第74話
「……っ、よかった!」
ハーモニーは柱に寄りかかりながらホッと息を吐き出してから、すぐにセレニティを思いきり抱きしめた。
「ハーモニー様、汚れてしまいます!折角、綺麗なドレスを着ているのに……」
「そんなこと今はどうでもいい。ありがとう、セレニティ…………本当にありがとう」
ハーモニーの腕が微かに震えている。
スティーブンも優しく微笑みながら「ありがとう」と、セレニティに告げた。
セレニティが大切に思っているハーモニーやスティーブンが悲しむことにならなくてよかったと心から思っていた。
少し離れた広間では音楽が流れている。
ナイジェルがブレンダを迎えにきてダンスに誘いにやって来た。
話したそうに唇を開いたナイジェルだったが、時間がないのかグッと堪えているように見えた。
ブレンダもナイジェルの手を取ると、セレニティ達を振り返りながらも広間へと向かった。
(二人が踊るところをわたくしも見たかったけれど、この格好では無理そうね)
二人を送り出してからセレニティ達は端の方に移動するが、スティーブンやハーモニーを誘おうと、事情を知らない令嬢達や令息達が鼻息荒く様子を伺っていることがわかる。
その中にジェシーがいるのも気になるところだ。
ハーモニーは年下の令嬢達から大人気だとブレンダに聞いたことがあった。
セレニティは場の空気を読んで口を開いた。
「わたくしはこんな格好ですし、今日はこの辺で失礼いたします」
「なら俺がセレニティを送ろう。それから父上のところに向かい報告をする」
「ああ、頼む。あとはアタシに任せてくれ」
「で、ですが……」
スティーブンの言葉に令嬢達は愕然としつつも、怒りを滲ませてセレニティを睨みつけた。
ナイジェルが婚約したことでスティーブンに人気が集中していることは知っていたが、以前とは比べものにならないくらいの圧力である。
自分の将来が掛かっている分必死なのだろう。
そして子爵家という立場がそうさせるのだろうか。
さすがのセレニティも引き気味である。
(これはいけませんわ……!)
セレニティは直感的にそう思っていたが、セレニティからスティーブンに残るように言うこともできない。
するとハーモニーが前に出る。
ニッコリと笑いながら令嬢達を牽制しているように見える。
そんな時、スティーブンがセレニティを庇うように前に出る。
「俺は君達にハッキリとここで宣言しておく。セレニティは我々、ネルバー公爵家の命の恩人だ。セレニティを害するものはネルバー公爵家を敵に回すものと思え」
「…………!」
「セレニティを傷つける者を絶対に許さない。二度とセレニティにそのような態度をとらないでくれ。次からは容赦しない」
「「「……!?」」」
スティーブンがセレニティを庇い、拒絶したことがショックだったのだろう。
令嬢達の顔が泣きそうになっているのだが、ハーモニーが追い討ちをかけるようにコツコツとヒールを鳴らして前に出る。
「セレニティは白百合騎士団の大切な仲間だ。今まではセレニティが大丈夫だというから放っておいたが、これからセレニティに手を出すようならば白百合騎士団とアタシを敵に回すことと同義…………お前達にその覚悟はあるのか?」
スティーブンとハーモニーの圧力に顔を引き攣らせている。
もうセレニティを睨みつけているものは誰もいない。
しかし一部の令息達は迫力満点のハーモニーの姿を見て喜んでいるようだ。
「い、いえ……!」
「なんでもありませんわ!ねぇ?」
「そっ、そうですわね!行きましょう」
ハーモニーとスティーブンの言葉を聞いて令嬢達はお辞儀をしてそそくさと去っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます