティーブンの言葉にセレニティはゆっくりと頷いた。
これからスティーブンとの関係に変化があることも知らずにセレニティはニッコリと笑った。
その間もネルバー公爵とシャリナ子爵達がジェシーのことに関して話し合っているとも知らずに、セレニティとスティーブンは新たな一歩を踏み出したのだった。
end
これから学園編~結婚までを書いていけたらと思っております~!
次回作を公開しつつ、最後まで執筆してからの公開となりますので、少々お時間いただきます。
とはいいつつもありがたいことに商業のお仕事やコンテスト作品の作成もあり、いつ続きが書き上げられるか分かりませんので一旦、完結にさせていただきます。
これからも皆様に楽しんでいただけるよう努力いたしますので温かく見守っていただけたら幸いです♪
やきいもほくほくより
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