第59話
(わたくしが助けになれたらいいのだけれど……)
そのあまりの勢いにスティーブンは以前のようにセレニティにパートナーを頼むことをやめていた。
セレニティに危害を及ぼさないようにするためだろう。
しかし学園にいる十七、十八歳の間は令嬢達にとっては最後のチャンス。
大抵の令嬢と令息は婚約しているが、学園にいる間に婚約まで持っていけなければ間違いなく『売れ残り』と言われてしまう。
そして社交界でジェシーの噂を聞いたり、セレニティをずっとパーティーに誘い続けているスティーブンを間近で見たりしていた両親のジェシーへの期待は薄れてなくなっていた。
そろそろジェシーに現実を見るように諭しているようだが、一切聞く耳を持たないようでお手上げ状態。
両親もスティーブンに婚約者ができるまで待つつもりのようだ。
そしてセレニティの周りでも婚約が決まる令嬢令息達も多い。
ジェシーに比べたらまだ余裕があるからか、まだ何も言われていない。
ジェシーもこれだけスティーブンと一緒にいるのにも関わらず、婚約する素振りも見せないセレニティをもう敵視することはなかった。
騎士としてはかなり腕をあげていたセレニティは最近、トリシャの護衛につくことも増えていた。
そこで国王や王妃とも直接顔を合わせて「トリシャを頼む」と直々に頼まれたセレニティはこの仕事にやりがいを感じていた。
ブレンダやスティーブン、ナイジェルは学園に通っているため、ハーモニーやトリシャと共にいる機会が多くなると、自然に城に出入りするのも増えてきた。
そこでセレニティはあることを耳にする。
もうすぐ王国の建国記念に大規模なイベントが開催される。
国王や王族が王都を凱旋するそうで、城の中はその準備に追われていた。
勿論、スティーブンやハーモニーもこの式典には護衛として参加することになる。
そして三年経ってもハッキリと覚えていることがあった。
それはスティーブンの父であり国王の護衛をしているネルバー公爵の死についてである。
セレニティの運命は小説とは大きく違っている。
ならばネルバー公爵のこともどうにかできるのではと思っていた。
しかしどのタイミングで何が死因となりネルバー公爵が亡くなってしまうのかが書かれていなかったため、どう動けばいいかはわからない。
わかっているのは国王を守って怪我をしてしまうということと、それがこの式典だということだけだ。
(今のわたくしに何ができるのかしら……)
結末を知りながら、何もできないというのは悔しいではないか。
セレニティはトリシャとハーモニーになんとか警護に参加できないかを頼んでいた。
「わたくしは構わないけれど……」
「だがまだ早いのではないか?」
「やはり実績が大切だと思うのです!ハーモニー隊長もそう言っていたではありませんか」
「それはそうだが……大きなイベントだ。まだセレニティには危険ではないのか?」
「フフ、ハーモニーったらセレニティが心配で可愛くて仕方ないのね」
「トリシャ……!」
ハーモニーが焦ったように声を上げた。
白百合騎士団で一番幼いこともあってか、未だに子供扱いされることも多い。
セレニティは期待を込めてキラキラした瞳でハーモニーを見つめていた。
この視線にハーモニーが弱いことは知っている。
トリシャは口元を押さえて笑っている。
咳払いしたハーモニーはセレニティに視線を合わせるように膝をついた。
「とりあえずは父に聞いてみるとしよう」
「ありがとうございます!」
ハーモニーはネルバー公爵に確認を取り、すぐに返事をくれた。
人手はいくらあってもいいということで、セレニティも参加させてもらうことになり、トリシャの馬車周辺の警護をハーモニーと任されることになった。
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