第80話
ドレッサーの前に座ると、マリアナがテキパキと準備を進めていく。
そしてドレスを選ぶ際にいつも通りの動きやすくてシンプルなものを選ぶと……。
「ジェシー様はネルバー公爵に好かれようと、かなり気合いを入れているようですが、セレニティお嬢様はこれでいいのですか?」
「えぇ、わたくしはジェシーお姉様と違うもの」
「わたしはいっつもセレニティお嬢様の手柄に縋ろうとするジェシー様のやり方が許せませんわ!今日だって本当はセレニティお嬢様に会いにくるのに当然のように……!」
「そうねぇ」
「何故あの態度でセレニティお嬢様より自分の方が気に入られると思い込んでいるのか……!わたしにはさっぱり理解できません。妄想の世界で生きているのでしょうか」
「ふふっ、マリアナが理解してくれるだけでわたくしは嬉しいわ」
「セレニティお嬢様!そんな呑気なことを言っている場合ではないのですよ」
マリアナはなんだかんだ言いつつもセレニティのために怒ってくれている。
そんな優しさと味方でいてくれる安心感にいつも助けられているのである。
そんな話をしつつも、あっという間に準備が終わってしまう。
今日は高い部分で髪を一つに結えてシンプルなライムグリーンのドレスを着ている。
ハーモニーのような髪型にすると少し彼女に近づけたような気がして嬉しくなった。
ジェシーやメリーがよく着ている可愛らしさと派手なドレスが主流ではあるが、セレニティは動きやすく上品に見えるドレスを好んで着ていた。
「今日も素晴らしい出来栄えだわ!さすがマリアナ」
「セレニティお嬢様が元々可愛らしいからですよ」
「いつもありがとう」
セレニティは上機嫌でサロンに向かって歩き出した。
すると嗅ぎ覚えのある甘ったるい花の香りに顔を顰めた。
廊下には今からどこにいくのか問いかけたくなる派手な化粧をしたジェシーの姿があった。
ドレスは割とシンプルではあるが露出が多めである。
普段着を装いつつも、かなり気合が入っているのが見て取れる。
「──遅いじゃない!セレニティ、あなた一体、何を考えているのよ!?」
「まだ約束の時間ではないはずですが……」
「もうネルバー公爵達は到着なさっているのよ!?こういうのを予測できないあなたはダメなのよ」
「申し訳ありません、ジェシーお姉様」
扉を挟んだ向こうにネルバー公爵達がいるのに、ジェシーは気にならないのか金切り声を上げる。
セレニティは言い返したいところではあったが、状況を見て穏便に済ませられるように動く。
「それにスティーブン様がわたしに会いに来てくださったの!窓からお姿が見えて、もう嬉しくって……!」
「ジェシー!静かにしなさいっ」
背後からやってきた両親はジェシーを直ぐに注意するが、彼女の口が止まることはない。
「だってスティーブン様がここにきたってことは……ウフフ!きっと結婚を申し込みに来たに違いないわ!」
嬉しそうに頬を赤らめるジェシーにセレニティは呆れるばかりだ。
今日は式典のことについての話だと思っていたし、その自信はどこからやってくるのか、セレニティの思考では全く理解ができない。
マリアナの言う通り、彼女は妄想の世界で生きているのだと思うことにした。
「だからスティーブン様がセレニティを好きだなんて嘘……あの手紙の内容は嘘なの」
「……!?」
「本当に選ばれたのはわたし。セレニティじゃない。わたしなんだから……」
ブツブツと呟くように言うジェシーの様子はいつもとは違い狂気に満ちていた。
そして『手紙』という言葉が引っ掛かる。
(まさか……ジェシーお姉様がスティーブン様の手紙を!?)
真意を確かめたいと思ったが扉が開く。
そこにはネルバー公爵と公爵夫人、そして暗い顔をしたスティーブンの姿があった。
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